鳥取県におけるマクロライド耐性百日咳菌の流行
(IASR Vol. 46 p43-45: 2025年2月号)
百日咳は, 百日咳菌によって起こる急性の気道感染症であり, 新生児や乳児が罹患すると重症化することがある。予防法としては定期接種のワクチンがあり, 治療薬としてはマクロライド系抗菌薬が第一選択薬である。
中国では2010年代以降, マクロライド耐性百日咳菌(macrolide-resistant Bordetella pertussis: MRBP)の報告が相次ぎ1), 日本でも2018年に東京都, 大阪府でそれぞれ1例ずつ報告されている2)。しかし, これらはいずれも単発例であり, その後MRBPの流行はみられなかった。鳥取県では2024年6月以降, 百日咳の大きな流行がみられたため, 検体を収集して菌分離を試みたところ, 複数のMRBPが確認された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前後の百日咳の発生状況, 菌株のマクロライド耐性遺伝子変異および薬剤感受性試験の結果について報告する。
方法
2024年6~12月(以下, COVID-19流行後)に届出された患者について, 感染症発生動向調査から診断方法, 年齢, ワクチン接種歴, 症状, 感染経路を調べ, 2018~2019年(以下, COVID-19流行前)のデータと比較した。
また, 百日咳と診断された患者の鼻腔スワブ24検体(0~83歳)を採取し, CFDN培地(日研生物)を用いて百日咳菌の分離を試みた。分離された菌については, まず4Plex real-time PCR法3)で菌種同定を行った。百日咳菌と同定された菌株については, A2047G-cycleave PCR法3)でマクロライド耐性に特異的な23S rRNA遺伝子の変異の有無を検出し, さらにETEST®(ビオメリュー)を用いてマクロライド系抗菌薬3剤(エリスロマイシン, クラリスロマイシン, アジスロマイシン)に対する薬剤感受性試験を実施した。
結果および考察
鳥取県の百日咳患者数は, 2018年, 2019年はそれぞれ61人, 47人であったが, COVID-19流行後の2024年6~12月には365人となり, COVID-19流行前よりも顕著に増加していた。診断方法はCOVID-19流行前後でいずれも遺伝子検査法が55-60%を占めており, 2021年6月以降届出基準に追加されたイムノクロマト法の使用は5.5%と少なかった(表)。百日咳のイムノクロマト法は検査精度に注意が必要との指摘があるが4), 今回の調査では使用例が少ないため影響は微小である。したがって, 2024年の鳥取県における百日咳患者数の増加は確度の高い情報であると判断された。日本では, 2018年から百日咳は感染症法上5類の全数把握対象疾患となり, 2018~2019年は年間10,000人以上の発生があった。2020~2023年はCOVID-19流行の衛生対策(Non-pharmatceutical intervention: NPI)の影響で激減したが, その後は増加に転じている。しかし, 2024年は全国的な患者数はCOVID-19流行前のまだ半数以下であったのに対し, 鳥取県の患者数はCOVID-19流行前の6倍以上と, 全国と比較して顕著な増加であった。
年代別患者数は, 0~4歳区分の患者は少なく, ワクチンが通常1歳程度までに接種されることから, 現行の百日咳ワクチンは有効に作用していると考えられた。患者の年齢層のピークはCOVID-19流行前が9歳であったのに対し, COVID-19流行後は12~13歳に上昇していた。ワクチンは4~12年で効果が減少するとされており3), この年代では乳幼児期のワクチン免疫が低下していると考えられる。さらにCOVID-19流行のNPIにより自然感染を受ける機会が少なく, 百日咳菌に対する免疫がCOVID-19流行前より低下しており5), 感染しやすい状態にあったと考えられる。12~13歳は活動範囲も広がる年代なので, 学校生活・地域のクラブ活動を通じて感染が拡大した可能性が考えられた。また流行が夏季に始まったため, マスク着用率が低かったことも感染拡大の一因として考えられた。
患者の症状は, COVID-19流行前後で大きな相違はみられず, 死亡例はなく重症例も少なかった。
当所では, 患者鼻腔スワブ24検体から9株の百日咳菌を分離した。このうち8株は23S rRNA遺伝子にA2047Gのマクロライド耐性変異3)を有していた。この8株は, 薬剤感受性試験でもマクロライド系抗菌薬3剤に対する最小発育阻止濃度(MIC)が>256μg/mLであることが確認されたため, MRBPと判定した。マクロライド耐性変異を有さない残りの1株は, 同3剤に対するMICが<0.016μg/mLであり, 感受性であった。MRBP8株が分離された患者間には疫学上の関連性はみられず, 複数のMRBP流行が同時に発生していることが推定された。現在, NGS解析を含む分子疫学的解析により菌株間および海外MRBP株との関連について詳細な調査を進めている。
今般の流行では, 流行初期から速やかに管轄保健所が医師会, 教育委員会とも連携し, 継続して感染対策を周知した。しかし流行の主体がマクロライド耐性株であったために菌の拡散を有効に抑制できず, 流行が拡大した可能性が考えられた。引き続き乳幼児へのワクチン接種や適切な検査診断に基づく早期治療を推奨するとともに, 病原体サーベイランスにより薬剤耐性株の監視を継続することが重要である。
謝辞: 疫学調査, 検体採取に御協力いただいた県内保健所, 関係医療機関の皆様に深謝いたします。
また, 本稿の作成にあたり適切な御助言をいただきました国立感染症研究所細菌第二部第一室の先生方に深く感謝申し上げます。
参考文献
- 蒲地一成ら, IASR 42: 115-116, 2021
- Koide K, et al., PLoS ONE 19: e0298147, 2024
- 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 百日咳 第4.0版
- 国立感染症研究所, 全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学(更新情報)-2022年疫学週第1週~第52週-
https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/10457-496r04.html - 国立感染症研究所, 年齢/年齢群別の百日咳抗体保有状況の年度比較, 2013~2023年