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千葉市における風疹対策事業 ―行政・医師会・大学連携による取り組み―

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千葉市における風疹対策事業
―行政・医師会・大学連携による取り組み―

(IASR Vol. 46 p84-86: 2025年4月号)

はじめに

わが国では, 風疹の流行および先天性風疹症候群(CRS)の発生を防ぐことを目的として, 風疹抗体保有率が低い世代の男性を対象とした麻しん風しん混合(MR)ワクチン第5期定期接種事業が2019年4月に開始され, 3年の延長を経て2025年3月末に終了が予定されている(以下, 国事業)。千葉市では, 市独自事業として2014年4月から妊娠希望女性を対象に風疹抗体検査の助成が開始された。抗体検査の助成は妊婦の配偶者や同居家族に対象を拡大し, 2018年11月からは風疹抗体価が低いすべての人へのMRワクチン接種助成とともに継続している(以下, 千葉市事業)。これらの事業の促進には, 事業の実施者となる地域の医療機関の理解と協力が必要となるが, 現場では全体での進捗や成果がみえずモチベーションに繋がりにくいという課題があった。一方, 行政機関では, 事業の対象者に関するデータは蓄積されるものの, そのデータを十分に解析できていない現状があった。そこで, 大学がハブとなってデータ解析と傾向分析を行い, 結果をフィードバックすることで, 医師会と行政の三者が連携する仕組みを提案した。この取り組みにより, 2つの事業の成果を可視化し, 効果的, 効率的な風疹対策に繋げ, 千葉市からCRSを排除したいと考えている。

連携事業の具体的な取り組み

本事業の取り組みを図1に示す。まず, 千葉市医師会に所属する医療機関が抗体検査とワクチン接種を実施し, 千葉市が抗体検査申込書と予防接種問診票を集め, その後, 匿名化したデータを千葉大学真菌医学研究センター感染症制御分野が解析し, 傾向分析を行った。事業の進捗は医師会と千葉市に毎月ニュースレター(図2)で報告し, ディスカッションを通じてより効果的な風疹対策とワクチン接種の体制整備を進めた。具体的には, 医師会向けの勉強会の開催や, 産婦人科医療機関への啓発, 市民を対象としたパンフレットの配布, テレビやラジオなど公共放送での情報発信, SNSを活用した周知活動, などを行った。

解析データからわかったこと

国事業の実施件数は2019年の開始以降, クーポン利用者数が年々減少しており, 2025年1月時点までの抗体検査の実施件数は, 概算で36%(実施件数47,327件/各年度の対象年齢男性の人口3月末のデータ平均132,464人)となっている。一方, 抗体検査で低抗体価と判明した場合は, 90%以上の者がワクチン接種を受けていることが明らかとなり, 抗体検査を受けてもらえればワクチン接種まで進むということがわかった点は, 大きな収穫であった。2024年8月の追加勧奨や事業終了に向けた駆け込み需要により実施件数は増加傾向にあり, 最後の追い込みに期待したい。

千葉市事業では2018年10月以降, 毎年一定数の利用があり, ここ数年は緩やかな増加傾向が続いていることは注目すべき点である。診療科別に実施件数をみると, 当初は内科が最多であったが, 産婦人科での実施件数が徐々に増加し, 2021年以降は産婦人科が主体となっていた。産婦人科での啓発は, CRSが身近な問題と感じられる世代へのアプローチとして効果的であったことに加え, 産褥期のMRワクチン接種キャンペーンなどの取り組みが定着しやすかったと考えられる。

両事業で共通にみられた特徴として土曜日の受診が多かったことから1), 土曜診療を行う医療機関への情報提供と事業の推進を提案した。さらに, 国内で麻疹患者発生の報道がなされた時期と一致して本事業での抗体検査やワクチン接種件数も増加しており, 麻疹報道が風疹事業にも影響を与えることが明らかとなった。

両事業で実施された風疹特異的抗体検査結果の性別・年齢別解析によると, HI抗体価1:8以下に限った場合(国事業基準)の割合では, 40~50代男性が最も高かったが, 1:16倍以下(千葉市基準)では, 20~30代男女が最も高かった1)。若年層の抗体価が低いことの要因としては, 風疹ウイルスへの曝露機会の減少と, この世代では2回のMRワクチン接種を受けていないケースが多い, という2つの可能性が挙げられる。20~30代は国事業では対象外だが, 妊娠希望女性とその配偶者の多い世代でもあり, 千葉市事業はこれらの世代に対する直接的な予防策として重要な役割を果たしているといえる。

今後の課題

千葉市における風疹対策事業において, 行政, 医師会, 大学の連携により, データを可視化・共有することで, 事業の推進に反映させることができるようになった。特に, 千葉市事業では開始から約10年が経過する現在でも実施件数が増加傾向にあることは注目すべき点であり, 現場のモチベーション向上に大きく寄与すると考える。また, 千葉市事業がターゲットとする若年世代に風疹HI抗体価の低い人が多く存在するというデータは, 事業の意義を裏付ける重要な結果である。風疹およびCRSの予防意識を定着させるためには, 継続的な取り組みが不可欠であり, 我々の取り組みが他の自治体の予防接種事業推進の参考になれば幸いである。

参考文献

1.Takeshita K, et al., Hum Vaccin Immunother 17: 1779-1784, 2021

 千葉大学真菌医学研究センター感染症制御分野
  多田歩未 竹下健一 大畑美穂子
  竹内典子 大楠美佐子 石和田稔彦
 千葉市保健福祉局医療衛生部医療政策課
  中嶋 健 大西 拓
 千葉市医師会
  太田文夫 大濱洋一 玉井和人
  原木真名

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