腸管出血性大腸菌O26発生事例と併発したastAおよびaggR保有大腸菌O126の集団感染事例について
腸管出血性大腸菌O26発生事例と併発したastAおよびaggR保有大腸菌O126の集団感染事例について
(IASR Vol. 46 p101-102: 2025年5月号)
はじめに
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は, Vero毒素(VT)を産生する大腸菌によって引き起こされる感染症である。この感染症は, 感染症法で3類感染症に定められており, 診断した医師は直ちに届出を行うことが義務付けられている。一方, EHEC以外の下痢原性大腸菌は, 感染症法上の届出は不要だが, 同様に集団感染事例の原因菌となることが知られている1-3)。
今回, 保育園においてEHEC O26と併発した腸管凝集性大腸菌(EAggEC)O126の集団感染事例を経験したので, その概要を報告する。
事例概要
令和6(2024)年10月1日に, 医療機関AからEHEC感染症(O26 VT1)の届出があった。届出患者は保育園児であったため, 管轄保健所が当該施設に対し, 状況の確認および感染対策の指導を実施し, 10月3日に現地調査, ならびに検便の依頼を行った。保健所および群馬県衛生環境研究所(当所)で行った検便検査の結果, O26が7名から検出された。血清型を調べる過程でO26で凝集がみられなかった大腸菌は, 血清型別の結果O126と判明し, 結果としてO126が49名から検出された。検出されたO26はすべてVT1陽性であり, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)法の結果, 同一の株であると推定された。検出されたO126は, VT1およびVT2陰性であった。また, 検出されたO126において, 下痢原性大腸菌に関連する病原性関連遺伝子について調べたところ, すべての株でastAおよびaggRが検出された。さらに, O126から18株選定し, パルスフィールドゲル電気泳動(pulsed field gel electrophoresis: PFGE)による分子疫学解析を実施したところ, PFGEパターンの結果から, 集団感染事例であると推定した。
材料と方法
保健所において園児223名, 職員38名の合計261名の糞便を, クロモアガーSTEC, CT-RMACおよびDHL寒天培地に直接塗抹し, 37℃で18~24時間培養した。その後, 発育した典型集落をTSIおよびLIM培地に接種し, 37℃で18~24時間培養した。生化学的性状から大腸菌と推定される菌株について, 病原性大腸菌免疫血清による血清型試験およびVTEC-RPLAによるVTの検出を実施した。
当所において, O26陽性株についてMLVA法による遺伝子型別検査を実施した。O126陽性株について, マルチプレックスPCR法で病原性関連遺伝子(LT, STp, STh, VT1, VT2, Stx2f, invE, astA, afaD, eae, aggR, bfpA)の検索を行い, PFGEによる分子疫学解析を行った。さらに, O126陽性者を対象として, 検体提出時における症状の有無についてもアンケート調査を行った。
結果
園児7名, 職員2名の計9名からO26:H11が分離された(表)。分離されたすべてのO26:H11株でVT1産生が確認され, MLVA complexが一致した。また, O26陰性であった園児48名, 職員1名の計49名からO126:H27が分離された(表)。分離されたO126株すべてで, astAおよびaggRの保有が確認され, 選出した18株においてPFGEパターンが17株で一致し, 残り1株についてもバンド1本違いであった。なお, O126が検出された園児および職員においてO26との重複感染はみられなかった。
追加で行ったアンケート調査の結果, O126が分離された49名中46名から回答が得られ, そのうち有症状者は4名で, 下痢が1名, 軟便が3名, 腹痛が1名, 排便回数の増加が1名であった(複数回答を含む)。
考察
本事例は, EHEC O26 VT1発生事例において, 同時にO126:H27による感染が判明した集団感染事例であった。分離されたすべてのO26はMLVA complexが一致していることから, 集団感染事例であると推定された。一方, O126についても選定した18株においてPFGEパターンの結果や, 分離されたすべての株で同一の病原性関連遺伝子(astA, aggR)を保有していることから, 同一由来の菌による感染であることが推測された。
O126:H27が分離された検査対象者49名中, 有症状者は4名であり, 91.8%が無症状であったことから, 病原性関連遺伝子とされているastAおよびaggRを保有する大腸菌の病原性は高くないと考えられる。astAおよびaggRの病原性については, はっきりしたことは不明である4,5)。本事例においては, アンケート調査の結果から無症状病原体保有者や比較的軽度の有症状者が見えざる感染源となり, 感染拡大を引き起こした可能性が考えられる。astAおよびaggR保有大腸菌の検出事例は食中毒等では散見されるが, 集団発生において無症状者も含めて調査した事例は少なく, 今後も本事例のようなデータを蓄積していくことにより, 病原性についても明らかになると考えられる6,7)。
本事例は, EHEC O26:H11による感染拡大の確認で行った検査により, 園内で同時にO126:H27が広がっていたことが明らかになった事例である。このように, 1つの集団内で異なる病原性を持つ大腸菌による感染が併発することがある。集団発生の原因菌が複数である可能性も考慮し, 保健所と衛生環境研究所が連携して検査・対応を進めることの重要性を再認識した事例である。
謝辞:検体採取等調査にご協力いただきました関係者に深謝いたします。
参考文献
- 古賀舞香ら, 日本食品微生物学会雑誌 38: 153-159, 2021
- 鹿島かおりら, IASR 43: 117-118, 2022
- 新免香織ら, IASR 40: 220-221, 2019
- Prieto A, et al., Commun Biol 4: 1295, 2021
- Huang DB, et al., J Med Microbiol 55: 1303-1311, 2006
- Kubomura A, et al., JJID 70: 507-512, 2017
- 土屋祐司ら, IASR 33: 7-8, 2012
群馬県衛生環境研究所
長谷川 駿 高橋裕子 遠藤るい
下田貴博 塚越博之 猿木信裕
伊勢崎保健福祉事務所
橋本枝里香 小浦方久美子 井田真悟 高木 剛
太田保健福祉事務所
高沢恭平 大場浩美 池田美由紀 矢沢和人