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淡水魚が感染源となる顎口虫症

(IASR Vol.46 p6-7:2025年1月号)

2022年9月~2023年5月にかけて、青森県東部地方にて皮膚爬行症の集団発生事例があった。今回の発症患者の多くは、シラウオを加熱せずに喫食していた1)。さらに、患者のうち1人の皮膚組織切片から日本顎口虫が検出された。これらのことから、シラウオが感染源と疑われる顎口虫症の発生事例として知られることとなった。

日本の顎口虫類とその生活史

国内で確認されている顎口虫類は、有棘顎口虫、ドロレス顎口虫、日本顎口虫および剛棘顎口虫の4種である。有棘顎口虫、ドロレス顎口虫および日本顎口虫は日本に分布しているが、剛棘顎口虫は台湾、中国、韓国などからの輸入ドジョウで確認されている2-4))。

終宿主の成虫から産出された虫卵が糞便とともに体外に排出されると、10日程度で第2期幼虫が卵内に形成される。第2期幼虫は水中で孵化し、第1中間宿主であるケンミジンコ類に捕食され、第3前期幼虫へ発育する。その後、ケンミジンコ類が第2中間宿主であるドジョウなどの魚類に捕食されて、第3後期幼虫となる。第2中間宿主およびそれを捕食した待機宿主が終宿主に捕食されると、終宿主の体内で成虫となり生活史が成立する。顎口虫の第2中間宿主および待機宿主は魚類、両生類、爬虫類、鳥類および哺乳類と広い。

顎口虫症

日本では、顎口虫による人体症例は2004年までに3,227例報告されている5)。戦後1946~1965年にかけて有棘顎口虫を主としたピークがあり、1985年以降はドロレス顎口虫や日本顎口虫を主として年間10例以下で推移していた4,5)。ヒトへの感染源については、顎口虫の生活史や生食歴から、第2中間宿主および待機宿主である種々の淡水魚やマムシ、鶏、イノシシなどの生食が疑われているが、ほとんどの事例で特定には至っていない4))。

ヒトに有棘顎口虫の第3後期幼虫が感染すると、幼虫は深部皮下組織に移動するため、症状のほとんどが遊走性限局性皮膚腫脹となる。稀に中枢神経や眼に迷入し、麻痺や失明などの重篤な症状を引き起こす。ドロレス顎口虫、日本顎口虫および剛棘顎口虫の幼虫は比較的皮下の浅い場所を移動するため、皮膚爬行症(クリーピング病)が主症状となることが多く、無治療でも数カ月で自然治癒するとされる6)。前述の青森県の事例においても、眼や脳神経系へ迷入した症例、再発や入院した症例はなく、いずれの患者も症状が軽快で回復した1)

シラウオ

シラウオとシロウオは似た名称と外見をもつことから混同されることが多いが、「踊り食い」で有名なのはハゼ科のシロウオ「素魚」、シラウオ「白魚」はシラウオ科で全く別の種類である。シラウオは北海道、青森県、秋田県、茨城県、島根県などが主な産地で、一回産卵型の一年魚である。ケンミジンコ類やミジンコ類を主な食物とし、河口域や内湾の沿岸部等の汽水域周辺に生息している。青森県の小川原湖では、5~6月に産卵期を迎え、産卵期を挟んだ9月~翌年3月の秋漁と4~6月の春漁で漁獲されており、シラウオの生食も古くから周辺地域の食文化として根付いていた。

感染源

2022年までシラウオから顎口虫が検出された例はなく、実験的な感染報告もない。青森県東部地方の集団発生が起こった同時期の小川原湖産生食用シラウオ1.0kgを検査しても、顎口虫は検出されなかった1)。その後、小川原湖漁協の協力のもと、定期的にシラウオの顎口虫寄生検査を実施しているが、2022年秋から越冬した2023年春のシラウオ8.0kg、2023年秋と2024年春(次世代)の18.7kg、2024年秋(次々世代)の2.1kg、すべてにおいて顎口虫は検出されていない。

過去1991~1993年に、青森県と秋田県北部において淡水魚の生食による日本顎口虫による皮膚爬行症が7例発生した7)。この発生前の1991年9月に、青森県では「りんご台風」とも称される台風19号による被害があった。今回の青森県東部地方の事例においても、2021年8月に台風9号、2022年8月に大雨が発生し、河川の氾濫などの被害があった。これらのことから、台風や大雨などの気象条件により、通年よりも多くの顎口虫の虫卵が水中に流れ込み、顎口虫に感染した中間宿主の数が一時的に多くなったと考えられる。今後、発生予防および感染経路の特定のためにも、台風や大雨などの天候の崩れ後の調査が重要となる。

顎口虫症は淡水魚を利用した地域食文化と関連が高い。顎口虫は日本各地に分布していることから、どの地域においても淡水魚の生食は十分に注意すべきである。

参考文献

  1. 東海林明子ら、感染症学雑誌 98:408-414, 2024
  2. Oyamada T, et al., Jpn J Parasitol 44:128-132, 1995
  3. 赤羽啓栄、日本における寄生虫学の研究 7:475-495, 1999
    https://kiseichu-archives.blogspot.com/p/progress-med-parasitol-japan-j.html(外部サイトにリンクします)
  4. 安藤勝彦、日本における寄生虫学の研究 7:497-509, 1999
    https://kiseichu-archives.blogspot.com/p/progress-med-parasitol-japan-j.html(外部サイトにリンクします)
  5. 内閣府食品安全委員会、31.顎口虫
    https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H22_31.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:589KB)
  6. 藤田絋一郎、別冊感染症症候群II 23:458-460、日本臨床、1999
  7. 宮内裕子ら、臨床皮膚科 50:489-492, 1996

北里大学獣医学部獣医寄生虫学研究室
筏井宏実

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