RSV感染症(成人の立ち位置から)
RSV感染症(成人の立ち位置から)
(IASR Vol. 46 p123-124: 2025年6月号)
症状
Respiratory syncytial virus(RSV)は, 上気道症状(鼻閉や咽頭痛など), 下気道症状(咳や痰など)を呈しやすく, 発熱などの全身症状は乏しい1)。RSV感染症はインフルエンザ様の症状にはなりにくく, 症状のみでRSV感染症を診断するのは困難である2)。健常成人では, 風邪症状で自然軽快するが, 高齢者では咳や痰などの下気道症状が遷延しやすい1,3)。
検査
抗原定性検査と遺伝子検査の感度を比較したメタアナリシスでは, 小児では感度が高い迅速抗原検査が, 成人を対象にした場合には感度が20%以下と低かった4)。そのため, RSV診断のゴールデンスタンダードは気道検体の遺伝子検査である。ただし, RSVを単独で測定する遺伝子検査には, 現状では保険適用がない。しかし, 重症呼吸器感染症患者で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等が疑われ, 保険適用がある多項目同時測定の病原体遺伝子検査が行われた結果として, RSV感染症が判明する場合が増加している。成人での鼻咽頭ぬぐい液を用いた遺伝子検査でも診断できない症例もあり5), 疫学研究ではペア血清による抗体測定も有効な可能性がある。
肺炎とRSV
RSVは, ウイルス性肺炎と二次性の細菌性肺炎を引き起こす場合がある。国内の大学における単施設研究での市中肺炎入院患者の原因微生物調査では, 参加者76人の中で, 3人からRSVが検出され, 2人は細菌性肺炎を合併していた6)。国内4病院で行った市中発生の肺炎の原因微生物を調べた前向きサーベイランス研究では, RSVは2,617人中101人(3.9%)で検出された。年齢別では, 15~64歳12/580人(2.1%), 65~74歳20/447人(4.5%), 75~84歳32/848人(3.8%), 85歳以上37/742人(5.0%)であった7)。
高齢者とRSV
米国の65歳以上の高齢者を対象とした前向き観察研究が2005年に報告されている。この研究では, RSV感染症は, インフルエンザと比較して入院や死亡に対し, 同程度の影響を与えていた。特に, 慢性の心疾患や呼吸器疾患を有する患者では, そのリスクが高かった8)。国内10施設で2019~2020年にかけて行われた前向き観察研究では, 登録した65歳以上の1,000人に対して, 気道感染を疑う症状を認めた際に気道検体を採取し, PCR検査で呼吸器ウイルスを検出した。1,000人中, RSVが24人から検出され, そのうち1人が入院となった。本研究ではインフルエンザも検査されており, A型が11人, B型が1人から検出され, A型の1人が入院となっている1)。
また, 風邪様症状で入院した患者の前向き観察研究(HARTI Study)でRSV感染症, インフルエンザ等の疾病負荷を12カ国で調査している。この研究の国内のサブグループ解析では, 173人の入院患者中, RSV感染症が9人, インフルエンザが7人, から検出された。また, 年齢の中央値はRSV感染症が83歳, インフルエンザは81歳であった。人工呼吸管理が必要な患者は, RSV感染症が1人, インフルエンザは0人であった9)。上記の結果から, 国内でも高齢者のRSV感染症の重要性が示唆される。
重症化リスク
健常成人のほとんどは自然軽快するが, 高齢者や基礎疾患(慢性閉塞性肺疾患: COPD, 虚血性心疾患, 慢性心不全, 脳血管障害の既往, 糖尿病, 慢性腎不全など)があると重症化しやすく, 入院する場合がある。また, 造血幹細胞移植や肺移植などの高度の免疫不全患者では, 下気道感染になりやすく重症化しやすい3,10)。成人のRSV感染症で重症化リスクが高い状態を表に示す。なお, RSV感染症とインフルエンザの米国の入院患者の比較では, 介護施設への入所が必要な状態になる頻度はインフルエンザとRSV感染症で同等であった11)。
治療薬・予防薬
特異的な抗ウイルス薬は存在しない。ただし, 海外ではribavirin(商品名Rebetol®)を重度の免疫不全患者で使用することがある。抗RSVヒト化モノクローナル抗体製剤が存在するが, 国内では成人での適応はなく, 小児にのみ適応がある10)。成人でのRSVによる感染症の予防として2種類のRSVワクチンが2024年から国内でも使用可能になっている。
まとめ
慢性呼吸器・心疾患などの基礎疾患を有する高齢者や高度の免疫不全者では, RSV感染症は, 重症化しやすい呼吸器感染症である。
参考文献
- Kurai D, et al., Influenza Other Respir Viruses 16: 298-307, 2022
- Korsten K, et al., J Infect Dis 226: S71-S78, 2022
- Wildenbeest JG, et al., Lancet Respir Med 12: 822-836, 2024
- Onwuchekwa C, et al., J Infect Dis 228: 173-184, 2023
- Ramirez J, et al., Infect Dis Ther 12: 1593-1603, 2023
- Kurai D, et al., Respir Investig 54: 255-263, 2016
- Katsurada N, et al., BMC Infect Dis 17: 755, 2017
- Falsey AR, et al., N Engl J Med 352: 1749-1759, 2005
- Shinkai M, et al., Respir Investig 62: 717-725, 2024
- 日本感染症学会RSV感染症診療の手引き作成委員会, 感染症学会誌 98: 1-43, 2024
- Ackerson B, et al., Clin Infect Dis 69: 197-203, 2019
杏林大学医学部臨床感染症学
倉井大輔