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アニサキスによる健康被害のひとつ:アニサキスアレルギーについて

公開日:2025年1月28日

(IASR Vol. 46 p4-6: 2025年1月号

はじめに

いまや国民の2人に1人は何らかのアレルギー疾患に罹患している、とされている。成人領域の食物アレルギーは英国や中国での疫学調査で全人口の6%程度の有病率があるとされ、近年増加していることが推察されている1,2)。食物の摂取後に生じるアレルギーのうち、ヒトにとって栄養成分となる食物によるアレルギーを食物アレルギー、人為的もしくは偶発的に混入した本来はヒトにとって栄養になり得ないもの(病原微生物や添加物など)によるアレルギーを食物関連アレルギーと呼称している。魚介類に寄生するアニサキスAnisakis spp.由来のアレルゲンを経口摂取した後に生じるアレルギーがアニサキスアレルギーであり、日本の食物アレルギー診療ガイドラインの中では食物関連アレルギーに分類されている3)

アニサキスアレルギーとは

アニサキスによる健康被害として、アニサキスが刺入した胃や腸などの消化管を病変の主座とするアニサキス症が最も有名であるが、近年、医師や患者にも周知が進みつつある病態としてアニサキスアレルギーが挙げられる。アニサキスアレルギーは、血液中のアニサキス特異的IgE抗体値が上昇している患者(アニサキス由来のアレルゲンに感作されている患者)の一部で発症するアレルギー反応であり、文献上は1990年に本邦から初報告がされた疾患である4)。IgEが介在した即時型アレルギーの病態では、通常、抗原の摂取(曝露)から発症まで数分~2時間程度(多くは15分以内)であるが、アニサキスアレルギーでは、IgE介在型(即時型)アレルギーを病態とするにもかかわらず、海産物やその加工品の摂取から数時間~半日程度が経過してから発症することが多い。症状は皮膚症状(皮膚掻痒感、発赤、皮疹など)、粘膜症状(眼瞼腫脹など)、呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴など)、消化器症状(腹痛、嘔吐、下痢など)、循環器症状(頻脈、動悸、血圧低下など)と多彩で、ときに全身性の重症アレルギーであるアナフィラキシーショックを生じる。当施設をはじめ、都心部に所在するアレルギー診療の専門医療機関における成人アナフィラキシーショック症例の誘因を解析した調査では、調査が実施された時期や施設、研究手法に差違があるため割合に幅があるものの、誘因の5.3-23.3%をアニサキスアレルギーが占めていた5-8)

診断の“難しさ”

スペインにおける成人のアナフィラキシーの調査で、後にアニサキスアレルギーと診断された症例の18.3%では、患者自身が同病態を疑った症例は皆無であり、救急診療医が同病態と診断した割合も3.3%と低いことが示された9)。アニサキスアレルギー診療に熟知した医師が在籍する専門医療機関以外では、実際にはアニサキスアレルギーに罹患している症例を魚類(魚肉)アレルギーや甲殻類アレルギー、もしくは原因不明のアレルギーと誤診されていることが少なくない。救急医療機関において、成人症例で魚介類の摂取後に生じたアナフィラキシーショック、とくに最後の食事から数時間~半日後に発症したケースでは、アニサキスアレルギーを想定した検査や食事指導を提案すべき、と著者らは考え、若手医師や非専門医への周知を推進している。診療や診断方法の標準化が進んでいないことが、アニサキスアレルギーの診断を困難にしている最大の理由である。成人患者では食事内容が多様なこと、抗原の曝露から発症までの時間が長いため病歴で聴取した魚介類の摂食とアレルギー反応の因果関係を結びつけることが難しいこと、衛生面や技術面の問題から食物負荷試験や皮膚試験が困難であること、単回のアニサキス特異的IgE抗体値の上昇(感作)のみでは過去のアニサキス症とアニサキスアレルギーを鑑別することが難しいこと10)、などの理由も非専門医のみならずアレルギーのエキスパートでさえ診療に苦慮する要因といえよう。しかしながら、アニサキス特異的IgE抗体値は良好な感度を示すことに加え、アニサキス症の発症からアニサキス特異的IgE抗体値が1~3カ月かけて上昇することが知られており、アナフィラキシーの発症時から一定間隔で特異的IgE抗体値の推移を確認することで、アナフィラキシーの発症直前にアニサキス症が関与したかどうか、すなわち誘因がアニサキスの曝露かどうかを推察することができる11)。実臨床での経験上、アニサキス特異的IgE抗体値はアニサキスアレルギーの発症直後には上昇しない時間帯(不応期と呼ばれる)が少なからず存在し、またアナフィラキシーショックに対して副腎皮質ステロイドやH1拮抗薬などが投与されていると抗原特異的IgE値が抑制されることもあるため、上述したようなフォローアップが求められる。また、患者自身が疑いを持つことで受療行動やかかりつけ医に精査を依頼することが促されれば、早期に診断され、適切な食事指導を受けられる可能性が増すため、アニサキスアレルギーの患者自身が専門医療や研究に関与する契機として、著者らは一般社団法人アニサキスアレルギー協会を設立し患者教育に努めている12)

管理・治療、発症予防をどうすべきか?

