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山梨県におけるA群溶血性レンサ球菌感染症入院例に関する実地疫学調査

(IASR Vol. 46 p45-46: 2025年2月号)

はじめに

溶血性レンサ球菌は, 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS), 咽頭炎, 肺炎, 皮膚感染症, など多くの疾患を引き起こす。STSSは致命率が高く, 感染症発生動向調査の5類全数把握疾患である。STSSの報告対象はβ溶血を示すレンサ球菌であり, A群溶血性レンサ球菌(GAS)に限っていない。

国内では, 2023年後半以降にSTSS届出数の増加とSTSS届出数に占めるGASの割合の増加を認め, その変化は山梨県でも同様であった1)

5類小児科定点把握疾患であるGAS咽頭炎の小児科定点当たり報告数も, 国内では2023年夏以降増加し, 2024年第3週以降は過去6年の同時期と比較し高水準で, 山梨県でもおおむね同様であった。

さらに, 2023年8月以降に関東地方においてこれまで流行していた系統株と比較し, 病原性および伝播性が高いとされるM1UK系統株によるSTSS患者の集積を認めた2)

既存のサーベイランス情報より, 山梨県でGAS感染症の疫学的な変化が起こっている可能性が示唆されたため, 重症感染症患者が集まる2つの医療機関を対象にGAS感染症入院患者の疫学的特徴を把握することを目的に調査を実施した。

方法

症例定義は, 山梨県立中央病院または山梨大学医学部附属病院において, 2018年1月1日~2024年7月31日までに採取された臨床検体からGASが検出されたGAS感染症入院患者, とした。診療録より, 症例の属性, 基礎疾患, 発症1カ月以内の呼吸器ウイルス感染症罹患歴, 発症日, 臨床診断名, 転帰等の情報を収集し, 記述的にまとめた。特に症例の増加前後で2群に分けて(図の12023年9月以前と22023年10月以降)解析を行った。なおSTSSの定義は, 感染症発生動向調査の届出基準に準じた3)。重症例は, 入院中にICU(intensive care unit)入室, ECMO(extracorporeal membrane oxygenation)の使用, カテコラミンの持続投与, 転帰が死亡, のいずれかに該当する症例と定義した。

結果

GAS感染症入院症例は計81例で, うちSTSS症例は10例であった。症例は, 2018~2020年では年間11-15例で推移していたが, 2021年, 2022年はそれぞれ年間3例と4例に減少し, 2023年10月以降は顕著に増加した()。

症例全体(81例)のうち男性が54例(67%), 年齢中央値(四分位範囲)は49(25~76)歳であった。基礎疾患を有する症例は51例(63%:不明の2例を分母に含む), 発症1カ月以内にインフルエンザ罹患の情報が判明した症例は1例(不明57例), 発症1カ月以内に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患の情報が判明した症例は1例(不明41例)であった。臨床診断別では, 割合が高い順に蜂窩織炎が23例(28%), 扁桃周囲膿瘍が14例(17%), 壊死性筋膜炎が10例(12%)であった(重複あり)。重症例は17例(21%), 死亡例は6例(7%)であった。菌株解析が行われたのは全81例中4例(全例2024年1月以降のSTSS症例), 結果はM1UK株が2例, それ以外の株が2例(遺伝子型の内訳はemm12emm49)であった。

1症例増加前群(2023年9月以前)に対して, 2症例増加後群(2023年10月以降)の特徴は以下の通り:男性の割合が低かった〔75%(40/53)vs 50%(14/28)〕。年齢中央値(四分位範囲)は高かった〔48(27~74)歳vs 58(23~79)歳〕。基礎疾患を有する症例の割合が高かった〔57%(30/53)vs 75%(21/28)〕。STSS症例, 重症例の割合はそれぞれ高かった〔9%(5/53)vs 18%(5/28), 15%(8/53)vs 32%(9/28)〕。死亡例の割合は低かった〔9%(5/53)vs 4%(1/28)〕。

考察

本調査では, STSSの背景に約7倍のGAS感染症入院患者が存在した。GAS感染症入院患者数はCOVID-19対策緩和後の2023年10月以降で顕著に増加しており, 国内外でCOVID-19対策緩和後の侵襲性GAS感染症注)やSTSSの増加の報告と同様の傾向が認められた1,4)。海外では, これらの重症GAS感染症患者の増加の要因として, COVID-19対策によりGASに曝露される機会が減少したことによるGASに対する免疫低下, 呼吸器ウイルスとの重複感染, M1UK系統株および多様なemm遺伝子型の存在による可能性, が報告されている4,5)。本調査の制限として, 症例の原因菌株解析結果がごく一部の症例でしか得られなかったこと, 呼吸器ウイルスの重複感染について症例の半数以上で不明であったこと, 等からGAS感染症入院患者における疫学的変化の要因の検討を十分にはできなかった。さらなるGAS感染症に関する疫学情報と菌株情報の収集・分析が重要である。

謝辞:本調査にご協力いただいた山梨県立中央病院, 山梨大学医学部附属病院, 国立感染症研究所の皆様に心より感謝申し上げます。

注)侵襲性GAS感染症は, 通常無菌の部位からGASが分離された, 皮膚軟部組織感染症, 髄膜炎, 腹膜炎, 敗血症, 肺炎などの病態を呈したもの6)

 

参考文献

  1. 国立感染症研究所, 国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について(2024年6月時点)
  2. 国立感染症研究所, A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在)
    https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/45/528/article/010/index.html
  3. 厚生労働省, 劇症型溶血性レンサ球菌感染症
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html
  4. Veselá R, et al., Epidemiol Mikrobiol Imunol 73: 76-83, 2024
  5. Peetermans M, et al., Ann Intensive Care 14: 19, 2024
  6. CDC, Streptococcus Disease, Invasive, Group A(GAS)(Streptococcus pyogenes)1995 Case Definition
    https://ndc.services.cdc.gov/case-definitions/streptococcus-disease-invasive-group-a-1995/
山梨県感染症対策センター     
 藤井 充 大沼 恵 小野千恵 遠藤 攝 黒倉美穂       
国立大学法人山梨大学医学部附属病院
 鈴木哲也 木下真直 内田 幹 井上 修            
地方独立行政法人山梨県立病院機構山梨県立中央病院 
 三河貴裕 三井太智 工藤希実  
国立感染症研究所         
 実地疫学専門家養成コース(FETP)
  宇野智行 広瀬卓哉      
 実地疫学研究センター      
  福住宗久 門脇知花 島田智恵 土橋酉紀 砂川富正      
 細菌第一部           
  池辺忠義 明田幸宏

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