胃腸炎集団事例解析におけるサポウイルス検出フローの見直しについて
(IASR Vol. 45 p209-211: 2024年12月号)
岩手県における胃腸炎集団事例でのサポウイルスの検出状況
サポウイルス(SaV)は、ノロウイルス(NoV)に次ぐウイルス性胃腸炎の原因ウイルスの1つである。岩手県における2012~2024年(7月末まで)の期間の感染性胃腸炎の集団発生事例は584事例あり、そのうちSaVが検出された事例は61事例であった。とくに2022年におけるSaVの集団発生事例は27例と多く、NoVの集団事例数21事例より多かった。集団発生事例61事例の発生場所は、55事例(90.2%)が保育園、こども園等であり、2事例が小学校、4事例が飲食店等の食中毒疑い事例(他自治体依頼含む)であった。また、61事例のうち19事例(31.1%)はSaVに加えて他の胃腸炎ウイルス(NoV15事例、アデノウイルス3事例、アストロウイルス1事例)が検出された重複感染事例であった。さらに、同一の事例で複数の遺伝子型のSaVが検出された事例が3事例あった(表)。
検出されたSaVの遺伝子型は、G1.1、G1.2、G2.1、G2.3、G2.8、G4.1、G5.1と多様であった。最も多く検出された遺伝子型は、単独での検出事例ではG1.1が22事例あり、SaV以外に他のウイルスが検出された重複感染事例では、G1.1およびG2.3がいずれも8事例あった。また、食中毒疑い4事例のうち3事例はG1.2であった。検出された遺伝子型を年別に比較すると、2012~2021年は発生件数が少なかったため、流行していた遺伝子型は不明であるが、2022年は、27事例中22事例(81.5%)でG1.1が検出されており、当該遺伝子型のSaVが流行していたと考えられた。2022年には全国でもSaVが非常に多く検出されており、NoVの検出数が前年の約6割に減少したのに対し、SaVは約7.6倍に増加していた1)。その遺伝子型は、G1がその多くを占めていた2)。他の自治体でも同様の報告がされている3,4)。
胃腸炎集団事例における検査フローの見直し
岩手県環境保健研究センターにおいて、2020年頃までは、胃腸炎の集団発生事例の際にNoVを第一選択として検査を実施し、NoVが不検出もしくは検出率が低い場合のみ、改めてSaVや他の胃腸炎ウイルスの検索を行っていた。つまりNoVが高率に検出されれば、NoVの遺伝子型別を行い、他の胃腸炎ウイルスは検索していなかった。
検査フローの見直しのきっかけとなったのは、2018および2019年に岩手県内で発生した3事例の胃腸炎集団発生事例であった。当初、いずれの事例もNoVを疑い検査を実施したが、不検出もしくはわずかな人数しかNoVは検出されなかった。このため、他の胃腸炎ウイルスの検査を行い、複数名からSaVが検出されたが、その陽性率は25-40%と、いずれも低いものであった5)。
その後、この3つのSaV集団感染事例については、2021年7月に追加された国立感染症研究所(感染研)の病原体検出マニュアル6)に記載のSaVの遺伝子群別マルチプレックス RT-PCRを実施したところ、陽性率が37.5-100%に向上し、同一の事例から複数の遺伝子型のSaV、また同一検体から複数の遺伝子型のSaVも検出された5)。
岩手県では、この3事例以降、胃腸炎集団事例の際の検査フローを見直し、現在はNoVに加えてSaVについてもreal-time PCR法で同時検査を実施し、SaVが陽性となった場合、感染研の病原体検出マニュアル サポウイルス(第1版)で示されているマルチプレックス genogrouping RT-PCRにより遺伝子群を確認し、さらにシーケンス反応により塩基配列を決定し、オンラインタイピングツール(https://calicivirustypingtool.cdc.gov/(外部サイトにリンクします))で遺伝子型を決定している。
まとめ
SaVの集団事例において、他のウイルスとの重複感染が約3割(19事例)にみられ、その8割近く(15事例)はNoVとの重複感染で(図)、従来の検査フローではNoVによる集団事例とされる可能性もあったことから、集団発生事例の原因ウイルスを探索する際には、NoVに加えて、SaVの検索を同時に行っていくことが望まれる。また、潜在的に他のウイルスとの重複感染があることを考慮することも必要であると考える。
参考文献
- 国立感染症研究所, IASR過去の集計表ウイルス, 胃腸炎ウイルス月別2022年
- 国立感染症研究所, IASR 月別サポウイルス遺伝子群別検出報告数, 2015/16-2022/23シーズン
- 瀬野智史ら, 千葉市環境保健研究所年報 第30号: 74-77, 2023
- 楠原 一ら, IASR 44: 62-64, 2023
- 高橋知子ら, IASR 43: 189-191, 2022
- 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル サポウイルス(第1版), 2021年7月
岩手県環境保健研究センター
高橋知子 梶田弘子 菊地のあ 佐藤直人