国内分離CREに対する新規抗菌薬の薬剤感受性
(IASR Vol. 46 p35-36: 2025年2月号)
多剤耐性グラム陰性桿菌による感染症は世界的な問題であり, 治療の選択肢が極めて限られている。特に, 世界保健機関(WHO)の優先すべき病原体リスト1)に含まれているカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(carbapenem-resistant Enterobacterales: CRE)は, 既存の抗菌薬が効果を示さないことも多いため, 新規抗菌薬の開発, 市場への導入が求められている。近年, 日本国内においてセフトロザン/タゾバクタム(CTLZ/TAZ: 製造販売承認2019年1月), イミペネム/レレバクタム(IPM/REL: 製造販売承認2021年6月), セフィデロコル(CFDC: 製造販売承認2023年11月), セフタジジム/アビバクタム(CAZ/AVI: 製造販売承認2024年6月)などの新規抗菌薬の製造販売が相次いで承認された。CAZ/AVIは欧米諸国で優勢なKPCおよびOXA-48-likeβ-ラクタマーゼ産生株に対して有効だが2), 日本ではIMP型メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生株の割合が多いため3), MBLを阻害しないアビバクタム4)の合剤であるCAZ/AVIはMBL産生株には効果を示さない2)。このように, 薬剤ごとの感性率は各地域で優勢なβ-ラクタマーゼの種類の影響を受けてばらつく可能性がある。そのため, 新規抗菌薬の導入効果を事前に予測するには, 単に海外からの報告を取り入れるだけでは不十分であり, 日本国内の状況を反映した検討が必要である。本論では, これらの新規抗菌薬の薬剤感受性を, 薬剤耐性菌サーベイランスJapan Antimicrobial Resistant Bacterial Surveillance(JARBS)で収集されたカルバペネマーゼ産生菌およびカルバペネム非感性グラム陰性菌を対象として評価した結果5)について紹介する。
本研究では, カルバペネマーゼ産生および非産生のCREに対する新規抗菌薬(CTLZ/TAZ, IPM/REL, CFDC, CAZ/AVI)の抗菌活性の評価を行うとともに, 耐性菌の全ゲノム解析(WGS)に基づいた解析を行った。2019~2020年にかけてJARBSにて日本国内175施設から収集された第3世代セファロスポリン耐性大腸菌および肺炎桿菌, カルバペネム低感受性を示す腸内細菌目細菌から選択されたカルバペネマーゼ産生CRE 275株, カルバペネマーゼ非産生CRE 165株を用いた。CFDCの薬剤感受性試験は, Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)の基準に従い, 鉄を除去した陽イオン調整ミュラーヒントンブロスを用いて微量液体希釈法により測定し, 最小発育阻止濃度(MIC)を判定した。
その結果, CFDCはカルバペネマーゼ産生CREの97.5%(268/275株), カルバペネマーゼ非産生CREの95.8%(158/165株)で感性を示した。CAZ/AVIは, カルバペネマーゼとして知られるKPC型が属するclass A β-ラクタマーゼ, またはOXA-48型が属するclass D β-ラクタマーゼを産生するCRE 19株のすべてに対して効果を示したものの, IMP型, NDM型などのMBLが属するclass B β-ラクタマーゼ産生株に対する感性率は11.9%(30/253株)であった。このように, class B β-ラクタマーゼ産生株に対して感性率が低い傾向は, IPM/RELの23.7%(60/253株), CTLZ/TAZの0.4%(1/253株)でも認められた。一方, IMP型MBL産生CREの99.1%(226/228株)がCFDC感性であった。
今回の検討では, 腸内細菌目細菌1.1%(5/440株)がCFDC耐性を示し, うち2株はNDM産生大腸菌, 残り3株(Enterobacter hormaechei, Klebsiella aerogenes, Klebsiella pneumoniae)はMBLの産生が認められなかった。これらのCFDC耐性腸内細菌目細菌に対して既存のβ-ラクタム系抗菌薬はほとんど効果を示さなかったが, CAZ/AVIに3株, IPM/RELに2株, 感性を示した。現状でメカニズムが比較的明らかになっている大腸菌のCFDC耐性は, 主にNDM型MBLの産生, 鉄取り込みに関与するCirAの欠損, penicillin-binding protein 3(PBP3)への挿入変異など, 複数のメカニズムによるものであり, これらの要素が複合的に存在することでCFDCの感受性が低下したと考えられた。
日本国内で優勢に拡散するIMP型MBL産生菌に対するCFDCの感性率が高かったことにより, 日本においてCFDCが効果的な治療オプションとなる可能性が示された。CFDC耐性を示したE. hormaechei, K. aerogenes, K. pneumoniaeのCFDCに対する耐性メカニズムは不明だが, 大腸菌2株ではいずれもNDM型MBL産生, CirA欠損, PBP3への挿入変異の組み合わせでCFDC耐性を示すことが確認された。この知見は, 日本におけるCFDCの意義を裏付けるものであり, 今後の感染症治療戦略において重要な役割を果たすと考えられる。
参考
- WHO, WHO bacterial priority pathogens list, 2024: Bacterial pathogens of public health importance to guide research, development and strategies to prevent and control antimicrobial resistance, 17 May 2024
https://www.who.int/publications/i/item/9789240093461 - Spiliopoulou I, et al., J Antimicrob Chemother 75: 384-391, 2020
- IASR 43: 215-216, 2022
- Abboud MI, et al., AAC 60: 5655-5662, 2016
- Kayama S, et al., J Glob Antimicrob Resist 38: 12-20, 2024