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先天性風疹症候群の臨床について

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先天性風疹症候群の臨床について

(IASR Vol. 46 p75-76: 2025年4月号)

先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome: CRS)は, 妊婦が風疹ウイルスに感染し, 胎児が経胎盤感染することで発症する疾患である。胎児の感染率は母体の妊娠月齢によって異なり, 妊娠1カ月で50%以上, 2カ月で35%, 3カ月で18%, 4カ月で8%程度とされる1)。胎児組織における持続感染により細胞増殖が阻害され, 発育異常や器官形成不全が引き起こされると考えられ, 感染した児の約1/3が症候性となる。CRSは1940年代に新生児白内障の原因として報告され, その後, 1960年代の研究により疾患概念が確立した2,3)。日本でも風疹流行のつどにCRS患者が発生し, 2012~2013年の流行に続発した45例のCRS症例に基づく知見が多い4)

同知見によるとCRS患者の臨床像は, 早期産(24%), 低出生体重(67%), 頭蓋内石灰化(40%), 肝腫大(31%), 血小板減少(73%), 紫斑(47%)など, 持続的な全身感染症の所見が認められる4)。さらに, CRSの三大症候である先天性心疾患(58%), 難聴(67%), 白内障(16%)が認められる。神経学的所見は数年を経て明らかになることもある3)。予後については, 生後6か月以内に10例が死亡し, さらに1例が15か月時にRSウイルス感染症罹患後に死亡している。致命率は24%に達する予後不良な疾患である4)

先天性心疾患では, 動脈管開存症や肺動脈狭窄が最も多い5)。動脈管開存症は早期産児にもみられるが, CRSでは管状動脈管開存症が16%と高率に認められ, 肺高血圧を合併するリスクが高いとされる6)。重症の白内障は視力の発達を妨げるため, 早期の手術が推奨される2)。さらに, 網膜症や小眼球症などの眼の異常もCRSに関連する。感音性難聴の診断は新生児期には困難で, 出生時の聴力検査で異常がなくても成長とともに進行することがある。神経学的発達の遅滞も多く認められ, 自閉スペクトラム症が約40%に確認されている7)。他に, 内分泌疾患や免疫学的異常の発症も報告されている8)

診断

CRSの診断には臨床的な症状や所見に加えて, 風疹特異的IgM抗体の検出あるいは, 咽頭ぬぐい液・唾液・尿のPCR検査が推奨される9)。さらに, ウイルスの分離・同定や, 血清赤血球凝集抑制(HI)抗体価が移行抗体の推移から予測される値を上回り持続する場合(出生児のHI抗体価が月当たり1/2の低下率で減少しない場合)も, 診断基準を満たす。CRSは感染症法に基づく感染症発生動向調査の全数把握疾患であり, 診断した医師は, 患者または感染症死亡者を確認した場合, 7日以内に最寄りの保健所へ届出を行う義務がある。

また, 出生時の合併症評価には心エコー検査, 眼底検査, 聴力検査, 超音波検査, CT・MRIによる頭部画像検査が必要となる。

治療と管理

CRSに対する根治的治療法はなく, 対症療法が中心となる。かかりつけ医と各専門医による定期的なフォローアップが求められる。具体的な診療指針については, 学会が策定する「先天性風疹症候群(CRS)診療マニュアル」を参照されたい9)

感染対策

CRS児は, 風疹ウイルスを生後半年~数年にわたり気道から排泄するため, 保健所や地方衛生研究所と連携して陰性化確認検査を行っていく。国内の患者では, real-time PCR法により, 生後6か月までに33.8%, 12か月時点で16.9%に咽頭ぬぐい液中にウイルス排泄が確認された10)。CRS児から感受性者への伝播が報告されており, 適切な感染対策が必要である。

風疹に対する感染対策の基本は飛沫感染予防および接触予防策であるが, CRS児からの伝播報告は少なく, 状況からは濃厚接触によるものと考えられる11)。そのため, 出生児がCRSを疑われる場合, 標準予防策に加えて接触予防策を実施し, 飛沫曝露がある場合には飛沫予防策を追加する9)。周囲の医療従事者や家族は風しん含有ワクチンの接種を受け, 免疫を獲得する。

予防

CRSを予防する唯一の方法は, 風しんワクチンの接種である。風しん含有ワクチン(MRワクチン)の定期接種による集団免疫の確立に加え, 妊娠前の抗体価確認とワクチン接種が重要である。妊娠中は, ワクチンウイルスによる感染リスクに加え, 極めて稀ではあるがCRSの発症例が報告されているため, 接種不適当者に該当する12)。妊娠初期の検査で感受性者であることが判明した場合は, 妊娠中の風疹ウイルスへの曝露を避けるとともに, 出産後早期に風しん含有ワクチンを接種することが推奨される。

参考文献

    1. 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 先天性風疹症候群
      https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/rubella/020/crs-intro.html
    2. Gregg NM, Epidemiol Infect 107: iii-xiv, 1991
    3. Reef SE, et al., Clin Infect Dis 31: 85-95, 2000
    4. Kanai M, et al., J Pediatric Infect Dis Soc 11: 400-403, 2022
    5. Toizumi M, et al., Pediatrics 134: e519-26, 2014
    6. Toizumi M, et al., Sci Rep 9: 17105, 2019
    7. Toizumi M, et al., Sci Rep 7: 46483, 2017
    8. Maldonado YA, Principles & Practice of Pediatric Infectious Diseases, 4th ed: 1115, 2003
    9. 日本周産期・新生児医学会, 先天性風疹症候群(CRS)診療マニュアル, 2014年1月
      https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/CRS_manual.pdf?utm_source=chatgpt.com
    10. Sugishita Y, et al., Jpn J Infect Dis 69: 418-423, 2016
    11. Schiff GM, Dine MS, Am J Dis Child 110: 447-451, 1965
    12. Bouthry E, et al., Pediatrics 152: e2022057627, 2023
   浜松医科大学小児科学講座
    宮入 烈

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