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タイからの帰国後に発症したLegionella pneumophila SG13によるレジオネラ症例

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タイからの帰国後に発症したLegionella pneumophila SG13によるレジオネラ症例

(IASR Vol. 46 p87-88: 2025年4月号)

2024年11月, タイから帰国後にレジオネラ症を発症した患者から, 血清群(SG)13のLegionella pneumophilaが検出されたので報告する。

患者は, 60代の男性で, タイに1週間ほど滞在し, 帰国後5日目に体調不良を呈し自宅で療養していたが, 7日目に自宅で倒れているところを発見され, 医療機関へ緊急搬送された。

初診時点で発熱, 意識障害の症状に加え, 肺炎, 多臓器不全がみられた。

医療機関での検査では, イムノクロマト法による尿中レジオネラ抗原検査〔リボテストレジオネラ(極東製薬工業)〕で陽性が確認され, 発生届が提出された。

また, 培養により喀痰からレジオネラ属菌が分離され, リボテスト, LAMP法および生化学的性状試験の結果からL. pneumophilaと同定された。医療機関から当研究所に送付された菌株について, レジオネラ免疫血清「生研」(デンカ)を用い血清群別を実施した結果, SG13であった。

保健所での疫学調査では, 自宅での感染リスクについて, 加湿器の利用はなく, 毎日風呂の清掃も行われていた。また, 園芸や農作業など土埃との接触はなく, 周囲に同症状の体調不良者はいなかった。なお, 温泉・公衆浴場等の利用状況の聞き取り確認はできなかった。

分離菌株は, レジオネラ臨床分離株を収集している国立感染症研究所(感染研)細菌第一部レジオネラ・レファレンスセンターに送付した。L. pneumophilaの分子疫学解析であるsequence-based typing(SBT)法が実施されたが, 遺伝子型を決定するための7つの特定遺伝子のうちneuA(あるいはneuAh)遺伝子がPCRで増幅しなかったことから, 遺伝子型が決定できなかった。neuA(あるいはneuAh)遺伝子がPCRで増幅しなかった原因としては, バリアント(遺伝子の変異)の可能性が考えられた。

過去, 感染研において収集した菌株と, 本事例で得られたneuA(あるいはneuAh)遺伝子以外の6つの特定遺伝子の配列の一致状況を確認したところ, すべての国内臨床分離株と2遺伝子座以下しか配列が一致しておらず, 類似した遺伝子型を有する国内臨床分離株は存在しなかった。また, neuA(あるいはneuAh)遺伝子が増幅しなかった菌株としては, 本事例が2例目であった(1例目は, SG8の臨床分離株例)。

国内では臨床検体から分離されるレジオネラ症の菌株のうち, 大部分がL. pneumophilaのSG1であり, 2013~2023年のレジオネラ・レファレンスセンターに送付されたL. pneumophila菌株702株のうちSG13は2株と極めて少なく1), 当研究所においても臨床株として初めて確認された血清群となった。

一方, 冷却塔水におけるレジオネラ属菌の生息実態調査において, 冷却塔水からSG13が検出される傾向が報告されている2)

当研究所においても, 浴槽水および冷却塔水等のレジオネラ属菌について検査を実施しているが, 過去10年でSG13は12株検出されており, 内訳は冷却塔水由来が11株, 地下水槽水由来が1株であり, 菌株数は少ないものの, 人工環境中の分布としては, 浴槽水よりも冷却塔水に多く分布する傾向がみられた。

本事例は, 疫学調査および分子疫学調査の結果から, 感染源および感染経路の特定はできなかったが, 潜伏期間等から渡航先のタイで感染した可能性が高いと考えられた。

レジオネラ症はヨーロッパにおいて旅行関連感染症とみなされており, ヨーロッパ全域の発生状況が, 欧州疾病予防管理センター(ECDC)のELDSNet(旅行関連レジオネラ症に関する情報交換ネットワークシステム)で整備されている。欧州の地図上から発生状況を検索できるツールと, レジオネラ症の患者が宿泊した宿泊施設の一覧が公開されており3), 旅行者が旅行先や宿泊先を決定する一助になっている。今後, アジア圏や国内でも同様なシステムの整備が望まれる。

本邦においては, 旅行関連感染症といった位置づけはないものの, 海外渡航後のレジオネラ症は複数報告されており, 2022年の発生動向調査では, 14例報告されている4)

本事例は海外からの帰国後にレジオネラ症と診断され, L. pneumophilaの臨床株として稀なSG13が検出された貴重な症例となった。

参考文献

1) IASR 45: 107-109, 2024
2) 武藤智恵子ら, 東京健康安全セ年報 64: 195-199, 2013
3) ECDC, European Legionnaires’ Disease Surveillance Network(ELDSNet)
      https://www.ecdc.europa.eu/en/about-us/partnerships-and-networks/disease-and-laboratory-networks/eldsnet
4) 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 感染症発生動向調査事業年報 2022年(令和4年)確定報告データ, 第5-1
      https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/annual/2022/syulist/Syu_05_1.xlsx
千葉市環境保健研究所     
 本宮恵子 水村綾乃 若岡未記
 小林律輝 秋葉容子 長埜朗夫
 荒井健二 田中俊光 前嶋 寿
千葉市立海浜病院臨床検査科  
 静野健一          
千葉市保健所感染症対策課   
 小松百花 熊谷智生     
国立感染症研究所細菌第一部  
 前川純子 佐伯 歩     

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