牛のC型およびD型インフルエンザウイルス
(IASR Vol. 45 p195-197: 2024年11月号)
2024年3月以降、米国でA(H5N1)亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが、複数の州で乳牛に感染し、猫や人への伝播も報告された。従前、A型インフルエンザウイルスの牛への感受性は低いと認識されていたが、本事例はその宿主域の拡がりを懸念させる。一方、2016年にInternational Committee on Taxonomy of Viruses(ICTV: 国際ウイルス分類委員会)に登録されたD型インフルエンザウイルスは牛を主要な宿主とする1,2)。さらに最近になって、ヒトの病原体として知られるC型インフルエンザウイルスが牛に感染することがわかってきた2,3)。C型およびD型インフルエンザウイルスは、A型やB型インフルエンザウイルスと異なり、7分節ゲノムで構成され、エンベロープにそれぞれ単一血清型とされるhemagglutinin-esterase-fusion(HEF)タンパク質をもつ。C型とD型インフルエンザウイルスのHEF間に抗原交叉性はない。
2011年にD型インフルエンザウイルスが米国で初めて検出されて以来1)、世界各国で疫学調査が実施され、牛や豚に加えて、羊、ヤギ、馬、ラクダなどの家畜に広く感染していること、さらに、牛産業に甚大な経済被害を及ぼしている牛呼吸器病症候群(bovine respiratory disease complex: BRDC)の病原体の1つであること、が判明した2)。BRDCは環境ストレス等の免疫低下時に、ウイルス感染を引き金に細菌の二次・混合感染で重篤化する牛の呼吸器複合病であり、肥育牛の死亡原因の上位を占めている。
私たちは、2016年から日本国内のD型インフルエンザウイルス浸潤状況を継続的に調査し、乳牛、肉牛含め、ほぼ全国的に抗体陽性農場・個体を検出するとともに4)、呼吸器疾患牛から複数のウイルス株の検出・分離に成功した5)。健康牛を含めた全体のD型インフルエンザウイルスに対する血清抗体陽性率は45%以上と高く、その常在性が推測される。したがって、D型インフルエンザウイルス自体の病原性はさほどではなく、あくまでBRDCの一要因としての関与が注目される。
HEF遺伝子を基にした進化系統解析により、わが国には海外株とは独立した山形16系統と山形19系統の2つのクレードに属するウイルス株が、地域差なく浸潤していることが明らかになった(図)。さらに、単クローン性抗体解析により、海外株と日本株の間にはHEF抗原性に単一血清型の範囲内ではあるが、明確な相違があることをみつけた6)。BRDC制御のため、D型インフルエンザウイルスに対するワクチン開発が期待されるが、適用地域に応じたワクチン株の選択に留意すべきである。
D型インフルエンザウイルスのヒトへの感染性については、特に牛と接触する職業人から特異抗体やウイルス遺伝子が高頻度で検出されたという報告もあるが、実際の呼吸器疾患患者からのウイルス分離例はない。おそらくはヒトにも感染するが、症状を出すまでの病原性はない、というのが現在の理解となっている。
C型インフルエンザウイルスの主要宿主はヒトであるが、豚からも一部検出されている2)。ヒトでの病原性や伝播性は、A型やB型ウイルスによる季節性インフルエンザより低いが、その原因の1つとしてレセプター(9-O-アセチルシアル酸)の違いが推測される。一方、D型インフルエンザウイルスも同じレセプターを利用し、結合試験では両ウイルス型ともヒトおよび牛由来の呼吸器上皮細胞に同じように吸着する。
2018年には、米国のBRDC牛(鼻腔スワブ約1,500検体)の4.2%からC型インフルエンザウイルス遺伝子が検出された3)。すべての陽性個体で他のウイルスや細菌との混合感染がみられている。なお、同じ検体群のD型インフルエンザウイルス遺伝子の陽性率は11.9%であった。検出された牛C型インフルエンザウイルスのM遺伝子系統解析では、既知のヒトウイルスとは異なるクレードを形成したが、ヒトウイルスから完全に独立した距離ではなかった(平均相同性95.5%)。したがって、C型インフルエンザウイルスの牛とヒトの間での伝播性については不明である。
私たちは、D型インフルエンザウイルス調査に用いたわが国の牛保存血清を用いてC型インフルエンザウイルス抗体を検索したところ、全体として約27%の陽性検体がみつかった。県別の陽性率は4-38%までとばらつきがあり、D型インフルエンザウイルスとの混合感染が多く検出された地域や、D型インフルエンザウイルスよりも高い陽性率を示した地域もあった。これは、わが国の牛での初めてのC型インフルエンザウイルス感染の検出になるが、そのBRDCへの関与については不明である。
これまでの国内外の報告から、C型およびD型インフルエンザウイルスは家畜動物、特に牛の呼吸器疾患に関与する病原体である可能性は高く、獣医領域においては、今後ワクチン開発を含めた何らかの対策が必要になると思われる。一方、D型インフルエンザウイルスについては公衆衛生の観点からは特に重視すべき病原体ではないと現時点では認識される。また、現在流通している抗インフルエンザ薬は、D型インフルエンザウイルスに対しても有効である7)。しかしながら、変異が常であるインフルエンザウイルスという身上、C型およびD型インフルエンザウイルスの流行動向については継続的な監視が求められる。
参考文献
- Hause BM, et al., PloS Pathog 9: e1003176, 2013
- Sreenivasan CC, et al., Pathogens 10: 1583, 2021
- Zhang H, et al., Emerg Infect Dis 24: 1926, 2018
- Horimoto T, et al., PloS ONE 11: e0163828, 2016
- Murakami S, et al., Emerg Infect Dis 26: 168-171, 2020
- Katayama M, et al., J Virol 98: e0190823, 2024
- Takashita E, et al., Viruses 15: 244, 2023
東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻
大平浩輔 片山美沙 関根 渉 村上 晋 堀本泰介