自家NK細胞療法関連Pseudoxanthomonas mexicana敗血症事例、2024年10月
公開日:2024年12月24日
(速報掲載日 2024/12/24)
2024年9月30日、医療機関Aで自家NK細胞療法(以下「当該療法」という)を受けた患者2名が帰宅中に体調不良となり、病院Xに緊急搬送され、敗血症の診断でICUに入院した。10月3日、特定細胞加工物を製造した医療機関Bの細胞培養加工施設(以下「CPC」という)が、医療機関Aに上記2名の特定細胞加工物の無菌試験検体が陽性となったことを報告した。その後、同検体からPseudoxanthomonas mexicanaが同定された。P. mexicanaは土壌を含む環境中に広く存在している好気性グラム陰性桿菌である
医療機関Aは、当該療法の計画の審査を行う認定再生医療等委員会へ本事例の発生を報告し、10月22日に当該委員会が本事例についての審査を行った。医療機関AおよびCPCは、10月24日に厚生労働省(厚労省)に疾病等報告および重大事態報告を提出した。厚労省は、本事例の発生を覚知後、当該療法の提供が継続されていたことから、保健衛生上の危害の発生または拡大を防止するため必要があると認め、10月25日に医療機関AおよびCPCに対して再生医療等安全性確保法に基づく緊急命令を発令した。国立感染症研究所は、全体像の把握と感染経路の検討のため、同省の依頼を受け、10月29日から2日間、同省および医薬品医療機器総合機構(PMDA)による立入検査への調査協力を行った。
2症例は、生来健康な成人であり、医療機関Bにおいて細胞採取(採血)が行われ、医療機関Aで投与を受けていた。症例1は投与4カ月前に医療機関Bで採血を行い、その検体はCPCで細胞培養の上凍結された。投与のためCPCで解凍の後に再培養されたが、医療機関Bからの投与日変更と再凍結指示があったため、さらに再凍結された。その後再解凍を経て、投与2日前の中間体無菌試験と投与1日前の出荷前無菌試験の後、特定細胞加工物として調整後投与当日に医療機関Aに納品された。症例1の病院X入院時の血液培養からはP. mexicanaとChryseobacterium taihuenseが分離された(表)。症例2は投与1カ月前に医療機関Bで採血を行い、CPCで培養された細胞は凍結、解凍を経て、投与2日前に中間体無菌試験と投与1日前の出荷前無菌試験の後、特定細胞加工物として調整後、投与日に医療機関Aに納品された。症例2の病院X入院時の血液培養からはP. mexicanaが分離された。2症例の特定細胞加工物はCPCから、医療機関A職員により、保冷剤入りのポーターで輸送され、医療機関Aにおいて、特定細胞加工物に明らかな肉眼的汚染がないことが確認された後、冷蔵庫保管を経て、同日中に2症例に投与された。医療機関Aへの輸送時の温度記録は確認できなかった。医療機関Aの立入検査では、同医療機関内で2検体が同時に汚染される機会は乏しかったと考えられた。CPCでは、正確な培養作業や清掃の工程と実施者の記録が確認できなかったが、立入検査時の聞き取りからは、医療機関Bでの採血時、CPCでの受入時無菌試験検体分注時、凍結・解凍の各工程、最終製剤の加工過程などの、汚染が起こりうる複数の操作が確認された。当所で残余検体を回収し、培養検査を実施したところ、保存されていた受入時の血液検体からは症例2でP. mexicanaが分離され、出荷前無菌試験の検体からは2症例ともP. mexicanaが分離された(表)。また、症例に投与された特定細胞加工物の点滴バッグの残液からは、症例1用はP. mexicanaとC. taihuenseが、症例2用はP. mexicanaが分離された。また、本事例を受け、CPCから外部検査機関に提出されていた解凍過程で用いた恒温水槽の水の検体を回収し、当所で検査したところ、2症例からの血液培養分離菌は分離されなかった。調整室(無菌室)を含む試験検査室の他の環境表面からは2症例の血液培養で分離された菌は分離されなかった。ただし、調整室については環境検体採取時にはすでに清掃済みであった。
本事例ではCPCで汚染された特定細胞加工物を投与された2名がP. mexicanaによる敗血症を発症したと考えられた。症例2の検体採取からCPCでの受入時の無菌試験までの段階でのP. mexicanaの混入と症例1検体との交差汚染の少なくとも2回以上の汚染が起こっていたと考えられた。本調査の制限として、実際に行われていた作業工程が十分把握できず、他に汚染があり得た工程があった可能性がある。
同様の症例の発生予防には、CPCにおける操作ごとの手指衛生を中心とした適切な清潔操作と環境の清掃や消毒の手順書の作成、手順に関する定期的な職員の研修・訓練の確実な実施、迅速かつ信頼できる無菌試験体制の確立、搬送時の適切な温度管理、治療後の適切な健康観察、適切な逸脱管理、時に認定再生医療等委員会への迅速な報告、各手順における適切な記録と保管が重要であると考えられた。
国立感染症研究所