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マクロライド耐性百日咳菌を検出した大阪府の小児3例

(IASR Vol. 46 p43-45: 2025年2月号)

近年マクロライド耐性百日咳菌(macrolide-resistant Bordetella pertussis: MRBP)の出現が世界的な問題であり, 特に中国ではMRBPが蔓延し, 他のアジア地域に侵入・拡散した可能性が示唆されている1)。MRBPはマクロライド系抗菌薬による除菌率が有意に低下するため2), 治療効果の低下や二次感染による感染拡大の懸念がある。

わが国では, MRBPは2018年に大阪府と東京都でそれぞれ1株ずつ分離された報告のみであるが3,4), 訪日外客数の増加にともない, 海外からMRBPの侵入が懸念されている。今回, 2024年9月以降に大阪府の異なる地域の医療機関(大阪市, 守口市, 和泉市)の小児患者3例から分離した百日咳菌がMRBPであることが判明したので, その詳細について報告する。

症例1

基礎疾患のない日齢51の女児。入院1週間前から出現した咳嗽が増悪傾向で, 咳込み後の無呼吸があり受診した。FilmArray®呼吸器パネル2.1(FA)で百日咳菌が単独で検出され, 咽頭培養で百日咳菌が分離された。入院後にクラリスロマイシンの内服を開始したが, チアノーゼと徐脈をともなう無呼吸発作の回数が増加し, 経鼻高流量酸素療法(NHFC)を開始した。その後も改善せず, 日齢54に高次医療機関へ転送となった。転院後もNHFCを継続し, アジスロマイシンを投与した。時間経過で無呼吸発作の頻度は徐々に減少し, 3週間後には咳込みと息こらえは残るも自宅でも管理できる状態となり, 退院となった。児の感染源は不明であった。

症例2

生来健康な14歳男児。百日咳含有ワクチンは定期接種で4回の接種歴あり。咳嗽を発症し, 第3病日に近医からクラリスロマイシンを処方された。発熱はなかったが咳嗽が1日中続き, 夜間は特に強く, 症状の改善がないため, 第11日目に紹介受診した。FAで百日咳菌が単独で検出された。全身状態は良好のため, クラリスロマイシンの内服を継続した。1週間後に再診し, 咳嗽が改善していたので終診となった。児の感染源は不明であった。

症例3

ダウン症候群, 先天性心疾患があり, 在宅酸素療法中の1歳1か月男児。四種混合ワクチン4回目を発症の2週間前に接種していた。入院前日から咳嗽が出現し, 入院当日に発熱と活気不良があり受診した。児の発症1~2週間前から父に咳嗽があり, 感染源と考えられた。FAではhuman rhinovirus/enterovirus, respiratory syncytial virus(RSV), 百日咳菌を検出し, アジスロマイシンの点滴静注が開始された。努力様呼吸に加えて咳込みでチアノーゼが誘発され, NHFCが開始された。入院翌日に呼吸状態が悪化し, 挿管, 人工呼吸器管理となった。気管内吸引痰培養で百日咳菌が分離された。重症の市中肺炎としてセフォタキシムを併用した。基礎疾患やRSV感染の合併もあるため人工呼吸器管理は長期化し, 入院12日目に抜管, 入院17日目に退院となった。

3症例の菌株情報

症例1と3の菌株, 症例2の鼻咽頭ぬぐい液(検査残余検体)が大阪健康安全基盤研究所に搬入された。百日咳菌の分離はボルデテラCFDN培地(日研生物)を用いて, 同定はボルデージャング培地(BG培地)に発育した集落から, 百日せきI相免疫血清「生研」(デンカ)およびMALDI-TOF/MS(ブルカー社)を用いて行った。

薬剤感受性試験はETEST®(ビオメリュー)とBG培地を用い, 35℃で3日間好気培養したのち最小発育阻止濃度(MIC)を測定した()。

この結果から, 3株すべてがマクロライド系抗菌薬に耐性を示すことが明らかとなった。MRBPの耐性機序は23S rRNA遺伝子の変異によることが知られており, 3株の23S rRNA遺伝子領域の一部をプライマー(1505F: GGCACGAGCGAGCAAGTCTC, 2118R: TCTGGCGACTCGAGTTCTG)を用いてPCR法で増幅し, ダイレクトシーケンスによりその配列を解析した。その結果, 3株ともに変異(A2047G)が認められた。

まとめ

2024年9月以降に大阪府の異なる地域の小児から分離・解析した百日咳菌3株すべてがMRBPと判明し, いずれの患者・家族も海外渡航歴はなかった。今回の症例数は少ないが, 大阪府の市中においてMRBPが蔓延している可能性が示唆された。

抗菌薬感受性試験を実施するためには, 培養による菌の分離が必要である。百日咳菌の分離には専用の分離培地で1週間ほど培養が必要なうえ, 発症から時間が経つと検出率が低下する。このため, 通常の検査ではMRBPの流行状況の把握は困難と考えられ, 百日咳菌の分離に基づく積極的な病原体サーベイランスを行うことが望まれる。なお, MRBPを含め百日咳に関しては, 国立感染症研究所または百日咳レファレンスセンターに相談が可能である5)

参考文献

  1. 蒲地一成ら, IASR 42: 115-116, 2021
  2. Mi YM, et al., Pediatr Infect Dis J 40: 87-90, 2021
  3. Yamaguchi T, et al., Jpn J Infect Dis 73: 361-362, 2020
  4. Koide K, et al., PLoS ONE 19: e0298147, 2024
  5. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 百日咳 第4.0版

大阪母子医療センター           
 周産期・小児感染症科 谷口公啓 野崎昌俊
 循環器科 青木寿明           
 集中治療科 清水義之          
 臨床検査部門 岡本裕也         
愛染橋病院                
 小児科 塩見正司            
松下記念病院               
 小児科 磯田賢一 南川洋平       
 診療技術部臨床検査技術室 大友志伸   
大阪市立総合医療センター         
 小児救急・感染症内科 天羽清子     
大阪健康安全基盤研究所          
 微生物部細菌課 山口貴弘 河原隆二

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