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海外の麻疹―2024年の流行状況について

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海外の麻疹―2024年の流行状況について

(IASR Vol. 46 p135-136: 2025年7月号)

2024年は世界保健機関(WHO)が分類する6地域のうち, 南東アジア地域で麻疹患者が減少したものの, ヨーロッパ地域やアフリカ地域を中心に増加しており, 世界全体の麻疹症例数は2023年に比べて12%増加し, 359,521例であった(疑い症例数703,282例)1)。2023年の世界全体の麻しん含有ワクチン第1期接種(MCV1)の接種率は83%, 第2期接種(MCV2)の接種率は74%であった。接種率は2000年以降最高水準となったが, 麻疹に対する集団免疫の獲得に必要な95%以上に達しておらず, 感受性者が蓄積し, 世界中でより大きな麻疹流行のリスクが高まっている。2023年には, 推定107,500人が麻疹で死亡しており, そのほとんどが5歳未満の小児であった。死亡者数は2022年に比べ8%減少しているが, これは栄養状態が良く医療へのアクセス可能な地域で麻疹患者が増えたことが原因と考えられる2)。なお, 2025年は3月末時点での麻疹症例数は16,144例となっている。現在, 世界各国で流行しているウイルスの遺伝子型はB3型, D8型の2種類である。本稿では, WHOの6地域における2024年の麻疹流行状況およびその遺伝子型について報告する。

アメリカ地域(AMR): 2024年の麻疹症例数3)は464例で, 米国84例, カナダが146例と, 北米を中心に報告されている。ウイルスの遺伝子型は, B3型とD8型が混在していた。2023年のMCV1, MCV2の接種率は85%, 75%であった。2025年に入り米国においてテキサス州などでアウトブレイクが発生し, 汎米保健機構(PAHO/WHO)は2025年2月に警告を発しており, 4月までの報告数は600例を超えている。

ヨーロッパ地域(EUR): 2020年に10,000例を超える麻疹報告があったが, 2021年と2022年は1,000例以下に減少していた。2023年は60,932例と急増し, それに引き続いて2024年は127,352例となっている4)。検出されたウイルス遺伝子型はB3型とD8型が混在していた。2023年のMCV1, MCV2の接種率は95%, 91%であった。2024年に報告された症例の半数近くが5歳未満の小児で発生している。報告数の多い国は, ルーマニア(30,692例), カザフスタン(28,147例), ロシア(22,076例), アゼルバイジャン(16,690例), キルギス(14,408例)であった。ルーマニアにおいて2022年のMCV1, MCV2の接種率は83%, 71%であったが, 2023年は78%, 62%となっている。

西太平洋地域(WPR): 麻疹症例数は2020年6,313例から2021年(1,078例)と2022年(1,422例)には低下したものの, 2023年には5,736例, 2024年には11,986例と急増している5)。2023年のMCV1, MCV2の接種率は92%, 90%であった。症例数が多い国は, フィリピン(4,003例), マレーシア(3,753例), ベトナム(2,109例), 中国(1,272例)であったが, 特にベトナムでは2023年(103例)に比べ急増している。流行しているウイルス遺伝子型は, B3型とD8型が混在しているが, マレーシアではD8型が圧倒的に多く, フィリピンではB3型が主流となっている。

南東アジア地域(SEAR): 2023年にインドでの大規模な流行(68,794例)があったが, 2024年の麻疹症例数は20,726例であった6)。この地域では他にインドネシアとタイを中心とした流行がある。インドネシアでの報告数は2023年の19,879例から7,191例(2024年)となっているが, タイでは38例(2023年)から8,194例(2024年)に増加している。感染者の多くは10歳未満で, 流行しているウイルス遺伝子型はD8型であった。2023年のMCV1, MCV2の接種率は91%, 85%とされているが, インドでは93%, 90%, インドネシアでは82%, 62%, タイでは93%, 87%であった7)

東地中海地域(EMR): 麻疹症例数は90,855例(2023年)から97,447例(2024年)と増加したが, 報告数の多い国としては, イラク(2023年:9,666例, 2024年:32,400例), イエメン(2023年:42,571例, 2024年:24,394例), パキスタン(2023年:17,515例, 2024年:24,782例)となっている。検出されたウイルス遺伝子型はB3型とD8型が混在していた。2023年のMCV1, MCV2の接種率は79%, 73%であった7)。2025年3月における麻疹症例数は5,198例である。

アフリカ地域(AFR): 2022年から麻疹の発生が急増し, 2024年も81,127例の報告があり, 引き続き増加している8)。報告数の多い国は, エチオピア(30,201例), ナイジェリア(10,948例), コンゴ共和国(5,086例), ニジェール(1,693例)であり, 流行しているウイルス遺伝子型は主にB3型である。2022年に一度もワクチン接種されていない小児は1,210万人(31%)と推定されている。2022年のMCV1接種率は, 13カ国(28%)では2021年と比べて低下したが, 他の16カ国(34%)では横ばい, 18カ国(38%)では上昇した。MCV2をまだ完全に導入していない国は, ベナン, 中央アフリカ, コンゴ共和国, ガボン, モーリタニア, サントメ・プリンシペの6カ国である。2023年のMCV1, MCV2の接種率は70%, 49%であった。2025年3月時点の麻疹症例数は4,937例となっている。

参考文献

  1. WHO, Immunization data, Global Measles and Rubella Monthly Update, March 2025
    https://immunizationdata.who.int/global?topic=Provisional-measles-and-rubelladata&location
  2. WHO, Measles cases surge worldwide, infecting 10.3 million people in 2023
    https://www.who.int/news/item/14-11-2024-measles-cases-surge-worldwide--infecting-10.3-million-people-in-2023
  3. WHO PAHO, Measles/Rubella bi-Weekly Bulletin
    https://www.paho.org/en/measles-rubella-weekly-bulletin
  4. WHO, Measles and rubella monthly update― WHO European Region
    https://cdn.who.int/media/docs/librariesprovider2/euro-health-topics/vaccines-and-immunization/eur_mr_monthly-_update_en_september-2024.pdf?sfvrsn=9c479aff_2&download=true
  5. WHO, Measles-Rubella Bulletin 2025
    https://iris.who.int/handle/10665/380379
  6. WHO, Expanded programme on Immunization(EPI)factsheet 2024: SEAR
    https://www.who.int/publications/i/item/sear-epi-factsheet-2024
  7. WHO, Measles vaccination coverage
    https://immunizationdata.who.int/global/wiise-detail-page/measles-vaccination-coverage?CODE=IND&ANTIGEN=MCV2&YEAR=
  8. WHO, Vaccine-preventable disease outbreaks on the rise in Africa
    https://www.afro.who.int/news/vaccine-preventable-disease-outbreaks-rise-africa

 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所        
  呼吸器系ウイルス研究部     
   佐藤佳代子 染谷健二 大槻紀之 梁 明秀

           

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