2024年に神戸市内の2つの医療機関で経験したエコーウイルス11による新生児期, 乳児期早期感染症例
(速報掲載日 2025/1/9) (2025年2月5日タイトル一部修正) (IASR Vol. 46 p38-41: 2025年2月号)
はじめに
エコーウイルス11型(E11)はエンテロウイルス(EV)属に含まれ, 小児に無症候性感染から心筋炎, 髄膜炎, 敗血症など, 重篤で時に致死まで幅広い病態を引き起こす。2022年7月~2023年4月フランスで, E11に感染した新生児に急性肝不全をともなう敗血症性ショックが9例報告され1), その後欧州各国から同様の報告が相次いだ2,3)。ウイルスゲノム解析の結果, E11流行株の多くは2022年に新規に出現した変異株(new lineage 1)と同定された1,2)。近年日本においてもE11感染症の重症新生児例が報告されている4,5)が, 起因したこれらのE11株が欧州で流行しているnew lineage 1に分類されるのかについて, また, 小児期E11感染症の臨床情報については十分に解明されていない。今回, 複数医療機関で生後0~1か月児のE11感染4症例を2024年8~11月に経験し, 臨床経過とウイルスゲノム解析によるnew lineage 1との異同を報告する。
症例
症例1: 日齢29の男児。母は1週間前に発熱あり, 同胞は無症状であった。来院前日から哺乳量低下と嘔吐, 来院当日から発熱あり。初診時, 体温39.3℃, 脈拍165/分, 呼吸数48/分, SpO2 96%で, 網状皮斑, 末梢冷感, 周期性呼吸を認めた。髄膜炎が疑われ髄液検査を試みたが採取できず。鼻腔スワブ検体のFilmArray(FA)呼吸器パネル検査でEV/human rhinovirusが陽性となった。血液検査では白血球数・肝機能は正常であった。化膿性髄膜炎を否定できずampicillinとcefotaximeを3日間投与した。血液培養陰性とその後の経過から, 無菌性髄膜炎疑いと診断した。入院4日目に解熱し5日目に軽快退院した。
症例2: 日齢50の女児。同胞も含め家族に発熱者なし。発熱と1分持続する両下肢のシバリングが出現し救急搬送された。来院時, 体温38.6℃, 脈拍169/分, 呼吸数40/分, SpO2 100%で, 意識清明, 大泉門平坦であった。血液検査では白血球数・肝機能は正常であった。髄液検査で細胞増多を認め, 髄液検体のFA髄膜炎・脳炎パネル(FA-ME)検査でEV陽性となった。入院時から3日間ampicillin, cefotaximeとacyclovirを投与した。最終的に無菌性髄膜炎と診断した。入院3日目に解熱し, 5日目に軽快退院した。
症例3: 日齢29の男児。母は10日前から発熱が2日間, 同胞は7日前から発熱が4日間あり。本児は来院当日から発熱と哺乳量低下を認めた。来院時, 体温38.6℃, 脈拍170/分, 呼吸数40/分, SpO2 100%で, 大泉門は平坦であった。血液検査では白血球数・肝機能は正常であった。髄液検査で細胞増多はなかったが, 髄液検体のFA-ME検査でEV陽性となった。無菌性髄膜炎と診断し点滴のみで経過観察した。入院3日目に解熱し5日目に軽快退院した。
症例4: 日齢5に母児ともに退院した日齢7の女児。出生した産院のスタッフや同室の母児, 同胞も含め家族に発熱者なし。発熱と哺乳力の低下を認め受診。来院時, 体温39.5℃, 脈拍180/分, 呼吸数50/分, SpO2 100%で, 大泉門は平坦であった。血液検査では白血球数・肝機能は正常であった。髄液検査で細胞増多はなかったが, 髄液検体のFA-ME検査でEV陽性となった。入院時から4日間ampicillin, cefotaximeとacyclovirを投与した。最終的に無菌性髄膜炎と診断した。入院4日目に解熱し6日目に軽快退院した。
ウイルス学的検索
