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富山県内の児童福祉施設においてRSウイルス感染症と推定された集団発生事例について

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富山県内の児童福祉施設においてRSウイルス感染症と推定された集団発生事例について

(IASR Vol. 46 p116-117: 2025年6月号)

RSウイルス感染症はRSウイルス(RSV)による急性呼吸器感染症である。2日~1週間(通常4~5日)の潜伏期間の後に, 初感染の乳幼児では上気道症状(鼻汁, 咳など)から始まり, その後下気道症状(喘鳴, 呼吸困難など)が出現する。1歳未満, 特に6か月未満の乳児, 心肺に基礎疾患を有する小児, 早産児が感染すると, 呼吸困難などの重篤な呼吸器疾患を引き起こし, 入院, 呼吸管理が必要となる場合がある。こども家庭庁が発出した「保健所における感染症対策ガイドライン」において, 保育所ではRSV感染症の流行期に0歳児と1歳以上のクラスを互いに接触しないよう離して, 互いの交流を制限するよう, RSV感染症の感染拡大防止に配慮することが求められている。今回, 富山県における児童福祉施設において2024年7月, RSV A型(RSV-A)に起因したと考えられる集団感染事例が発生したため, その概要について報告する。

患者発生状況および臨床症状

当該児童福祉施設には園児が61人在籍しており, 在籍する園児の内訳は0, 1歳児14人, 2歳児13人, 3歳児6人, 4歳児18人, 5歳児10人であった。2024年7月4日に2人が発熱, 呼吸器症状を呈したことが確認され, その後, 7月17日までに発熱, 呼吸器症状を呈する園児は合計44人(72%)となった()。7月17日までに症状が確認された0, 1歳児は13人(93%), 2歳児10人(77%), 3歳児5人(83%), 4歳児は11人(61%), 5歳児は5人(50%)であった。園児に最も共通してみられる症状は強い咳症状であった。発熱をしている園児の中には, 最高40℃の熱を呈している者もいたが, 体調は比較的良好であった。入院した園児はいなかった。症状を呈している園児のうち, 5人以上が医療機関を受診した。受診した園児のうち, 数人はインフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する検査を行ったが, いずれも陰性であった。その中でも1人はアデノウイルス, 溶連菌, 手足口病に対する検査も行ったが, いずれも陰性であった。新たに症状を呈した園児は7月17日以降確認されておらず, 集団感染事例としては8月2日に終息した。

病原体検出状況

原因病原体の探索のため, 7月11日に2人の, 7月12日に1人の鼻腔・鼻咽頭ぬぐい液(鼻汁)が採取され, 富山県衛生研究所(当所)ウイルス部(当部)に搬入された。当部では, 通常より呼吸器由来の感染症発生時には, 15種類の呼吸器ウイルス〔インフルエンザウイルスA型・B型, RSV-A, B, ヒトライノウイルス(HRV), エンテロウイルス(EV), ヒトボカウイルス(HBoV), ヒトコロナウイルス(HCoV: HCoV-OC43, HCoV-NL63), ヒトアデノウイルス(HAdV), ヒトメタニューモウイルス(HMPV), ヒトパラインフルエンザウイルス1-4型(HPIV-1-HPIV-4)〕を対象として, マルチプレックスreal-time RT-PCRを実施している。本事例においても, 臨床検体から核酸を抽出した後, マルチプレックスreal-time RT-PCRを行った。その結果, 3検体中3検体からRSV-Aの遺伝子が検出された。この3検体は, 0, 1歳児クラスの2人と2歳児クラスの1人であった()。その他, 医療機関でRSV陽性と診断された3歳児クラス1人および4歳児クラス1人が判明しており, 検査診断例は患児全体の11%であった。一方, 検査したすべての検体でRSVが検出されていること, 検査数は少ないながらも各年齢クラスの患児からRSVが検出されていること, からRSVによる集団発生事例であると推測された。なお, 検体中のウイルス遺伝子量が少なかったこともあり, シーケンスによる遺伝子解析までは行えなかった。

考察

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時の日本において, RSVの流行が起こっていること1), 高齢者施設といった集団で活動する場においてRSVの集団発生が起こっていること2), が報告されている。しかしながら, COVID-19流行後の日本の児童福祉施設においてRSVの集団発生が起こった事例は報告されていない。本事例のように, 児童福祉施設を含む社会福祉施設等において, 同一感染症の患者またはそれが疑われる者が10名以上または全利用者の半数以上に発生した場合は, 市町村等の主管部局および管轄保健所に報告することとされている3)。今回の事例で, COVID-19流行後に感染症への意識が変容した日本の児童福祉施設においても, RSVの集団発生が起こり得ることが改めて明らかとなった。また, 本事例においては当該施設の0, 1歳児の9割以上に症状が認められた。1歳未満の乳児がRSVに感染した場合には, 重症化するリスクが高いことから, RSV流行期には0, 1歳児への感染対策を徹底する必要性が改めて確認された。

当所では2013~2014年の間に, 呼吸器症状を呈しているがインフルエンザウイルス迅速診断キット陰性であった104名の小児患者を対象として呼吸器ウイルスの検出を行った。この検証では, 当所での通常検査の対象となっていないHBoVやHRV, HCoVなども多く検出された4)。COVID-19流行後, RSVなどSARS-CoV-2以外のウイルスの流行もみられていることもあり, 今後, 上記のウイルス種の動向についても注意が必要である。令和7(2025)年度より, 厚生労働省が主体となって各都道府県で急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランスが開始される。ARIを引き起こすウイルスについてより詳細な情報が富山県はもとより, 全国からも集められることになるため, その結果について注視していきたい。

参考文献

  1. 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, IDWR 2024年第15号, 注目すべき感染症 RSウイルス感染症
  2. 堀江育子ら, IASR 43: 87-88, 2022
  3. 厚生労働省通知, 社会福祉施設等における感染症等発生時に係る報告について, 平成17(2005)年2月22日
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/norovirus/dl/h170222.pdf
  4. Obuchi M, et al., Jpn J Infect Dis 68: 259-261, 2015
  富山県衛生研究所         
   ウイルス部           
    嶌田嵩久 吉田琴羽 谷口咲羅 矢澤俊輔
    佐賀由美子 福山 圭 板持雅恵 谷 英樹      
   研究企画部 田村恒介      
   所長 大石和徳         
  中部厚生センター         
   荒谷三佳 櫻田惣太郎      
  富山県厚生部健康対策室感染症対策課
   扇 のぞみ 川尻百香 竹内比佐子 森安祐成

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