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国立健康危機管理研究機構
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魚類が媒介する条虫

(IASR Vol.46 p8-9:2025年1月号)

食品を介してヒトに感染し、 健康被害をもたらす条虫類は、 円葉目または裂頭条虫目のいずれかに属する。前者には食肉を感染源とする無鉤条虫(牛肉)や有鉤条虫(豚肉)が含まれ、 魚類を感染源とする裂頭条虫類は後者に含まれる。このうち、 ヒトの成虫寄生例を認める裂頭条虫は3属16種であるが、 種同定が疑わしい報告も存在し、 現時点で確実といえる人体寄生種は次の6種、 すなわち太平洋裂頭条虫(Adenocephalus pacificus)、 Dibothriocephalus dendriticus、 広節裂頭条虫(Dib. latus)、 日本海裂頭条虫(Dib. nihonkaiensis)、 クジラ複殖門条虫(Diphyllobothrium balaenopterae)、 イルカ裂頭条虫(Dip. stemmacephalum)である(1,2)

裂頭条虫の成虫は、 頭節とそれに続く頸部、 さらにその後方に扁平な片節が多数連なる片節連体からなり、 きしめん様の形態を呈する。頭節には固着器官として一対の吸溝があり、 終宿主の小腸粘膜に吸着して寄生する。頸部は成長点で、 未熟片節を新生する。成熟片節内には雌雄生殖器が備わり、 自家または他家受精による有性生殖を行って虫卵を産生する。糞便とともに外界へ放出された虫卵は、 第一中間宿主のカイアシ類(動物性プランクトンの仲間)を経て、 第二中間宿主である魚類の体内で幼虫(プレロセルコイド)に発育し、 終宿主への感染機会を待つ。裂頭条虫類の生活環には解明されていない点が多く、 終宿主からの成虫検出のみで、 いまだに第一・第二中間宿主が未発見の種も珍しくない。

裂頭条虫症は全世界で2,000万人以上の感染者がいるとの推定もあるが1)、 実態は不明である。国内における発生について、 国立感染症研究所(感染研)ではレセプトデータを用いて推定を行っている。レセプトとは医療機関が健康保険組合等に提出する診療報酬明細書で、 診断された本症は傷病名として記載される。厚生労働省匿名医療保険等関連情報データベースや民間商用データベースを検討した結果、 年間発生数は300-500例と推定された。ただし、 レセプトからは原因種の詳細は分からない。そこで感染研が直近10年(2015年1月~2023年11月)に遺伝子検査依頼を受けた裂頭条虫症合計127例の同定結果をみると、 日本海裂頭条虫が120例、 クジラ複殖門条虫が6例、 イルカ裂頭条虫が1例であった。これは症例報告に基づく検討3)ともほぼ一致し、 国内で発生する裂頭条虫症は大部分が日本海裂頭条虫によると考えられる。なお、 厚生労働省食中毒統計作成要領には病因物質として「その他の寄生虫」に「条虫」も示されているが、 現在まで食中毒統計に収載された条虫症は1件しかない。これは2019年に高知県で発生した事例で、 日本海裂頭条虫によるものであった4)

裂頭条虫症の臨床症状は、 広節裂頭条虫によるビタミンB12欠乏性貧血を除き、 特異な症状はなく、 下痢や腹痛などの一般的な消化器症状がみられるにとどまる。感染者は肛門から下垂する片節連体に気づいて受診につながることが多い。治療はプラジクアンテルの経口投与が第一選択だが、 保険適用外である。詳細はAMED熱帯病治療薬研究班『寄生虫症薬物治療の手引き』(https://www.nettai.org/資料集/(外部サイトにリンクします))を参照されたい。

本症の最も確実な予防法は、 感染源となる魚類の非加熱調理品や不完全加熱調理品を摂取しないことである。米国食品医薬品局は魚類の寄生虫の一般的な殺滅法として、 完全加熱(内部温度63℃で15秒)以外に、 (1)-20℃以下で7日間保存、 (2)-35℃以下で凍結後、 同温度で15時間保存、 (3)-35℃以下で凍結後、 -20℃以下で24時間保存、 という冷凍条件を提示している5)

ヨーロッパでは北米産の輸入サケによる日本海裂頭条虫症が発生している6)。南米にはもともと広節裂頭条虫は分布していなかったが、 18世紀頃に広節裂頭条虫に感染したヨーロッパ系移民によって持ち込まれたと考えられており、 在来魚を第二中間宿主として定着し、 さらに養殖や遊漁目的で北半球から導入されたサケ科魚類に汚染が拡大した7)。ブラジルではチリ産養殖サケが感染源と推定される広節裂頭条虫症が発生している8)。輸入生鮮魚を介した国内感染は日本でも起こりうる。未利用魚や低利用魚の活用にともない新たな裂頭条虫症が出現する可能性も否定できず、 発生動向を注意深く監視していく必要がある。

参考文献

  1. Scholz T, Kuchta R, Food Waterborne Parasitol 4:23-38, 2016
  2. 加茂 甫, 裂頭条虫の同定のためのハンドブック, 現代企画, 1999
  3. 山根洋右, 日本における寄生虫学の研究 7:229-242, 1999
    https://kiseichu-archives.blogspot.com/p/progress-med-parasitol-japan-j.html(外部サイトにリンクします)
  4. 森嶋康之ら, 日本臨床寄生虫学会誌 32:46-48, 2021
  5. FDA, Fish and fishery products hazards and controls guidance, 2022 Edition, 91–98, 2024
    https://www.fda.gov/media/80777/download(外部サイトにリンクします)(PDF:1.9MB)(2024年11月22日閲覧)
  6. Autier B, et al., Parasites Vectors 12:267, 2019
  7. Yamasaki H, et al., Parasitol Int 96:102767, 2023
  8. Cabello FC, Emerg Infect Dis 13:169-171, 2007

国立感染症研究所寄生動物部
森嶋康之 山崎 浩 杉山 広

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