咽頭ぬぐい液(症例1)または髄液(症例2-4)から分離されたE11の4株を用いて, Joffretらの方法6)に従いゲノム全長をPCRにより増幅した。その後QIAseq FX DNA Library Kit(QIAGEN)を用いてショットガンライブラリを作製し, iSeq i100(Illumina)によりリードデータを取得した。取得したリードデータからSPAdes(3.15.1)を用いてアセンブリを実施し, 各検体7,300bp前後のゲノム配列を構築した。そこからVP1領域全長を抽出し, 既報1)で使用されたE11のVP1配列と比較し, 最尤法による系統樹を作成した(図)。症例3を除く3症例の配列はnew lineage 1に分類された。
考察
今回提示した4症例は0~1か月齢のE11感染症例で, 無菌性髄膜炎3例と無菌性髄膜炎疑い例1例である。2024年に我々2施設で経験した無菌性髄膜炎は8例で, 6例がEV属で3例のE11(症例1を除く)は最多原因ウイルスであった。重要な所見の1つは, VP1領域の塩基配列に基づき, 2022~2023年に欧州で流行したウイルスゲノム情報1,2)との異同を比較できたことである。4例中3例はnew lineage 1に属し, 国内初報告と考えられる。一方, 2023年に神戸市で検出されVP1領域の解析が可能であったE11の1株はnew lineage 1ではなかったことから, 2024年に流入した可能性が考えられた。4症例は2024年8~11月に散発的に発生し, 居住地は神戸市の異なる3区と神戸市西区の北に隣接する三木市であり地理的近接性はなく, 感染伝播経路はそれぞれ別々と考えられた。もう1つの重要な所見は, 2024年に東京都で肝不全, 多臓器不全等で死亡した3例のE11感染新生児5)との臨床経過の相違である。月齢と発症時期は類似しているが, 我々の症例は全例肝逸脱酵素の上昇を認めず, 中枢神経感染症であったにもかかわらず数日で後遺症なく退院できたことである。全国から病原体検出情報システムへ報告されたE11は, 2024年(11月28日時点での集計)に44例が登録され, 2018年, 2019年に次いで多い7)。44例のうち重篤と判断された診断名は, 髄膜炎9例, 脳炎・脳症2例, 肝炎2例, ショック1例であった7)。また, E11の乳児髄膜炎・脳炎でも必ずしも肝障害をともなわないことが示されている7)。これらの病原体検出情報の報告7), 東京都からの重症新生児例の報告5), および今回の神戸市の髄膜炎症例の報告を総合すると, 2024年に流行しているE11感染症の臨床スペクトラムは幅広いことが示唆された。
わが国の小児期E11の病型, 重症度, 予後, 発症頻度等の臨床的特徴やウイルス学的特徴は十分に解明されていない。無菌性髄膜炎は感染症発生動向調査の対象疾患であり, 重症例やアウトブレイクを認めた際にはウイルスの同定と, E11が検出された場合には遺伝子解析が重要であり, 特にnew lineage 1感染の臨床的特徴についての情報集積が必要である。
本報告は神戸市立西神戸医療センター倫理委員会の承認を受けている(承認番号: 2024-42)。
参考文献
- Grapin M, et al., Euro Surveill 28: 2300253
- Fernandez-Garcia MD, et al., Euro Surveill 29: 2400221
- ECDC, Epidemiological update: Echovirus 11 infections in neonates, 2023
https://www.ecdc.europa.eu/en/news-events/epidemiological-update-echovirus-11-infections-neonates - Hirade T, et al., Pediatr Infect Dis J 42: 1002-1006, 2023
- 松井俊大ら, IASR 46: 14-16, 2025
- Joffret ML, et al., Front Microbiol 9: 2339, 2018
- 国立感染症研究所感染症疫学センター, 地方衛生研究所全国協議会, 病原微生物検出情報システムに登録されたエンテロウイルス属及びエコーウイルス11の記述疫学, 2018-2024年(2024年11月28日現在), 2024
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/a/entero/010/index.html