世界における風疹および先天性風疹症候群の排除に向けた進捗状況, 2012~2022年
世界における風疹および先天性風疹症候群の排除に向けた進捗状況, 2012~2022年
(IASR Vol. 46 p82-84: 2025年4月号)
はじめに
風疹排除は公衆衛生上の重要な目標である。米国疾病予防管理センター(CDC)発行のMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)に掲載された世界各国の取り組みと現状に関する報告を抄訳して, 以下に紹介する。
背景
風疹ウイルス感染は発熱性発疹を引き起こすほかに, 妊娠初期の感染では流産, 胎児死亡, 死産, または先天性風疹症候群(CRS)を引き起こす可能性がある。風しん含有ワクチン(RCV)接種により生涯にわたり風疹を予防できる。風疹の排除は「麻疹・風疹に対する戦略的枠組み2021~2030」の重要な目標である。本報は2012~2022年の風疹とCRSの排除に向けた世界の進捗状況をまとめる。
方法
予防接種活動
世界保健機関(WHO)の国の予防接種プログラムへのRCV導入における推奨戦略は, 風疹未罹患の可能性のある人々(通常14歳以下)を対象とした初期のキャッチアップキャンペーンである。加盟国でRCV1回以上接種率の80%以上達成維持を目標としている注)。WHOと国連児童基金(UNICEF)による各国の報告に基づくRCV推計接種率を参照した。
注)抄訳者補足:この目標値は2024年9月のWHOの予防接種に関する戦略諮問委員会会議において90%以上へ強化が提言された。
風疹およびCRSサーベイランスと報告状況
風疹およびCRSは標準的症例定義に基づいて各国から報告される。風疹サーベイランスは発熱発疹性疾患が探知される麻疹サーベイランスによる。CRSはしばしば少数のセンチネル施設からの報告として別に探知されるが, 必ずしも国全体の代表性はない可能性がある。また, 風疹ウイルスの遺伝子型分布も検討した。
排除に向けた進捗
地域目標の達成状況はRCV導入国数と風疹およびCRSの排除が確認された国の数によって評価される。データは各WHO地域の麻疹風疹排除認証委員会のレポートから得た。
結果
予防接種活動
2022年時点でRCV導入国は194カ国中175カ国(90%)となり, 2012年時点の132カ国(68%)から33%増加した(図1)。アメリカ地域(AMR), 欧州地域(EUR), 東南アジア地域(SEAR), 西太平洋地域(WPR)はすべての国で, アフリカ地域(AFR)は47カ国中32カ国(68%)で, 東地中海地域(EMR)は21カ国中17カ国(81%)でRCVが導入されていた。
低所得国, 低中所得国(世界銀行の2022年所得分類に基づく)におけるRCV導入は着実に増加した(図2)。2012年は低所得国の11%, 低中所得国の50%に限られたが, 2022年には低所得国の50%(13/26), 低中所得国の94%(51/54)まで拡大した。乳児のRCVの1回目接種率は, 世界全体で2012年の40%から2022年には68%に増加したが, 大きな地域差を認めた〔36%(AFR)~93%(EUR)〕。2022年のRCV接種率(RCV未導入国を除く)は, 低所得国27%, 低中所得国70%, 高中所得国88%, 高所得国93%であった。
風疹およびCRSサーベイランス報告状況
ゼロ報告を含めて風疹を報告した国は, 2012年の166カ国(86%)から2019年は169カ国(87%)に増加したが, その後2020年は144カ国(74%), 2022年は149カ国(77%)と, 2012年を下回った。一方でCRSを報告した国は, 2012年と2019年の123カ国(63%)から2022年は133カ国(69%)に増加した。
風疹報告数は2012年93,816例, 2019年48,559例, 2022年17,407例と減少した。CRS報告数は2012年301例, 2019年418例, 2022年1,527例と増加したが, 2012年以降に人口の多い国々(アフガニスタン, バングラデシュ, インド, インドネシア, パキスタン)でのCRSサーベイランス開始が主要因である。
2012~2022年に45カ国から5,722件の風疹ウイルスの塩基配列が登録され, 58%が遺伝子型1E, 42%が遺伝子型2Bであった。しかし, 登録の67%, 24%はそれぞれ中国と日本からの報告で, 世界的なウイルスサーベイランス強化が必要である。
排除に向けた進捗
現在, 5つの地域が風疹とCRSの排除目標を設定している。EMRの排除目標は未設定だが, 排除に向けた取り組みを進めている。AMRでは2015年に地域全体で風疹およびCRS排除達成が認証された。風疹排除認証国数は2019年の84カ国から2022年には98カ国へと増加した〔AFR0カ国, AMR35カ国(100%), EMR4カ国(19%), EUR50カ国(94%), SEAR4カ国(36%), WPR5カ国(19%)〕。
考察
風疹排除は2012年以降加速し, 2022年までに世界の51%の国で排除が認証された。低中所得国の25%で風疹排除が認証され, 複雑な社会経済状況においても排除可能なことが示された。さらに, 排除認定国での再流行がなく, RCVの効果とともに排除に向けた各国, 地域, 国際的な関係者の取り組みの強化がこの顕著な進展をもたらした。
2012~2022年にかけてRCV導入国数, 世界のRCV接種率ともに大きく増加した。低所得国, 低中所得国におけるRCV導入が進み, 2012~2022年の間に風疹報告数が81%減少した一方で, 依然として年間約2,500万人の乳児はRCVの接種機会を得られず, その半数以上は低所得の紛争地域に居住している。
2012年以降のCRS報告数増加は, 2022年時点のCRSサーベイランス実施国数の増加を反映している。しかしCRSサーベイランスは限定的で, 2022年の世界におけるCRS報告数は大幅に過小評価されている。モデル推計では, CRS報告数が2010~2019年の間に3分の2減少したとされる一方, 主にRCV未導入国において毎年32,000人以上の児がCRSをともない出生している。
RCVを導入した国では排除達成の可能性が高い。しかし, 風疹の再流入のリスクは依然としてあり, 世界的な風疹排除達成にはすべての国におけるRCV導入が不可欠である。
公衆衛生対応における意義
風疹ワクチン未導入国への支援, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に接種機会を逸した児をはじめ, すべての小児の年齢に応じたRCV接種機会の確保が不可欠である。また, 生涯を通じて風疹感染を予防し, 出産年齢の成人の罹患, ひいては児のCRS罹患のリスクから守られるよう, 青少年, 成人への予防接種追加戦略も必要である。
出典
Ou AC, et al., MMWR 73: 162-167, 2024
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/mm7308a2.htm
抄訳担当:
国立感染症研究所感染症疫学センター
森野紗衣子 篠崎夏歩 角和珠妃
駒瀬勝啓 神垣太郎