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レジオネラ症集積事例から得られた課題と対策への提言-東京都


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レジオネラ症集積事例から得られた課題と対策への提言-東京都

(IASR Vol. 46 p69-70: 2025年3月号)

1. はじめに

レジオネラ属菌を原因とする国内の集団感染事例は, 温泉・入浴施設や加湿器等の報告が多い1)。レジオネラ症防止指針2)においては, 冷却塔, 加湿器, 給水設備, 給湯設備, 浴場施設, 水景施設, 蓄熱槽について管理方法が記載されており, 患者発生時の積極的疫学調査は, 主にこれらの施設を想定して行っている。

2. 東京都のレジオネラ症発生状況

2015~2023年の届出数は平均で年間156件であったが, 2024年は261件と増加した()。夏から秋にかけて特定の地域に患者の集積があった事例1-3について, 東京都と各保健所は連携して調査・対応を行った。

3. 事例の概要

4. 積極的疫学調査の課題

今回の集積事例では, 通常確認を行う浴場などの施設共通利用歴がなかったため, 保健所の管轄を越えて都内で情報共有を行うとともに, スーパーや飲食店などの利用, 使っている道路, 自宅での窓開けの状況等を追加で聞き取ったことにより感染源の特定に至っており, 調査項目の見直しが必要と考えられた。また多くの人員と時間を要する患者居住地周辺の冷却塔の調査体制の調整や, 管理の義務がない施設においては介入に工夫が必要であった。3件の事例について, 患者検体を積極的に確保し, 培養, sequence-based typing(SBT)法検査を実施することにより, 2事例では感染源の1つとして冷却塔やインテリア用品を特定できたが, 患者すべての感染源が判明した事例はなかった()。

5. 環境検体の課題

感染源の特定には, 冷却塔や浴場以外の感染源となりうる設備や製品も念頭に, 患者からエピソードを引き出していくことが必要であるが, 患者には感染源の知識がないため設備や製品に関する記憶が曖昧であることが多く, 感染源の割り出しが困難となっている。また, 検体採取までに日数がかかれば, 施設・設備の状況が患者曝露時と変化している可能性があるほか, 冷却塔や給湯設備などは稼働時期の終了により, 検体が採取できないことがある。

さらに, 冷却塔などの検体には雑菌が多く存在するため, 検体の状況に応じた適切な処理を行わないと正確な検査結果が得られず, 原因の特定が困難になる。今回, 事例1, 3においては行動調査の工夫等により最終的に感染源と特定した施設の環境検体を確保, 検査の工夫によりレジオネラ属菌を特定し原因を究明することができた。これは, ひとえに調査・検査に携わる保健師, 環境衛生監視員, 地方衛生研究所研究員等が情報共有し, 連携が緊密にできたことによると考える。

6. レジオネラ症対策の提言

調査手法:今回, 超音波ミストを発生させるインテリア用品が感染源となる集積事例を経験した。疫学調査では, 取り扱い方法によっては感染源となり得る超音波ミストについては, 加湿器だけでなく同等の機能を有する製品の利用, 曝露状況や手入れの方法等を丁寧に聞き取ることが必要である。また航空写真等を活用し, 施設や設備の分布を俯瞰的に把握したうえで地区踏査を行い, 実際の冷却塔等の稼働状況をつぶさに調査することが原因施設の特定につながる。

冷却塔の管理:2024年7~9月の東京都の月平均最高気温は, 3カ月間連続で30℃以上を記録し3), 環境水がレジオネラの発育至適温度である36℃前後を保つ期間が長くなっている。気候変動により, 冷却塔を感染源とする事例は今後も増加することが予測され, 建築物衛生法などで管理が義務付けられていない工場や施設の冷却塔などについても, 普及啓発や注意喚起を全国的に行う必要がある。

検査の精度:レジオネラ属菌の検査は, 煩雑な手技と経験およびそれにともなうコストがかかる。今回, 同じ冷却塔から同日に採取した検体を民間と行政でそれぞれ検査したところ, 民間検査機関では検出限界未満であったが, 行政検査では35万CFU/100mL検出された事例もあった。同様の事例は他にも存在すると想定され, 冷却塔のレジオネラ属菌検査手法の標準化を行い, 民間検査機関でも管理に資する結果が得られるような体制を整えることが求められる。

参考文献

1.IASR 45: 107-127, 2024
2.公益財団法人日本建築衛生管理研究センター, 第5版 レジオネラ症防止指針, 2024
3.国土交通省気象庁, 過去の気象データ検索
   https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php?prec_no=44&block_no=47662
東京都保健医療局        
 村井やす子 堀 元海     
 芋川有希 榎本陽子 飯澤明子 
 高橋京恵 渡部ゆう 鮫島弘尚 
東京都健康安全研究センター   
 内谷友美 梅津萌子 武藤千恵子
 鈴木 淳 木下輝昭      
国立感染症研究所        
 実地疫学研究センター     
 細菌第一部

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