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集中治療を必要としたマクロライド耐性百日咳菌感染症の2乳児例―沖縄県

(IASR Vol. 46 p43-45: 2025年2月号)

はじめに

百日咳は, 特有の痙咳発作を特徴とする百日咳菌(Bordetella pertussis)により引き起こされる気道感染症である。1歳以下の乳児, 特に生後6か月以下では重症化することがあり, 死に至る危険性もある。ワクチンが導入される以前は, 百日咳による死亡はあらゆる年齢で確認されていたが, 現在では, 百日咳による死亡はほぼすべてが生後4か月未満の乳児で発生していると報告されている1)。百日咳の治療はマクロライド系抗菌薬が第一選択薬として推奨されているが, 近年マクロライド耐性百日咳菌(macrolide-resistant Bordetella pertussis: MRBP)の出現が問題となっている。1994年に米国アリゾナ州で初めて本耐性菌の分離が報告されて以降, 複数の国で報告されている。中国では, 2016年に一部地域においてアウトブレイクが報告され, 以降MRBPの割合は年々増加傾向にある。本邦では, 2018年に初めてMRBPが確認されたが重症例の報告はない。2024年11月に当院で集中治療を要した2例の百日咳感染症乳児よりMRBPが検出されたため報告する。

症例1

周産期歴に異常のない女児。1週間前より同胞(7歳)に連続する咳嗽が出現した。生後2か月頃より本児にも咳嗽が出現した。発症5日後より咳嗽後に数秒間息を止めるようになり, 10回以上連続する咳嗽も認めることから百日咳が疑われ入院管理となった。血液検査は, 白血球数が13,760/μL, リンパ球数が8,740/μLと上昇していた。入院後のモニタリングで痙咳発作と笛声が確認され, クラリスロマイシン(15mg/kg/日, 7日間)内服を開始, 入院時の百日咳LAMP検査が陽性となり診断が確定した。入院後は徐々に痙咳発作と無呼吸発作の頻度が増加し, 発症7日目に小児集中治療室(PICU)で気管挿管・人工呼吸器管理となった。無呼吸発作の減少を確認し, 6日間で人工呼吸器管理を終了した。発症16日目には無呼吸発作がほとんど消失し, 一般病棟へ転棟となった。発症20日目頃より再度痙咳発作が頻発, 無呼吸発作も再燃したためPICUでの管理を再開した。鼻咽頭ぬぐい液のグラム染色でグラム陰性小桿菌を多数認め, MRBPを疑い, ST合剤(トリメトプリムとして8mg/kg/日, 14日間)内服を開始し, 保健所の行政検査にて耐性遺伝子の検索を行うこととなった。衛生環境研究所で施行した鼻咽頭ぬぐい液のマクロライド耐性変異検出real-time PCR検査2)により耐性変異が検出され, MRBPによる百日咳と診断した。PICUで鎮静下に高流量酸素鼻カニュラ療法(HFNC)管理を4日間行い, 痙咳発作および無呼吸発作の頻度が減ってきたことを確認し, 一般病棟へ転棟した。無呼吸発作の消失を確認し, 発症後30日で退院となった。

症例2

周産期歴に異常のない男児。生後1か月10日頃より湿性咳嗽が出現し, 徐々に咳嗽後に嘔吐もみられるようになった。経過中は発熱なく全身状態は良好であったが, 発症から約1週間が経過し, 連続する咳込みと顔色不良が出現したため入院となった。入院時, 連続する咳嗽にともないSpO2 60%(大気下)まで低下する無呼吸発作がみられ, 血液検査では白血球数が35,360/μL, リンパ球数が25,700/μLと上昇していた。また, 鼻咽頭ぬぐい液のグラム染色でグラム陰性小桿菌を多数認め, 百日咳感染を疑い, アジスロマイシン(10mg/kg/日, 5日間)内服を開始した。入院前に前医で提出した百日咳LAMP法が陽性となり診断が確定し, 保健所の行政検査でマクロライド耐性遺伝子を検索した。入院翌日には, 衛生環境研究所で施行した鼻咽頭ぬぐい液のreal-time PCR法によりマクロライド耐性変異が検出され, MRBPによる百日咳と診断し, ST合剤(トリメトプリムとして8mg/kg/日, 14日間)内服へ変更した。入院3日目より心拍数の低下をともなう無呼吸発作が出現しHFNCを装着, その後も無呼吸発作が頻発したため, 入院5日目よりPICUで気管挿管・人工呼吸管理が開始された。合計10日間の人工呼吸管理を行い, 無呼吸発作の消失を確認し, 発症後32日で退院となった。

考察

2024年11月の1カ月間において, 集中治療を要したMRBPによる重症百日咳を2例経験した。一般的に百日咳感染において, 抗菌薬投与の臨床経過への影響は少ないとされる。しかし, 痙咳期以前に投与ができれば, 症状の期間と重症度を軽減できる可能性がある。百日咳による乳幼児死亡に関する最近の症例対照研究では, 死亡を防ぐには早期診断と適切な抗菌薬投与が重要と結論付けている。1歳未満の乳児には, 症状が出てから6週間以内に治療を行うべきとの報告もある3)。百日咳の治療はマクロライド系抗菌薬が第一選択薬として推奨されている。MRBPに対する代替抗菌薬として, 14日間のST合剤内服が推奨されているが, 有効性を示唆する大規模な臨床研究の報告がなく4,5), また本邦では添付文書上, 低出生体重児・新生児への投与が禁忌であることに留意する。現在, MRBPの遺伝子変異を検出する市販の検査キットはないため, 臨床現場で迅速に薬剤耐性情報を知ることは難しい。その結果, 最適な抗菌薬を選択することが困難な課題に直面しているが, 百日咳感染に対する抗菌薬治療の不確実性を念頭に, 治療の有効性, 患者の重症度, 適応月齢など, さまざまな要素をもとに慎重に適応を検討しなければならない。

本邦では, 2018年にMRBPが東京都と大阪府で分離された。2016年から中国で流行しているMRBPと同様な遺伝子型を持つことから, 中国から流入した可能性が指摘されており, 国内での耐性株の蔓延化が危惧されている6)。自験例では2例ともreal-time PCR法による耐性変異検出後, 培養検査において分離された百日咳菌の23S rRNA遺伝子塩基配列を決定し, A2047G耐性変異を確認した。また, ゲノム解析からは2016年に流行した中国の系統とは異なり, 2株とも2020年以降に中国で広がっている耐性株(MLVA type 28)と同一の系統であることが示唆され, さらなる解析を行っている。今後も各地域の医療機関と保健所および衛生環境研究所が積極的に連携し, さらなる情報が蓄積されMRBPの流行状況が把握されることが期待される。

参考文献

  1. Cherry J, et al., Feigin and Cherry's Textbook of Pediatric Infectious Diseases, 9th ed, 2024
  2. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 百日咳 第4.0版
  3. Daniels HL, Sabella C, Pediatr Rev 39: 247-257, 2018
  4. Hoppe JE, et al., Infection 17: 227-231, 1989
  5. Kimberlin DW, et al., Red Book 2024-2027, 33rd ed, Report of the Committee on Infectious Diseases: 656, 2024
  6. Koide K, et al., PLoS ONE 19: e0298147, 2024
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター          
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