外部精度管理事業:麻疹・風疹ウイルスの塩基配列・遺伝子型解析
外部精度管理事業:麻疹・風疹ウイルスの塩基配列・遺伝子型解析
(IASR Vol. 46 p76-77: 2025年4月号)
厚生労働省外部精度管理事業は, 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」1)に基づき感染症の検査を行う公的検査施設(地方衛生研究所および保健所等)を対象として, 外部精度評価の機会を提供し, 検査の信頼性を確保することを目的としている。
令和6(2024)年度の外部精度管理事業の課題の1つとして, 麻疹・風疹ウイルスの塩基配列・遺伝子型解析を評価対象とした精度管理が76施設を対象に実施された。盲検化された麻疹および風疹ウイルスRNA各1検体を各施設に送付し, 参加施設の解析手順にしたがって麻疹および風疹ウイルスRNAの塩基配列の決定ならびに遺伝子型別判定を行うことを課題とした。
塩基配列決定の正答率は, 麻疹ウイルスで94.7%, 風疹ウイルスで73.7%であった(表)。遺伝子型判別の正答率は, 麻疹ウイルスで100%, 風疹ウイルスで97.4%であった(表)。特に風疹ウイルスの塩基配列決定の正答率が低いことから, 塩基配列決定における主な注意点をまとめる。
塩基配列解析における注意点
(1)風疹ウイルス2断片RT-PCR法における適切な塩基配列のトリミング
風疹ウイルスの遺伝子型決定部位は比較的長く, PCR増幅感度がやや低い。病原体検出マニュアル2)ではその改善のため, オーバーラップする前後2断片に分けて増幅し, 塩基配列をつなぎ合わせて全長配列を決定する方法を記載している。その際, オーバーラップ領域に含まれるPCRプライマー由来の配列を適切に除去する必要がある(図)。10施設でこのトリミングに起因する誤回答が認められた。正しい手順の理解が必要である。
(2)シーケンスデータの品質確認と選択
一般的にシーケンスの読み始め付近の領域はデータ品質が低くなるため, 1つのPCR産物に対して両末端からシーケンス反応を行い, 波形データを精査したうえで品質の低い部分を用いずに全長配列を決定する必要がある。今回, 品質を十分に確認せずに塩基配列の決定を行ったことに起因する誤回答が散見された。一方, 両末端からのシーケンスデータで共通した塩基のみを登録していたケースがあったが, 片方の品質が低くても, もう片方の品質が高ければ, 品質の高いデータを採用することで構わない。
その他に, データ品質に影響を及ぼす要因として, シーケンス反応に用いたPCR産物の品質, シーケンス反応後の精製方法, シーケンサーのメンテナンス状況, などが挙げられる。適切な試薬の選択や定期的な機器のメンテナンスが重要である。
(3)人為的エラーの低減
波形データに問題がないにもかかわらず, それを塩基配列(テキストデータ)に変換する際に人為的なミスによる塩基置換が入り, 誤答となるケースが散見された。また同様に, 波形データには問題が認められなかったが, 塩基配列を全く関係のない配列と置き換えてしまい, それを用いた遺伝子型解析も不正解となるケースもあった。詳細な原因は不明だが, 慎重にデータを取り扱っていれば防げるミスであったと考えられる。
まとめ
今回の外部精度管理では, 特に風疹ウイルスの塩基配列決定の正答率が低かった。原因としては, シーケンス反応の不良のみならず, 得られた塩基配列データを解析する段階での問題も認められた。今後も本事業を通して, 参加施設に評価結果や改善点をフィードバックしていくことが, 検査の信頼性を確保するうえで重要であると考えられた。
参考文献
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律〔平成十(1998)年法律第百十四号〕
- 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 病原体検出マニュアル風疹(第5.0版)
https://id-info.jihs.go.jp/relevant/manual/010/Rubella20221003.pdf
国立感染症研究所ウイルス第三部
中津祐一郎 鈴木聡志 佐藤佳代子
森 嘉生 大槻紀之 水越文徳
梁 明秀