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2025年におけるわが国の麻疹の発生動向

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2025年におけるわが国の麻疹の発生動向

(IASR Vol. 46 p134-135: 2025年7月号)

はじめに

日本は, 2015年に世界保健機関(WHO)による麻疹排除達成の認定を受けた。その後は排除の状態を維持することを目標に定め, 「麻しんに関する特定感染症予防指針〔平成19(2007)年厚生労働省告示第442号〕〔一部改正:平成28(2016)年, 平成31(2019)年〕」(以下, 指針)に基づき, 1)2回の定期接種の接種率を95%以上に維持すること, 2)遺伝子検査の実施や積極的疫学調査等における迅速かつ適切なサーベイランスを実施すること, 等により麻疹の発生およびまん延の防止に努めている。感染症発生動向調査において, 2016年以降, 複数の集団発生が報告され, 2019年には麻疹排除後最多の744例が届出された。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック期にあたる2020~2022年の年間麻疹届出数は10例以下と大きく減少したが, 海外との往来が復調した2023年以降, 麻疹の届出が相次ぎ, 2025年は第1~19週(2024年12月30日~5月11日)(5月23日時点)で119例の届出があり, 2024年の同時期(21例)の5.7倍となっている。

今後の麻疹対策や対応に資するため, 2025年第1~19週に診断され届け出られた国内の麻疹症例の疫学状況を報告する。

発生状況

2025年第1~19週に届出のあった119例のうち, 男性は64例(54%), 女性は55例(46%), 年齢中央値は24歳(四分位範囲:14-34歳)であった。麻疹排除前の2008年は, 届出の70%近くを20歳未満が占めていたが1), 2008年度からの5年間で中学生と高校生に対する麻しん含有ワクチン2回目の追加定期接種が導入されたこともあり, 好発年齢層に変化がみられ, 近年では成人の割合が高く, 2025年では20代が40例(34%)と最も多かった。次いで30代が20例(17%), 40代が15例(13%)であった。また, 定期接種対象年齢に満たない0歳も12例(10%)確認されている。

麻しん含有ワクチン接種歴(2回接種時期に満たない5歳未満の23例を除く)は, 接種歴不明を含めた2回のワクチン接種を完了していない者(以下, 2回接種未完了者)の割合が全体の79%(76/96例)を占め, 特に20~30代の年齢群においては2回接種未完了者が症例の75%(45/60例)を占めている。

推定感染地域は, 国外は59例(50%)であり, 上位はベトナム(49例), タイ(3例)であった。国内は51例(43%), 国内または国外は2例(2%), 不明は7例(6%)であった。特に, 第10週(3月3日~3月9日)以降, 海外渡航歴のない症例が増加し, 毎週届出が相次いでいる。国内での二次感染例や, 家庭内および集団発生事例(疫学的関連あり, かつ遺伝子型一致症例2例以上と定義)も複数確認され, 三次感染例も一部で認められた。ただし, 2018年に海外からの旅行者を発端とした麻疹排除達成以来最大となった症例数100例以上の集団発生2)や, 2019年の麻しん含有ワクチン接種率が低い集団における約50例の集団発生と同程度の大規模な集団発生3)は確認されていない。

また, 麻しん含有ワクチン接種歴が2回接種未完了であった症例からの二次, 三次感染例は確認されているが, 2回接種が確認された症例からの感染例は, 感染可能期間に長期間接触のあった1例のみであった。

病型は, 麻疹(検査診断例)が99例(83%), 修飾麻疹(検査診断例)が20例(17%)であった。遺伝子検査による診断は115例(97%)であったが, 診断までに複数の医療機関を受診し, 時間を要した症例も複数確認されている。届出されている遺伝子型はB3が最多で(60例), D8(9例)も確認されている(2025年5月26日時点)。ともに世界で検出されている遺伝子型である4)

まとめ

2025年第1~19週の麻疹発生状況は, 麻しん含有ワクチン2回接種未完了者が多かったこと, および二次感染例の状況から, 2回のワクチン接種の重要性が改めて示唆された。なお, 現在30代後半~40代は制度上, 1回のワクチン接種の世代であった影響も受けている可能性がある。

海外からの麻疹ウイルスの持ち込みリスクは常に存在している。第1期, 第2期の小児定期接種対象者においては高い接種率を達成・維持するとともに, 海外渡航を計画する者, 0歳児等の明らかな感受性者に接触する可能性がある医療従事者等の成人は, 2回のワクチン接種を検討する必要がある。

また, 症例の多くは2回のワクチン接種未完了者であったが, 人口における全般的に高い集団免疫の状況5,6), 各自治体における各症例への迅速な検査対応や積極的疫学調査の徹底, が大規模な感染拡大防止に寄与したと考える。今後も正確な発生動向を把握し, 感染拡大防止につなげるため, 引き続き, 指針でも求められている麻疹が疑われた際の迅速な届出や適切な検査, 積極的疫学調査が実施されることが重要である。

謝辞:日頃より感染症発生動向調査に御協力いただいている医療機関や各自治体の皆様に深く感謝いたします。

参考文献

  1. IASR 33: 27-29, 2012
  2. 久高 潤ら, IASR 40: 53-54, 2019
  3. 原 康之ら, IASR 41: 56-57, 2020
  4. WHO, Immunization data, Global Measles and Rubella Monthly Update, March 2025
    https://immunizationdata.who.int/global?topic=Provisional-measles-and-rubelladata&location
  5. 駒込理佳ら, IASR 45: 152-153, 2024
  6. 厚生労働省, 麻しん風しん予防接種の実施状況
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.html
 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所         
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   塚田敬子 島田智恵 砂川富正 
  実地疫学専門家養成コース(FETP)
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