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多剤耐性結核菌等の薬剤耐性の定義の変更やトレンドについて

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多剤耐性結核菌等の薬剤耐性の定義の変更やトレンドについて

(IASR Vol. 46 p51-52: 2025年3月号)
 

多剤耐性結核菌(multidrug-resistant Mycobacterium tuberculosis: MDR-TB)は結核の治療に用いられる主要薬剤であるイソニアジド(Isoniazid: INH), リファンピシン(Rifampicin: RFP)およびピラジナミド(Pyrazinamide: PZA)のうち, INHとRFPの両方の薬剤に耐性を有するものを指す。世界保健機関(WHO)は2019年にそれまでMDR-TBの治療の主力としていた注射剤(Amikacin, Kanamycin, Capreomycin)の使用を基本的に中止し, Bedaquiline(BDQ)を中心とする全経口薬による治療にシフトした1)。これは, 患者が長期間の注射剤の治療に堪えられないことが原因とされている。その当時, 超多剤耐性結核菌(extensively drug-resistant Mycobacterium tuberculosis: XDR-TB)の定義はMDR-TBに加えて, 少なくとも1つのフルオロキノロン薬および少なくとも1つの二次注射薬(前述の3剤)に耐性を有していること, とされていた2)。しかしながら, WHOが治療方針を変更したことにより, 注射剤への耐性を含むXDR-TBの定義は意味をなさなくなった。

WHOが2021年1月27日にwebサイト上で公表した「Meeting report of the WHO expert consultation on the definition of extensively drug-resistant tuberculosis, 27-29 October 2020」3)によると, XDR-TBの定義が変更され, 2021年1月から適用された。WHOは将来的にまた定義が変更されることも想定し, 今回のXDR-TBの変更に至っている。にWHOが定める薬剤のカテゴリーを示す。新しいXDR-TBの定義は, 従来のMDR-TBに加えて, 少なくとも1つのフルオロキノロン薬およびもう1つのグループA薬剤に耐性を有すること, となっている。ここでグループAの薬剤とはレボフロキサシン(Levofloxacin: LVFX), モキシフロキサシン(Moxifloxacin: MFLX), ベダキリン(Bedaquiline: BDQ)およびリネゾリド(Linezolid: LZD)となっている()。LVFXとMFLXはフルオロキノロン薬であるから, LVFXとMFLXのどちらか一方に耐性で, なおかつBDQとLZDのどちらかに耐性を有するMDR-TB, という定義となる。

XDR-TBの変更が発表された当時, 結核菌のうち日本において感染症法第56条の16に規定される三種病原体等に該当するのは, 旧XDR-TBに該当する結核菌であり, 世界的にXDR-TBの定義が変更されるに当たって, 薬剤耐性菌(AMR)サーベイランス情報収集上の問題もあるため, 日本国内でも新しいXDR-TBの定義に合わせて三種病原体等に該当する結核菌の定義を変更する必要があった。これに対応して, 日本でも令和5(2023)年5月26日の厚生労働省健康局結核感染症課課長通知により, WHOの定義に合わせた三種病原体等としての結核菌が定義され, XDR-TBが三種病原体等となった。

三種病原体等であるXDR-TBの同定方法は, 日本結核病学会(現在の日本結核・非結核性抗酸菌症学会)の指針が示す試験方法または米国のClinical& Laboratory Standards Institute: CLSI(臨床および検査室基準設定機構)が示す試験方法による薬剤感受性試験において行うものとすること, とされている。しかしながら, 上記の新XDR-TB定義にあるBDQとLZDについては, いずれの基準にも方法が示されていない。また検査キットが市販されていないため, 一般検査室でこれらの薬剤感受性試験を実施するのは基本不可能と思われる。日本国内で1年間に発生するMDR-TBの数は30件程度と推定されるので, MDR-TBが三種病原体等に相当する結核菌であるかどうかを確定するには, BDQ, LZDおよびLVFX/MFLXの感受性試験について結核予防会結核研究所抗酸菌部へ依頼する(LVFXは市販のキットで判定可能である。LVXFとMFLXには基本的に交叉耐性がある)。

MDR-TBの患者数はこの10年間で漸減しているが, 全分離株におけるMDR-TBの割合は増加傾向にある。これは, かつて日本出生者が獲得耐性として持っていたMDR-TBが減少し, 代わりに外国生まれ結核患者によるMDR-TBの持ち込みが増加していることによる4)。海外ではBDQ+LZD+Pretomanidによる短期化学療法が拡大しつつあり, 今後XDR-TBが増加する可能性は考えておかねばならない。当然ながら, 適切な検査法も準備する必要があり, 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究班で進行中である。

 

参考文献

  1. WHO, WHO consolidated guidelines on drug-resistant tuberculosis treatment, 2019
  2. WHO, Extensively drug-resistant tuberculosis(XDR-TB): recommendations for prevention and control, Weekly Epidemiol Record 81: 430-432, 2006
  3. WHO, Meeting report of the WHO expert consultation on the definition of extensively drug-resistant tuberculosis, 27-29 October 2020, 2021
    https://iris.who.int/handle/10665/338776
  4. 公益財団法人結核予防会, 結核の統計2024, 2024
公益財団法人結核予防会結核研究所抗酸菌部
 御手洗 聡

 

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