風しん含有ワクチンの第1期・第2期・第5期定期予防接種の実施状況
風しん含有ワクチンの第1期・第2期・第5期定期予防接種の実施状況
(IASR Vol. 46 p77-79: 2025年4月号)
風疹の定期予防接種(以下, 定期接種)は, 第1期(1歳児)および第2期(5歳以上7歳未満:小学校入学前1年間)の2回接種に加えて, これまで風疹の定期接種を受ける機会が一度もなかった1962(昭和37)年4月2日~1979(昭和54)年4月1日生まれの男性を対象に, 2019年より2024年度末までの予定で第5期定期接種が実施されている。定期接種に用いるワクチンは, 原則, 麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)である。第5期対象者には全国4万カ所以上の医療機関で使える無料のクーポン券が市区町村より配布される。風疹抗体検査を受け, HI抗体価1:8相当以下であった場合, 定期接種としてMRワクチンを1回接種可能である。
定期接種率を迅速に公表し, 積極的な勧奨に繋げていくことが重要として, 厚生労働省は, 第1期, 第2期について全国の都道府県・市区町村の協力により, 2008年度から麻しんと風しんワクチンの定期接種率調査を実施している。第5期については, 抗体検査, ワクチン費用の請求・支払いを担っている国民健康保険団体連合会の実績をもとに, 2019年度から実施状況の把握を行っている。
本稿では2023年度の第1期, 第2期風しん含有ワクチン接種率の概要と, 2024年11月までに実施された第5期接種の概況について述べる。
1)第1期(1歳児):接種率は, 分母を2023年の10月1日現在の1歳児の数, 分子を2023年4月1日~2024年3月31日までの定期接種実施合計人数として算出した。2023年度の接種率は94.9%であり, 前年度の95.4%から0.5ポイント低下した。風疹排除に向けた目標値とされる接種率95%以上を達成した自治体は前年度より1県増え22都府県であった(図1)。
2)第2期(5歳以上7歳未満:小学校入学前1年間):接種率は, 分母を2023年4月1日~2024年3月31日までの間に6歳となった者の数, 分子を2023年4月1日~2024年3月31日までの定期接種実施合計人数として算出した。2023年度の接種率は92.0%であり, 前年度の92.4%からさらに0.4ポイント低下した。95%以上の接種率を達成した自治体は1県から2県に微増したものの, 5道県で90%を下回った(図2)。
3)第5期(1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性):対象者数は2019年度開始時点で15,374,162人であった。うち2024年11月までに抗体検査を受けた人が4,983,020人(対象人口の32.4%), 予防接種を受けた人が1,072,450人(対象人口の7.0%)であった。各都道府県別のクーポン券使用抗体検査実施者割合を図3に示す。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行にともなう行動制限や医療提供体制の逼迫などにより, 世界的に定期接種の接種率低下が認められた。2023年の麻しん含有ワクチン1回目接種率は, 世界全体で83%と依然低い状態が持続している1)。今回の調査では, 第1期で目標の95%に達した自治体は半数以下にとどまっていること, 特に第2期で接種率が低く, 80%台の自治体が増加していること, が示された。1歳6か月児健康診査に加え, 就学時健康診断や, 新年度に向けた子ども予防接種週間の通知2)などによる接種勧奨が重要と考えられた。
2024年には, 一部のワクチンを製造販売する企業において, ウイルス力価が承認規格を下回るロットが確認されたことなどから, 製造販売業者によるMRワクチンの自主回収が行われ, 11月に出荷停止の案内があった3,4)。第5期接種は, 小児の定期接種に支障をきたさないよう, 抗体検査を前提とした制度設計となっているが, 需給バランスを維持した確実な予防接種の実施のため, 医師会, ワクチン産業協会を含めた関係者の連携が重要である。
疫学的には, 感染の原因や経路記載があった症例のうち, 職場が最多であった調査年があり, 男性の職場における風疹の感染機会は多い5)。そこから家庭内に風疹ウイルスが持ち込まれ, 妊婦の感染やそれにともなう先天性風疹症候群(CRS)のリスクが高まる。こうしたことから, ナッジ(意思決定の特性を踏まえ, 最適な選択を自発的に実行できるよう促すメッセージ等)の活用を含めた企業や家庭内における風疹対策について, 「風しんの日」等に合わせて啓発されている6)。
風疹, CRSの排除を目標とする日本において, 高い風疹定期接種率を達成し, 維持していく努力が必要である。
参考文献
- WHO, Immunization dashboard
https://immunizationdata.who.int/(accessed 2025年2月12日) - 厚生労働省, 令和6(2024)年度「子ども予防接種週間」の実施について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000193336_00009.html(accessed 2025年2月12日) - 厚生労働省, 乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン及び乾燥弱毒生麻しんワクチンの製造販売業者による自主回収への対応について, 令和6(2024)年1月16日
https://www.mhlw.go.jp/content/001229710.pdf(accessed 2025年2月14日) - 厚生労働省, 乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチンの今後の供給見通し等について, 令和6(2024)年12月12日
https://www.mhlw.go.jp/content/001352011.pdf(accessed 2025年2月14日) - 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 職場における風しん対策ガイドライン, 平成26(2017)年3月
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/graph/diseases/rubella/010/syokuba-taisaku.pdf(accessed 2025年2月14日) - 大阪大学感染症総合教育研究拠点, 風しんの抗体検査と予防接種のクーポン券が届いた方へ
https://www2.cider.osaka-u.ac.jp/rubella/index.html(accessed 2025年2月14日)
国立感染症研究所
感染症疫学センター
厚生労働省健康・生活衛生局
感染症対策部予防接種課
感染症対策部感染症対策課