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2024年度に分離されたエコーウイルス11型の遺伝子解析

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2024年度に分離されたエコーウイルス11型の遺伝子解析

(IASR Vol. 46 p71-72: 2025年3月号)

エコーウイルス11型(E11)はエンベロープを持たない一本鎖(+)RNAウイルスで, エンテロウイルス属に分類される。E11ゲノムは, 5’末端より非翻訳領域, カプシド蛋白領域(VP4, VP2, VP3, VP1), 非カプシド領域(2A, 2B, 2C, 3A, 3B, 3C, 3D), 3’末端のポリAで構成され, 全長約7,500塩基である1)

2023年にフランス等のヨーロッパにおいて新生児での重篤なE11感染症が報告2,3)されたことに関連し, 2023年7月に世界保健機関(WHO)は, 一般住民の公衆衛生上のリスクは低いと評価する一方で, 各国に対して症例の監視と報告を奨励している。また, 日本においても2024年夏以降, E11による新生児重症肝炎等の情報があり4), 日本小児科学会から注意喚起の文書5), また, 厚生労働省より注意喚起および情報提供依頼の通知6)が出されている。

今回, 東京都において, 積極的疫学調査により搬入された検体と感染症発生動向調査によって搬入された臨床検体からE11を検出した。さらに, ウイルスを分離しウイルスゲノム全長解析を試みた。対象検体は, 2024年10~11月に都内の医療機関から搬入された3検体である。検査試料の内訳は, 積極的疫学調査で搬入された多臓器不全症例1例(A:男児・日齢12)の鼻咽頭ぬぐい液, 感染症発生動向調査で搬入された手足口病疑い症例1例(B:女児・1歳)および伝染性紅斑疑い症例1例(C:男児・6歳)の咽頭ぬぐい液である。VP4-VP2-seminested RT-PCR7)およびシーケンス型別により, いずれの検体からもE11が検出された。なお, CからはパルボウイルスB19が同時に検出されたが, 手足口病疑いの1例からは他のウイルスは検出されていない。これら3例から採取した検体をRD-18S細胞に接種し, ウイルス分離試験を実施した。細胞変性効果(CPE)が見られた培養上清からRNAを抽出し, NEBNext Ultra II RNA Library Prep Kit for Illumina(New England Biolabs)を用いてライブラリを調製後, MiSeqにより配列を得て, CLC workbench stationにより全長に近い長さの配列(7,420bpおよび7,421bp)を取得した。

得られた塩基配列を用い, ヨーロッパ由来株とともに系統樹解析を実施したところ, 3株ともE11のD5 lineage 1に属したが, ヨーロッパ由来株とはやや異なる位置にクラスターを形成した()。フランスで検出されたウイルスはD5 lineage 1に属し, E6との組換え体とされるが, 新生児の重症事例のみならず, 非重症事例, 新生児以外の事例が含まれている2)。今回解析した3検体も, 新生児の重症事例1検体と新生児以外の非重症事例2検体であり, Simplot解析によりE6との組換えが示唆された。

今回, 東京都内でE11が3症例から検出されたが, 重症例のみならず, 伝染性紅斑や手足口病疑い症例からも検出された。東京都検出株としてクラスターを形成しているが, 遺伝子配列は完全には一致しておらず, 都内での集団発生は現時点では探知されていない。

現在, 積極的疫学調査が開始され, 新生児のE11感染事例に関して情報収集が行われている6,7)。我々が解析した重症例もしくは市中感染例で検出されたE11は, 地方衛生研究所でエンテロウイルスの検査として使用されているVP4-VP2-seminested RT-PCR8)およびシーケンス型別による検査でも検出可能であった。新生児E11感染事例に対する積極的疫学調査に加えて, 伝染性紅斑や手足口病などの感染症発生動向調査として実施されている病原体サーベイランスで得られたデータを効果的に活用することにより, 軽症例を含めたE11感染症流行の全体像を把握することが, 新生児E11感染重症例の実態解明に役立つと思われる。

病原体検出情報システムへのE11の登録数は2024年5~9月にかけて増加傾向にあり9), 今後, 東京で検出されたE11についての解析をさらに進めるとともに, 今後の流行状況について注視していきたい。

参考文献

1.細矢光亮, 小児のエンテロウイルス感染症, 環境感染誌 32: 344-354, 2017
2.Grapin M, et al., Euro Surveill 28: 2300253, 2023
3.Piralla A, et al., Euro Surveill 28: 2300289, 2023
4.松井俊大ら, IASR 46: 14-16, 2025
5.日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会, 新生児におけるエコーウイルス11による重症感染症に関する注意喚起
   https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=625
6.厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課, 新生児におけるエコーウイルス11型(E-11)感染症の発生について(注意喚起及び情報提供依頼), 令和6(2024)年12月3日
   https://www.mhlw.go.jp/content/001345108.pdf
7.厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課, エコーウイルス11型(E-11)感染症の実態把握について(協力依頼), 令和7(2025)年2月6日
   https://www.mhlw.go.jp/content/001400326.pdf
8.国立感染症研究所, 手足口病病原体検出マニュアル
   https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/HFMdis20180222.pdf
9.国立感染症研究所, 病原微生物検出情報システムに登録されたエンテロウイルス属及びエコーウイルス11の記述疫学, 2018-2024年(2024年11月28日現在)
   https://www.niid.go.jp/niid/ja/entero/680-idsc/13033-info-241211.html
東京都健康安全研究センター     
 高橋久美子 熊谷遼太 浅倉弘幸  
 岡田若葉 矢尾板 優 原田幸子  
 西塚 至 長島真美 貞升健志   
 吉村和久             
東京都立小児総合医療センター感染症科
 宮下 晶 森 晴奈 堀越裕歩   
三尾医院              
 三尾 仁            

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