入国前結核スクリーニングについて
入国前結核スクリーニングについて
(IASR Vol. 46 p58-61: 2025年3月号)わが国の2023年における新登録結核患者数のうち, 外国生まれ結核患者は1,619人で, 前年の1,214人から405人増加し, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行が発生した2019年における外国生まれ結核患者数のレベルに戻りつつある。一方, その割合は16.0%に達し, 前年の11.9%から大幅に増加している1)。わが国において発生する結核患者数を減らすためには, 外国生まれ結核患者数を減らす取り組みが必須の状況となっている。
2018年2月に厚生労働省(厚労省)の厚生科学審議会結核部会は, わが国で届け出される外国生まれ結核患者の出身者数が全体で80%以上を占める上位6カ国(フィリピン・ベトナム・ネパール・インドネシア・ミャンマー・中国)を対象に, 入国前結核スクリーニングを導入する方針を了承した。当初, 2020年度内に同スクリーニングを開始する予定であったが, COVID-19の世界的流行のため, その開始時期を延期していた。厚労省は, 2024年度内の本結核スクリーニング導入を決定し, 2025年3月以降, 上記6カ国のうち, 準備の整った国から順次導入することとしている2)。
厚労省は, 「日本入国前結核スクリーニングの手引き2024年12月版」を公表している3,4)。この手引きは, 英国の「UK Tuberculosis Technical Instructions(UKTBTI)version 7」5)を参考に, 日本が導入する予定の入国前結核スクリーニングの状況に合わせて編集したものである。
本結核スクリーニングにより発見する対象疾患は, 活動性肺結核(菌陽性・菌陰性)であり, 他の活動性結核(含肺外結核)で治療が必要と診断された場合も含む。潜在性結核感染症については, 本結核健診により発見する対象疾患とはしていない。本結核スクリーニング対象者は, フィリピン・ベトナム・ネパール・インドネシア・ミャンマー・中国から来日して, 3カ月を超える滞在をしようとする人, としており, 年齢制限は無い。
本結核スクリーニングは, 日本政府によってあらかじめ指定された健診医療機関(panel clinic)に所属する健診医(panel physician)によって実施され, 在留資格証明申請者が受診時に活動性結核を発病していない, と健診医により判断された場合に「結核非発病証明書」が発行され, 日本国内での滞在に必要な査証または在留許可証明書発行の手続きを進めることが可能となる。「結核非発病証明書」発行の要否は, 申請者の受診を担当した健診医の責任において決定される。
5歳以上の申請者における本健診の一般的な流れ(図1)は以下の通りである。
(1)すべての申請者に対して, 健診前に, 健診の目的や内容について十分に説明し, 検診を受けることについて書面による同意を得る。
(2)健診方法は胸部レントゲン撮影とし, その他の検査(例: 喀痰検査, ツベルクリン反応またはインターフェロンγ遊離試験)は申請者が費用を負担するとしても, 胸部レントゲン撮影の代用としては認めない。
(3)問診・身体検査・胸部レントゲン画像所見等により, 活動性結核または陳旧性結核を疑う所見が認められた申請者は, 3日間連続の喀痰検査(遠沈法による抗酸菌塗抹検査および結核菌培養検査)の対象となる。それ以外の申請者には, 「結核非発病証明書」が発行される。
(4)上記の結果, 活動性結核が発病していると考えられる場合には, 「結核非発病証明書」は発行されず, 活動性結核の治療を開始する。
(5)活動性結核の治療を受けた申請者は, 結核の治療を終了した後, 再度本健診を申請することが可能となる。
5歳未満の小児の申請者における本健診の流れを図2に示した。
入国前結核スクリーニングの精度保証について
入国前結核スクリーニングの申請者は, 日本に入国して3カ月を超える滞在を希望する人であり, 健診医療機関受診の目的は, 「結核非発病証明書」取得である。何らかの症状を有するために一般の医療機関を受診する患者とは受診目的が異なる。入国前結核スクリーニングの申請者は, 滞りなく「結核非発病証明書」が取得できることが目的であるため, 問診・身体検査・胸部レントゲン写真・喀痰検査等により, 「活動性結核」と診断されることを期待してはいない。そのため, 本人確認の徹底・より精確な問診における情報収集・的確な身体検査の実施・精度の高い胸部レントゲン写真撮影と画像読影・質の高い喀痰採取と抗酸菌検査を実施することは非常に重要である。また, 入国前結核スクリーニングの精度を確保するための柱は, 本結核スクリーニングを評価するための指標の設定と指標を得るための情報収集システムの構築である6,7)。本結核スクリーニングにおいては, 国連移民機関(International Organization for Migration: IOM)に委託し, 設定した指標値による事業評価を定期的に行うための情報収集システム(JPETS Information Management System: J-IMS)を構築して, 継続的に事業評価を行う予定である。
参考文献
- 公益財団法人結核予防会, 結核の統計2024, 2024
- 出入国在留管理庁, 外務省, 厚生労働省, 入国前結核スクリーニングの実施に関するガイドライン, 令和6(2024)年12月26日
https://www.mhlw.go.jp/content/001427485.pdf - 厚生労働省, 日本入国前結核検診の手引き, 2024年12月
https://www.mhlw.go.jp/content/001365232.pdf - 厚生労働省, Japan Pre-Entry TB Screening Technical Instructions, December 2024
https://www.mhlw.go.jp/content/001365243.pdf - Public Health England, UK Tuberculosis Technical Instructions (UKTBTI) version 7, 2019
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/800099/UK_tuberculosis_technical_instructions_version_7.pdf - Kunst H, et al., Int J Tuberc Lung Dis 21: 840-851, 2017
- Public Health England, UK pre-entry tuberculosis screening report 2016, 2017