結核診断方法(網羅解析)の利用について
(IASR Vol. 46 p52-53: 2025年3月号)結核の診断方法は, 感染部位と思われる臓器由来の検体から結核菌を検出同定することに尽きる(必要条件)。現在の一般的な細菌学的検出技術の検出限界は100 CFU/mL程度なので, ある程度活動性の結核が進展した状態でないとこれだけの濃度で検出できない。逆をいえば, 一般的な結核菌検出技術で検出できた場合はほぼ間違いなく活動性結核であるといえる。しかしながら, 現在の診断感度で満足かと問われると, 否と回答せざるを得ない。可能な限り高感度かつ迅速な結核菌検出が望まれるのは間違いない。
わが国の結核の罹患率は漸減して低まん延状況となり(罹患率8.1/人口10万)1), 非結核性抗酸菌症が漸増している(推定罹患率19.2/人口10万)2)。確率的に考えれば, 塗抹や培養検査で抗酸菌を検出したとしても, その多くは非結核性抗酸菌である確率が高い, ということになる。したがって, 高感度かつ迅速であることに加えて, 結核菌について高い特異性を有することも必要となる。可能であれば, 非結核性抗酸菌までカバーして検出同定できれば, より臨床的には有用性が高くなる。結核が臨床的に稀少な疾患となりつつあることを背景として, 特異性を維持しつつ, 従来よりも高感度な結核菌検出法が必要とされている。
結核に関する主要な問題のひとつは, 長年にわたる抗結核薬の使用の結果としての薬剤耐性(獲得耐性)である。さらに近年では, 薬剤耐性結核の多い海外で感染して日本国内で発病する外国生まれ結核患者が増加していることから, 輸入感染症としての薬剤耐性結核も増加している。特に海外では, 新薬の併用による多剤耐性結核治療が一般化しているため, 日本にはないパターンの薬剤耐性による結核も危惧されている。これらの薬剤感受性を, 特に臨床検体から直接迅速かつ網羅的に解析することも, 必要な技術である。
1. 網羅的診断技術
現在, 日本国内で製造販売承認を受けている抗酸菌網羅検出キットとして「MEBGENTM抗酸菌核酸同定キット(医学生物学研究所)」(保険未収載)がある。本試薬は, 喀痰または培養菌中の抗酸菌DNAを検出する試薬であり, 結核菌およびMycobacterium avium-intracellulare complexならびにMycobacterium kansasii, Mycobacterium abscessusなどの一般的に臨床で分離される非結核性抗酸菌28菌種を1回の検査で検出同定することができる3)。基本技術はLuminexであり, ある程度の定量性もあると報告されており, 臨床利用に期待がある。
網羅性および高感度を追求すると, メタゲノム解析(metagenomic next generation sequencing: mNGS)が主要な候補となり得る。16S-ITS領域をPCR増幅して次世代シーケンシング(next generation sequencing: NGS)を行う方法が一般的で, 複数の外部検査サービスが利用可能である。得られた配列を用いてデータベースに対する相同性検索および系統分類解析を実施することにより, 対象検体中にどのような微生物がどれくらい存在しているかを明らかにすることが可能である。ただし標的となる遺伝子濃度が極めて低い場合, 臨床検体ではしばしばヒトゲノムとの競合が発生し, 標的遺伝子が増幅されない場合がある。そのような場合は, 検体から抽出したDNAを用いて, 核酸増幅を行わずにライブラリー調製を行い, 大量のヒトゲノムを含んだ状態のままNGSを実施する(shotgun mNGS)。稀少な遺伝子標的を検出するには膨大なリード数が必要となるが, より詳細かつ高感度な細菌叢解析が可能である4)。
2. 網羅的薬剤感受性試験
表現型薬剤感受性試験は, 対象とする薬剤の種類を拡大すれば良いので, その意味では十分に網羅的である。ただし薬剤数を増やしただけコストは増加する。従来の標的遺伝子を個々に増幅してシーケンスする方法も同様で, 標的を増やせば網羅的になるが, コストは幾何級数的に増加する。
結核菌ゲノム解析の強みは, 標的遺伝子をそれぞれ増幅してシーケンスする従来の方法に比べて遺伝子のカバレッジが極めて広範で, それだけ耐性変異を高感度に検出することが可能になる点である。現在, ゲノムシーケンスと引き続く遺伝子変異(mutation/indel)解析が遺伝子型薬剤感受性試験(genotypic drug susceptibility testing: gDST)の標準的な方法となっている。ゲノムによるgDSTは確かに網羅的であるが, 結核菌ゲノム解析では大量の結核菌DNAが必要となり, 培養したコロニーから核酸を抽出する経過を経るため, 従来同様時間がかかるのが難点である。
そこで, 耐性遺伝子をマルチプレックスPCRで平行して増幅し, アンプリコンをディープシーケンスするtargeted NGS(tNGS)が迅速かつ網羅的結核菌gDSTとして普及しつつある。Deeplex Myc-TB(Genoscreen, France)が先進工業国では広く普及している(日本未承認)が, 15種の薬剤に対する遺伝子変異を2~3日以内に検出することが可能である5)。
参考文献
- 公益財団法人結核予防会, 結核の統計2024, 2024
- Hamaguchi Y, et al., ERJ Open Res 11: 00337-2024, 2025
- Uwamino Y, et al., Microbiol Spectr 11: e0516222, 2023, doi: 10.1128/spectrum.05162-22
- Sun W, et al., Int J Infect Dis 103: 91-96, 2021, doi: 10.1016/j.ijid.2020.11.165
- Cabibbe AM, et al., J Clin Microbiol 58: e00632-20, 2020, doi: 10.1128/JCM.00632-20