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SARS-CoV-2流行開始前後の呼吸器感染症入院患児における2018~2023年のウイルス検出状況の変化

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SARS-CoV-2流行開始前後の呼吸器感染症入院患児における2018~2023年のウイルス検出状況の変化

(IASR Vol. 46 p124-126: 2025年6月号)

背景

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行開始後, マスク着用やアルコール消毒, ソーシャルディスタンスなどの非医薬品介入(non-pharmaceutical interventions: NPI)による感染予防対策の徹底は, その他の呼吸器感染症の流行にも大きな影響を与えた1-3)。我々は2017年9月より前方視的に入院患児における呼吸器ウイルスの感染状況について調査している。

研究方法

本研究では, 2018年1月~2023年12月の間に福島県内の単一の二次医療機関に入院した発熱や気道症状を認めた15歳未満の患児全例の鼻腔咽頭スワブを採取した。各臨床検体から核酸精製後, 以下の18種類のウイルスをreal-time PCR法にて検出した4)。RSウイルス(RSV)-A, -B, インフルエンザウイルス(Flu)-A, -B, -C, ヒトコロナウイルス(HCoV)-229E, -HKU1, -NL63, -OC43, ヒトメタニューモウイルス(HMPV), ヒトパラインフルエンザ(HPIV)-1, -2, -3, -4, ヒトライノウイルス(HRV), ヒトアデノウイルス(HAdV)-2, -4, ならびにヒトボカウイルス(HBoV)。SARS-CoV-2に感染した小児は本研究から除外した。各年におけるウイルスの検出状況や, その特徴について検討した。

結果

研究期間中に対象となった患児は1,933人であり, 月齢の中央値は20か月(四分位範囲10-42か月)であった。1,377人(71.2%)の検体からウイルスが検出され, そのうち906人(46.9%)から単一のウイルスが, 471人(24.4%)から複数のウイルスが検出された()。SARS-CoV-2流行開始後の2020年は, ほとんどのウイルスの流行が一時的に抑制されたが, 流行開始後もHRV, HAdV, HBoVは一定数検出されていた。一方, RSV, HPIV, HMPV, Fluは, 2020年4月以降, ほとんど検出されなかったが, 2021年初夏にRSV-AとHPIV-3の流行が再開した。HMPVは2022年7月以降, Fluは2023年以降に流行が再開した。特にFlu-Cの検出数は2023年はじめに増加し, Flu-Aの検出数は2023年秋以降に増加した。Flu-BとHCoV-229Eは, SARS-CoV-2流行開始から2023年12月まで流行がなかった(5)。気道感染症で入院した小児の月齢の中央値は, 2020年以降上昇していた(月齢18.0か月 vs 21.0か月, p<0.01)。

考察

NPI徹底の開始後もアルコール消毒などに耐性がある非エンベロープウイルス(HRV, HAdV, HBoV)は一定数検出されたが, エンベロープウイルスは一時的に流行が抑制された6,7)。その中でもRSV-A, HPIV-3の流行は比較的早い時期に再開し, HCoV-OC43やHCoV-NL63, HMPVなどの流行が順次再開した。呼吸器ウイルスの流行再開の順序を決定した要因は明らかではないが, RSVのアウトブレイクが早期に再開した要因として, RSVが乳幼児の細気管支炎を引き起こし, 入院原因として多いこと8)や, SARS-CoV-2流行下でも乳幼児に対するマスク着用などのNPIの徹底が困難であったこと, 他の呼吸器ウイルスよりも基本再生産数が高いこと9), などが挙げられる。

また本研究では, 入院患児の月齢がSARS-CoV-2流行後に上昇した。各国からの報告でもSARS-CoV-2流行後にRSVやHMPVに罹患した患児の年齢が上昇したこと10,11)が報告されている。個々の「免疫負債(immunity debt)」が報告され12), 呼吸器感染症罹患における入院を防ぐための免疫維持には定期的にある程度のウイルスへの曝露が重要である, ということを示唆している。

SARS-CoV-2流行後, ウイルス感染に対する社会情勢や個人の意識の変化は, 呼吸器ウイルス感染症の流行動態にも大きな影響を与えた。今後の新たなウイルスの出現やパンデミックに備えるためにも, 小児感染症の発生状況を継続的に監視することが重要である。

参考文献

  1. Fukuda Y, et al., J Infect Chemother 27: 1639-1647, 2021
  2. Groves HE, et al., Lancet Reg Health Am 1: 100015, 2021
  3. Shichijo K, et al., PLoS One 16: e0258478, 2021
  4. 久米庸平ら, IASR 43: 88-90, 2022
  5. Kume Y, et al., Influenza Other Respir Viruses 19: e70070, 2025
  6. Takashita E, et al., Influenza Other Respir Viruses 15: 488-494, 2021
  7. Kume Y, et al., Influenza Other Respir Viruses 16: 837-841, 2022
  8. Article R, N Engl J Med 375: 1199-1200, 2016
  9. Spencer JA, et al., J Theor Biol 545: 111145, 2022
  10. Foley DA, et al., Clin Infect Dis 73: e2829-e2830, 2021
  11. Nagasawa M, et al., GHM Open 4: 47-49, 2024
  12. Billard MN, Bont L, Lancet Infect Dis 23: 3-5, 2023

  福島県立医科大学小児科学講座 
   久米庸平 橋本浩一 郷 勇人

          

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