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川崎市における結核分子疫学解析が有効であった3事例について

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川崎市における結核分子疫学解析が有効であった3事例について

(IASR Vol. 46 p57-58: 2025年3月号)
 

1. 緒 言

結核の遺伝子型別法として各自治体において反復配列多型(VNTR)法や結核ゲノム解析が実施されている。川崎市では, 2015年から川崎市結核分子疫学調査事業としてVNTR解析を実施し, 結核菌株の収集・解析を行ってきた。分子疫学解析が疫学調査の現場で有効に使用された事例を経験したので報告する。

2. 各事例の概要

事例1: 患者は30代男性Aと40代男性B

2年前に登録となった患者Aと同一の職場で新たに患者Bが発生した。感染源調査を進めるうえで同一感染源かどうかを把握するために, VNTR解析を実施した。川崎市健康安全研究所にすでに搬入されていた患者Aの分離株および新たに届け出られた患者Bの分離株についてVNTR解析を実施したところ, 24領域すべて一致し, 同一感染源であったことが示唆された()。この結果をもとに, 感染源調査の範囲を設定することができた。

事例2: 患者は80代男性

当初は感染源が明らかではなかったが, 事業の一環として当該患者の結核菌株を回収し, VNTR型を当所のデータベースで確認したところ, 川崎市内で5年前に集団感染を引き起こしたVNTR型と24領域で一致した()。このVNTR型は, 川崎市内で本事例に関連する患者以外では確認されていない型であった。患者の疫学情報を再度確認したところ, 患者は集団感染に関連があったことが判明した。同株間の相同性をより詳細に解析するため, ゲノム解析により集団感染事例株と当該株の一塩基多型(SNP)を比較したところ, 2-3SNPであったことから本集団感染事例の際に感染したと推察された(図1)。本事例は分子疫学解析結果から患者の背景の特定に至った事例であった。

事例3: 患者は20代男性2名

いずれも同一学校内に在籍していたが, 患者同士の接触は明らかでなかった。VNTR型は24領域中23領域で一致し(), 患者の聞き取り調査を再度実施したが, 患者同士の接触は確認されなかった。同2株についてゲノム解析を実施したところ, 2SNPと菌株の相同性は極めて高いことが判明した(図2)。これらの結果を踏まえて, 患者2名は施設内で何らかの接触により感染したものと考えられ, 接触者健診対象者の再検討がなされた。

3. 考 察

事例1は個々の患者の菌株を収集していたため, 2年後に発症した患者との菌株の比較が可能であった。事例2では集団発生事例のVNTR型を注視していたことにより, 患者の隠された疫学的リンクが判明した。これらの事例の解析結果より, 長期的な菌株の収集やVNTR型のデータを蓄積することが重要であることが改めて明らかとなった。より効果的な解析を実施するためには, 集団発生事例に関する株のみではなく, 通常時から可能な限りすべての患者の菌株を収集しておくことが重要であると考える。同時に, 地域で頻発するVNTR型や集団発生事例のVNTR型を把握しておく必要がある。事例2ではVNTR型が集団事例のみで一致し, 市内で同VNTR型が確認されなかったため, より詳細な調査が可能であった。しかし, 川崎市ではストレプトマイシン耐性を持つM株等, 同一のVNTRパターンである特定の株が毎年複数株検出されており, 感染源調査の際にはVNTR解析のみでは限界がある。このような事例では, ゲノム解析を実施することでより詳細な結核伝播の状況を把握することができるため, 川崎市においてはゲノムデータの取得・解析を進めている。今後は事例3のように, 積極的疫学調査にゲノム解析結果を有効に活用し, 感染伝播を把握するなど, 対策に役立てる必要があると考える。自治体間のVNTRデータの照会は一部可能ではあるが, 国内全体のVNTRデータおよび結核菌ゲノムデータの蓄積が望まれる。

川崎市健康安全研究所      
 淀谷雄亮 西里恵美莉 湯澤栄子
川崎市健康福祉局保健医療政策部 
 平原千加子 梶野香与子

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