サポウイルスの分離・増殖系の確立と応用
(IASR Vol. 45 p221-223: 2024年12月号)
端緒
ヒト由来カリシウイルス〔ノロウイルス(NoV)・サポウイルス(SaV)〕については、長い間様々に人工培養・増殖が試みられてきたが、その成果は結実していなかった。SaVも発見から後述する2020年の我々の報告に至るまで、同様に培養方法はみつかっていなかった。著者も20年近く細々ではあるがNoV人工培養系について検討を続けていたが、成功に至ることはなかった。当初より培養成功の基準として、『古典的ではあるが誰もが確信に至る事象、すなわち(1)発症患者検体からの分離・増殖、(2)可能な限り発症状況を反映できる組織由来細胞で増殖、(3)継代培養により、精製・リソース化が可能となる』ということを課していた。
先行した米国オハイオ州立大でのブタ由来サポウイルス(PoSaV、cowden)の株化において、この培養系の土台となる細胞がLLC-PK1細胞(ブタ腎由来)であること1)、当時のプロトコルではウイルス収量や感染価測定系が芳しくなかったことから、新規培養系検索の共同研究開始と同時進行で、「ヒトSaV培養系への足がかり」のための探査も始めた。ブタ由来株化細胞は限られており、当初の基準をすべて満たすものではなかったが、ブタコロナウイルスの増殖支持細胞であるST細胞(ブタ精巣由来)での増殖および細胞変性効果(CPE)の明瞭な発現が確認され、また増殖サポート因子とされている胆汁酸については、主として用いられていたglycochenodeoxycholic acid(GCDCA)以外にも、いくつか使用可能なものがみつかった。これを足がかりに、まず「ヒト精巣由来細胞でもサポウイルスが増えないのか?」という点から戦略を組み、比較的汎用性が高いと考えられたヒト精巣腫瘍由来細胞NEC8での検討準備を始めた。
意外な盲点:検体確保、検出系、細胞維持
準備開始直後から課題に直面することとなる。第1の課題は「検討に耐えうるだけの陽性検体確保」である。これまで手掛けてきたNoVは比較的検体が収集しやすかったが、SaVについては、検査対応が自治体等によってまちまちであり、ロタウイルスのようにウイルス排出が大量でないこと、小児での感染例が多く、検体当たりの収量は遺伝子検査が賄えるだけの少量という場合がほとんどであった。手元には比較的検体量が確保できているものとして、SaVGI.1とSaVGIV.1の2種類のみであり、他の検体は増殖系が確立しない限りは使える状況ではなかった。
第2の課題は「増殖確認のための検出系について」である。SaV遺伝子検出系は多岐にわたっており、主たる4つのgenogroupを個別に検出できる系が希望であったため、当時存在したprimerの組み合わせ検討から始めることなった。その結果、陽性便検体のみならず、生活排水のサーベイにおいても高い特異性が示された。これには使用する増幅キットが感度・特異性に大きく影響することも判明し、これを機にサポウイルス病原体検出マニュアル整備に至ることになる2,3)。
第3の課題は「NEC8細胞の継続培養について」である。当該細胞は代謝が活発であり、それゆえ定着性が著しく不安定であった。少なくとも7日間の連続培養を目指していたため、培地種類選定や胆汁酸とのバランスなど、その条件検索にかなりの時間を要した。結果、7日間までの連続培養が可能となったため、ここでようやく陽性検体接種による増殖トライアル開始に至った。
NEC8細胞での限界とHuTu80細胞の台頭
トライアル開始からSaVG1.1およびSaVG4.1をグリココール酸(GlyCA)存在下で7日間培養すると、その培養上清中に各SaVの特異遺伝子の明瞭な増殖が認められた。これを機に上清の継代培養やスケールアップを行い、各SaVの増殖を確認したが、virionの存在を含め増殖の確証は得られなかった。唯一定量PCRによる培養上清の経時的シグナル増加がトレースできたのみとなった。またNEC8細胞もスケールアップなど、培養条件を大きく変更すると、7日間培養の再現が不安定となった。これまでも各種汎用細胞株で検証を重ねてきたが、培養での遺伝子シグナル増加は認められておらず、さらに新規汎用細胞を再検索せざるを得なかった。そうした中、サポウイルス感染者の症状として嘔吐があることから、十二指腸腫瘍由来のHuTu80細胞に着目することとなった。加えて、食品関連研究班での呼びかけで、自治体からSaV集団感染事例検体供与の協力もあり、大きな転換期を迎えることとなった。そしてHuTu80細胞によるSaVG1.1およびG2.3増殖の成功と多面的な解析を経て、2020年の論文発表に至った4)。
ウイルス性状と感染経路解明に向けたアップデート
2020年から4年後となる本年、合計15遺伝子型のSaV増殖とリソース化、培養条件の改善条件やvirionで作成した抗血清による各遺伝子型の抗原性について発表した5)。SaVG4.1については、いまだ有力な増殖手法に至らず、現在も模索中であるが、その突破口ともなる細胞上の感染候補因子解析が実を結びつつある。ヒトパレコウイルスでの技術検証や、細胞変性顕在化のcell-cloneを得られたことがadvantageとなった。その過程でG4.1が増殖しうる組織や、感染経路解明の一助となりうる可能性もみえてきている。また感染力価測定もcell-cloneや培地成分の検討により、感度・精度が大幅に改善されつつあり、不活化評価などもルーティン実施が可能な段階まできている。最初に掲げた培養成功の3つの基準をほぼ達成する形となり、「NoVの日陰的存在」であったSaVの実態解明幕開けとなった。今後の展開に大いに期待したい。
参考文献
- Parwani AV, et al., Arch Virol 120: 115-122, 1991
- Oka T, et al., Arch Virol 165: 2335-2340, 2020
- 病原体検出マニュアルサポウイルス(第1版)2021年7月(PDF:387 KB)
- Takagi H, et al., PNAS 117: 32078-32085, 2020
- Oka T, et al., J Virol 98: e0063924, 2024
国立感染症研究所
安全管理研究センター
高木弘隆
ウイルス第二部
岡 智一郎