成書の大半は、アニサキスアレルギーと診断された場合には「魚介類を除去すること」としか記載されておらず、除去の程度や期間について明確にされていない。生きた状態でヒトの消化管粘膜に刺入することを回避できれば発症を未然に防ぐことができるアニサキス症と異なり、蛋白質であるアニサキスアレルゲンが人体内に食物とともに取り込まれて発症するアニサキスアレルギーでは、魚介類の生食を避けていても再発した症例も実臨床で存在する。アナフィラキシーショックの再発予防やアニサキス特異的IgE抗体値の上昇抑制という観点からは、加熱した海産物の摂取は許容可能とする調査結果も示されている13)。感作しているアレルゲンコンポーネントの差異により、感作しているだけなのか未発症かどうかの判断14)や、患者の予後診断が可能となる技術の開発が期待される。

南欧の中でも魚介類の生食を愛好する食文化が浸透している地域の住民や水産加工業などの従事年数が長い集団では、アニサキスの感作率が高い傾向を示すことが知られている15)。寿司職人や日本料理の調理人など、職業上魚介類の取り扱い頻度が多くアニサキスに曝露するリスクが高いアニサキスアレルギー患者では、6カ月間魚介類を完全除去した後のアニサキス特異的IgE抗体値の減少率が対照群と比して小さかった16)。また、日本の一般市民を対象としたアンケート調査では、アニサキスアレルギーと診断された者やアニサキスアレルギーの罹患を疑われる者の集団では、水産加工業やペットショップ・水族館など水棲生物を扱う職業に従事している、海洋で遊ぶ趣味を嗜好すると回答した者の割合が多かった17)。こうしたことから、アニサキスアレルゲンは食事を介してだけでなく、生活環境や職業環境にも存在し、経皮的あるいは経粘膜的に曝露している可能性が推察される。宿主サイドのリスク評価のみならず、外的環境サイドのリスクを知ることにより、アニサキスアレルギーの発症を予防する方法を見出す糸口になるのではないかと考えている。

参考文献

  1. Patterns and Prevalence of Adult Food Allergy
    https://webarchive.nationalarchives.gov.uk/ukgwa/20240805015515/https://www.food.gov.uk/research/food-hypersensitivity/patterns-and-prevalence-of-adult-food-allergy (外部サイトにリンクします)(2024年12月20日閲覧)
  2. Wang J, et al., Nutrients 14: 5181, 2022
  3. 日本小児アレルギー学会, 食物アレルギー診療ガイドライン2021, 2021
  4. Kasuya S, et al., Lancet 335: 665, 1990
  5. 宇野知輝ら, 日臨救急医会誌 24: 761-772, 2021
  6. 今井祥恵ら, アレルギー・免疫 23: 1536-1541, 2016
  7. 立澤直子ら, アレルギー 69: 900-908, 2020
  8. 城 理沙ら, アレルギー 68: 43-47, 2019
  9. Álvarez-Perea A, et al., J Investig Allergol Clin Immunol 25: 288-294, 2015
  10. Matteo P, Allergol Immunopathol(Madr) 51: 98-109, 2023
  11. Martínez-Aranguren MR, et al., J Investig Allergol Clin Immunol 24: 431-438, 2014
  12. 一般社団法人アニサキスアレルギー協会
    https://anisakis-allergy.or.jp/(外部サイトにリンクします)(2024年12月20日閲覧)
  13. Vecillas L, Sci Rep 10: 11275, 2020
  14. Hamada Y, et al., Allergol Int 73: 171-173, 2024
  15. Walter M, et al., PLoS One 13: e0203671, 2018
  16. 鈴木慎太郎ら, 日職業・環境アレルギー会誌 30: 49-60, 2023
  17. 厚生労働科学研究費補助金(免疫・アレルギー疾患政策研究事業)分担研究報告書, 「アニサキス等の食物関連アレルギーに関する調査」
    https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202213004A-buntan2.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:607 KB)2024年12月20日閲覧)

昭和大学
医学部医学教育学講座
鈴木慎太郎

内科学講座呼吸器・アレルギー内科学部門
能條 眞

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