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超音波式蒸気発生機能を有するインテリア用品によるレジオネラ症集団感染事例-東京都

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超音波式蒸気発生機能を有するインテリア用品によるレジオネラ症集団感染事例-東京都

(IASR Vol. 46 p68-69: 2025年3月号)

2024年9月下旬~11月中旬にかけて, 管内の飲食店(以下, A)で使用していた超音波式蒸気発生機能を有するインテリア用品(以下, 機材)を原因とするレジオネラ症21例の集団感染事例が発生したので報告する。

1. 探知および概要

2024年9月下旬以降, 当保健所(以下, 当所)管内でレジオネラ症の届出数が顕著に増加した。当初, 患者調査では居住地の特定地域への集積や行動歴の共通項がなく, 感染源の手がかりはつかめずにいた。そのため, 管内医療機関向けにレジオネラ症の発生増加について情報提供するとともに, 行動歴聴取の再徹底および喀痰検体の確保について協力を依頼した。

11月X日, ある患者への調査の中で「発症前にAを利用した際に, 店内の演出でミストを浴びた」旨の証言を得た。X+4日, Aの利用歴がある2例目の事例を探知したため, 9月下旬以降に届出のあった全事例に対し遡り調査を開始した。X+6日, 管内医療機関の医師より「現在入院中の患者聴取により, 5名が発症前にAを利用していたことが判明した」旨の連絡があった。X+7日, Aの利用がレジオネラ症の感染原因である可能性が高まったことから, 当所は開店前のAに対して積極的疫学調査を実施し, 4台中1台の機材の蒸気トレイ内から採水(以下, 環境検体)を行った。本機材は超音波式の蒸気発生機能によりミストを飛散させる暖炉を模したものであった。当所の調査指導後, Aは機材の稼働を停止させた。

地方衛生研究所(東京都健康安全研究センター)による検査の結果, 環境検体から300万CFU/100mLのLegionella pneumophila SG1およびL. feeleii SG1が検出された。Aを利用した患者5名分の喀痰分離検体のsequence-based typing(SBT)法では, いずれも国内で最も多く分離されているST23に型別された。さらに喀痰分離株および環境分離株のL. pneumophila SG1についてパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)による解析を実施したところ, 同一遺伝子パターンを示した1)

Aを利用後に発症した21名の患者にはその他に共通の行動歴等はなく, 検査結果とあわせ, 当所は本事例を, 機材が飛散させるミストを感染源とする集団感染と特定し, X+11日, 広域的な患者発生の可能性があるため, 都内全保健所に情報提供を行った。

2. 発生状況


本事例の患者21名の年齢中央値は71歳(30~86歳), 女性が71%であり, 例年に比し年齢層がやや低く, 女性が多い特徴を有し, 親族・知人等の同一グループに属する者はなかった。死亡例はなく, 1名を除き入院を要する病態を示し, 入院期間の平均値は14日であった。消費者安全法に基づく重大事故に該当する「治療に要する期間が30日以上を要する」患者は4名であった。Aが本機材の使用を開始したのは8月末, 患者の来店日は9月14日~11月13日の約2カ月間であり, 稼働停止後は速やかにレジオネラ症届出数が例年通りの発生動向へ復した。3保健所からの情報提供により, それまでの間, 散発例と判断されていた4例が感染源の特定に至った。

3. 東京都の対応


本機材への給水は自動給水方式で, 水は一時的に蒸気トレイ内に貯留する仕様となっている。調査の結果, Aでは8月末以降の清掃は頻度・方法ともに不十分であり, 機材内でレジオネラ属菌が増殖しやすい状況であったことが判明した。そのため, 当所はAに対し再発防止の観点から, 本機材の適切な管理方法等について指導した。取扱説明書には水の交換や清掃についての記載が不十分であったことから, 本庁所管部署は本機材販売事業者に対し, 取扱説明書の改訂や購入者への注意喚起の実施について指導した。

また, 本事例について, 消費者庁には消費者安全法に基づく重大事故として, 独立行政法人・製品評価技術基盤機構(NITE)には消費生活用製品安全法に基づく重大製品事故として, それぞれ通知した。さらに, 都民向けにはホームページ上で, 類似事故の発生防止を目的とした注意喚起を行った。

4. 考 察


ミストを発生させる電気暖炉を感染源とするレジオネラ症の集団感染事例は, 海外ではSchönningらにより報告2)されているが, 国内ではこれまでに類似製品での発生報告がない。今回の感染源となった機材について, 販売事業者および使用者であるAともに蒸気トレイ内でレジオネラ属菌の増殖が起こり得る認識がなく, 水の交換や清掃が疎かになったことが感染拡大を招いた原因の1つであったと示唆される。日々, 新たな発想による商品開発が行われている現代においては, 加湿器, 特に蒸気発生時に水を加熱しない超音波式と同様の機能を持つ製品によるレジオネラ症発生も危惧され, 類似製品の取り扱いにかかわる注意喚起が重要であると考えられた。

今回の事例では, 患者調査の中でレジオネラ属菌の飛散し得る人工水環境を具体的かつ丁寧に説明することで, 解明の糸口を患者から得た事例であった。新たな患者発生を未然に防ぐためには, 探知から早期の遡り調査の実施や, 機材の使用状況の確認・指導など, 速やかな初動が重要である。そのためには, 保健所内で平時から事案対応を積み重ね, 組織横断的な連携・協力体制の構築を図る必要がある。本事例では, 管内医療機関との連携や他保健所との情報共有, 本庁や地方衛生研究所との連携によって, 患者検体をより多く確保・分析することができ, 広域的な視点から集団感染の全体像の把握ができた。

レジオネラ症の感染源は特定に至らない場合も多く経験されるが, 一定期間内に事例の集積が認められる場合には, 丁寧な疫学調査と関係機関連携による感染源探索, 治療開始前の喀痰検体の確保と遺伝子型別法の実施により, 感染源の特定が可能になると考えられる。

参考文献

1.前川純子, ビルと環境 187: 1-7, 2024
2.Schönning C, et al., 7th ESGLI meeting Abstract Book: 32, 2023

東京都多摩小平保健所      
 三澤愛子 佐藤恭子 橋本寿江 
 伊藤 研 森川隆斗 村川数馬 
 桑波田悠子          
東京都健康安全研究センター   
 内谷友美 梅津萌子 武藤千恵子
 鈴木 淳 木下輝昭      
東京都保健医療局        
 感染症対策部         
 健康安全部          

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