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夏季に半径5km圏内に地域集積を認めたレジオネラ症事例-東京都

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夏季に半径5km圏内に地域集積を認めたレジオネラ症事例-東京都

(IASR Vol. 46 p66-67: 2025年3月号)

東京都西多摩保健所管内で, 約半月の間に半径5kmの地域に集積したレジオネラ症の発生を認め, 患者検体のレジオネラ属菌に遺伝子の相同性を認めた。患者の地理的配置より, 近隣の大気開放系の設備が感染源であることを想定し, 可能な範囲で冷却塔のレジオネラ属菌の採水検査を行った。重要な知見を得たため, 以下に報告する。

1. 検査方法


積極的疫学調査:2024年8月23日以降, 27日時点で計6例がレジオネラ症と診断された。患者の行動調査とともに, 8月30日に管内医療機関へ注意喚起を行い, 呼吸器症状患者の鑑別診断にレジオネラ症を含め, 抗菌薬使用前に喀痰を採取することを依頼した。保健所が回収した喀痰にはPCR検査, 培養検査とともに, Sequence-Based Typing(SBT)法による遺伝子型別を実施, 培養陽性例には病原性関連遺伝子lag-1遺伝子の有無も検証した。9月18日時点で計16例となり, 発症日は8月19~26日の期間に集中していた。

感染源調査:発生状況から同一感染源への曝露が示唆された。8月16日に関東地方に最も接近した台風7号の影響で, 8月15~17日に大気開放系設備からレジオネラ属菌を含むエアロゾルが飛散した可能性を考え, 次のように患者集積地域周辺を確認した。1)地区踏査での冷却塔と修景水の目視, 2)建築物における衛生的環境の確保に関する法律(以下, 建築物衛生法)に基づき把握されている冷却塔, 3)近接地域の公立小中学校の冷却塔, 4)地域自治体への協力依頼により把握した下水道料金減額申請に関する情報から法令等により把握されていない市中冷却塔, 5)過去の報告1)より汚水処理場も調査対象に含め, 水質汚濁防止法(以下, 水濁法)による届出施設からばっ気機能を有する排水処理設備の所在, を探査。

2. 患者の記述と検査結果


8月15~17日を曝露日とし, 潜伏期間を2~16日と考え, 症例定義を「2024年8月17日~9月2日に発症し検査診断されたレジオネラ症」とした(図1)。16例は, 年齢中央値72歳(範囲54~85歳), 男性12例(75%)で, 14例(88%)に基礎疾患を認めた。15例が尿中レジオネラ抗原, 1例が喀痰LAMP法で診断された。すべて肺炎型で, 経過が確認できた15例のうち, 人工呼吸器装着を要した1例を含め14例は回復し自宅退院または転院となり, 死亡1例はレジオネラ肺炎以外の病因であった。温泉, 噴水, 加湿器他の一般的なレジオネラ属菌への曝露機会に共通項はなく, うち5例はほとんど外出せずに自宅で過ごし, エアコンを使わずに窓を開けている傾向があった。

16例中8例の喀痰検体から直接抽出したDNAを対象にPCRを実施し, すべてPCR陽性(Legionella pneumophila)であった。8例中培養陽性は4例で, 4例すべての血清群は1(SG1)でlag-1遺伝子も陽性であった。喀痰から直接抽出したDNAまたは菌株由来DNAでSBT法を実施した結果, すべてST1646であった。

3. 環境検査の結果


感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律(以下, 感染症法)第15条に基づき, 半径5km圏内にある建築物衛生法に規定される特定建築物, 公立小中学校, 医療機関の冷却塔21施設から採取した32検体の培養検査を実施した(図2)。20施設29検体(91%)から5-21,000CFU/100mLのL.pneumophilaを含む8種のレジオネラ属菌が検出された。そのうち, 16施設22検体でL.pneumophila SG1が検出されたが, lag-1遺伝子はいずれも陰性であった。したがって, これら施設は感染源ではないと判断し, 感染症法第27条および29条に基づく消毒命令は発令せず, レジオネラ症防止指針2)(以下, 指針)等に基づいた管理を行うよう助言した。

なお, 冷却塔以外の排水処理施設等も調査を行ったが, 構造等の条件を踏まえて環境検体の採取対象からは除外した。

4. 地域への啓発


採水時に管理について助言・啓発した施設とは別に, 患者が集積した地域において, 冷却塔等のレジオネラ属菌の繁殖しやすい設備を有する可能性がある施設(労働安全衛生法下の従業員50人以上の企業, 下水道法等により特定施設・除害施設とされる施設で「ばっ気槽有」の事業所, 水濁法に基づく届出事業所, 工業用水利用施設, 冷却塔等の下水道使用量の減免を受けている事業所)30施設に対し, 事例終息後の10月下旬に, 冷却塔等の適正管理に関する啓発資料を郵送する等, 再発防止のための普及啓発活動を行った。

5. 考 察


本事例では, 半径5km圏内に居住する患者8名からST1646が検出され, 同一感染源が強く示唆された。ST1646によるレジオネラ症は, 集団感染および散発事例のいずれもこれまで国内報告を認めない。一方, オランダで汚水処理場を感染源とする, 同型のレジオネラ属菌が検出された集団感染事例報告があり1), 本事例でも排水処理施設や修景施設等も含めて調査した。感染源特定には至らなかったが, 今後も疫学調査において, 排水処理施設等も視野に入れていく必要がある。

本事例は, 連日35℃を超える猛暑が続き, レジオネラ属菌が最も増殖する外気温下で, 関東地方に台風が最接近した直後に発生した。レジオネラ症と自然災害の関係について国内では, 震災後のがれき撤去作業による土壌からの感染3), 台風被災後の浸水地域の泥からのレジオネラ属菌の検出4)などの報告がある。台風自体が大気を拡散した影響に関する報告は認めないが, 本事例は冷却塔等からのエアロゾルがこれによって広範囲に拡散した可能性を否定できなかった。

本事例では, 管内医療機関や関係自治体に, レジオネラ症発生状況に関してタイムリーな情報を提供したことで, 注意喚起や迅速な患者発見につながったと考える。また, 環境検査の結果, 感染源ではないと判断した施設には, レジオネラ症防止指針2)等に基づいた管理を助言し, 新たなレジオネラ症の発生防止に努めた。

今後も保健所では, 冷却塔等の適正管理方法について, 地域へ継続的に周知していく予定である。

参考文献

1.Loenenbach AD, et al., Emerg Infect Dis 24: 1914-1918, 2018
2.公益財団法人日本建築衛生管理研究センター, 第5版 レジオネラ症防止指針, 2024
3.砂川富正ら, IASR 34: 160-161, 2013
4.中臣昌宏ら, IASR 41: 210, 2020

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