プレパンデミックワクチン株の選定ならびにワクチンの準備状況について
(IASR Vol. 45 p197-198: 2024年11月号)
2023年度に、備蓄用プレパンデミックワクチンは、前年までのH7N9株〔A/Guangdong/17SF003/2016(IDCDC-RG56N)〕からH5N8株〔A/Astrakhan/3212/2020(IDCDC-RG71A)〕に変更となり、2024年度はH5N1株〔A/Ezo red fox/Hokkaido/1/2022(NIID-002)〕に変更となった。
備蓄ワクチンの基本的な考え方
わが国では、新型インフルエンザ等対策政府行動計画1)にのっとって、新型インフルエンザ等のパンデミック発生時の健康被害や経済損失を極力軽減させるための初動対策として、抗ウイルス薬ならびにワクチンの備蓄を行っている。備蓄するワクチン株の選定については、以下の4つの視点を踏まえ、危機管理上の重要性が高いワクチンが優先的に備蓄されている。
- 近年の鳥インフルエンザ発生の疫学的な状況
- パンデミック発生時の危険性
- パンデミックが発生した際の社会への影響
- 発生しているウイルスとワクチンの抗原性
2023/24シーズンの動物およびヒトでのインフルエンザ(H5亜型)の発生状況について
最近のH5亜型は、バングラデシュおよびインドの家禽でクレード2.3.2.1aが、カンボジア、ラオスならびにベトナムのアヒルと家禽でクレード2.3.2.1cが検出されている。最近、最も多く発生しているのはクレード2.3.4.4bであり、日本国内で発生した鳥でのH5感染例の大部分がこのクレードとなっている。また日本以外にも、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、北米、南米の多くの国の鳥から検出されている。さらにこのクレードは、野生および飼育下の哺乳類への感染のみならず、哺乳類間の感染が疑われているケースも認められている。そして米国では、広域に乳牛からウイルスが検出・分離されるとともに、未殺菌の感染牛の乳を飲んだ猫など、他の哺乳動物への伝播も確認されている。
2023年9月以降、ヒトでの発生は未同定も含め、中国で6件、カンボジアで14件、米国で14件、オーストラリア、メキシコおよびベトナムでそれぞれ1件の報告があった。感染が確認されているクレードは、中国で2.3.4.4bと2.3.4.4h、カンボジアで2.3.2.1c、米国で2.3.4.4b、オーストラリアで2.3.2.1a、そしてベトナムで2.3.2.1cであった。海外で発生したヒト感染例の多くは、動物との接触が確認されている。米国では家禽類や牛、他では家禽類等との接触歴があったことが報告されているが、ヒト-ヒト感染の報告はない2,3)。なお、これまで日本国内で動物からヒトへのインフルエンザの感染は確認されていない。
2023年度および2024年度の備蓄用ワクチン株の選定について
2022年度までの備蓄ワクチン株は、H7N9亜型のA/Guangdong/17SF003/2016(IDCDC-RG56N)であった。この亜型は、2013年より中国で発生したヒトに感染する鳥由来のインフルエンザウイルスで、感染した鶏などとの接触によってヒトに感染するとされた。その後中国では、家禽へのワクチン接種などの対策が行われ、2018年以降、ヒトでの感染事例はほとんどみられなくなった。そのため、H7N9亜型のヒトへの大規模な感染のリスクは減少したことが示唆された。一方、2021年以降、H5亜型の家禽や野鳥での発生は、それ以前の数年間と比較すると増加傾向を示している。さらに2022年には、日本国内で初めて複数の哺乳動物での感染が認められた。これらはすべてH5N1亜型で、クレード2.3.4.4bであった。近年、国内で家禽や野鳥で発生が認められているH5亜型の多くはこれと同じ2.3.4.4bであることから、これら哺乳動物が感染野鳥の捕食により感染したことが疑われる4)。このような発生状況を鑑み、2023年度の備蓄ワクチン株はこのクレードから選択することが検討された。備蓄ワクチン株は世界保健機構(WHO)のワクチン候補株(CVV)リストのうち、使用可能な株から選ばれる。2023年の3月時点では、リストに掲載されている株で使用可能な2.3.4.4bのCVVはA/Astrakhan/3212/2020(IDCDC-RG71A)(H5N8)(Astrakhan)のみであったが、この株のフェレット抗血清は同じ2.3.4.4bの多くの野外株と高い反応を示していた。そのため、2023年度の備蓄ワクチン株にはIDCDC-RG71A株が選ばれた5)。2024年度の備蓄ワクチン株は2023年度と同様、それまでに発生していたH5亜型の野生株の多くが2.3.4.4bであったことから、このクレードのCVVから選択することが検討された。IDCDC-RG71Aが選択された前年以降、WHOのCVVリストにはIDCDC-RG71A以外に同じAstrakhan株から作製されたCBER-RG8A、そしてA/American wigeon/South Carolina/22-000345-001/2021(IDCDC-RG78A)とA/Ezo red fox/Hokkaido/1/2022(NIID-002)が使用可能な株として追加された6,7)。NIID-002は、日本国内で分離されたH5N1亜型の株を用いて国立感染症研究所で作製されたCVVである。国内や海外で発生しているH5亜型の多くが2.3.4.4bであること、および国内の哺乳動物で発生したH5感染はすべてN1であったこと、またNIID-002に対するフェレット抗血清は近年の同クレードの株と高い反応性を有していたこと、等を踏まえ、2024年度の備蓄ワクチン株は2023年度のIDCDC-RG71AからNIID-002に変更となった8)。
参考文献
- 内閣官房, 新型インフルエンザ等対策政府行動計画〔令和6(2024)年4月24日時点案〕
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin/dai11_2024/gijisidai_2.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:1,611KB) - CDC, CDC A(H5N1) Bird Flu Response Update September 13, 2024
https://www.cdc.gov/bird-flu/spotlights/h5n1-response-09132024.html(外部サイトにリンクします) - WHO, Influenza at the human-animal interface, Summary and risk assessment, form 22 December 2023 to 26 February 2024
https://cdn.who.int/media/docs/default-source/influenza/human-animal-interface-risk-assessments/influenza_summary_ira_ha_interface_feb_2024.pdf?sfvrsn=9a552ade_2&download=true(外部サイトにリンクします)(PDF:268KB) - 国立感染症研究所, 高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染事例に関するリスクアセスメントと対応, 2024年4月17日最終更新(PDF:874KB)
- 第77回厚生科学審議会感染症部会 議事録
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33676.html(外部サイトにリンクします) - WHO, A(H5) non-A(H5N1) - Northern hemisphere 2024-2025
https://www.who.int/publications/m/item/a(h5)-non-a(h5n1)---northern-hemisphere-2024-2025(外部サイトにリンクします) - WHO, A(H5N1) - Northern hemisphere 2024-2025
https://www.who.int/publications/m/item/a(h5n1)---northern-hemisphere-2024-2025(外部サイトにリンクします) - 第85回厚生科学審議会感染症部会 議事録
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38605.html(外部サイトにリンクします)
国立感染症研究所
インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター
浅沼秀樹