2025年の米国における麻疹の感染拡大について

(IASR Vol. 46 p136-137: 2025年7月号)

はじめに

世界保健機関（WHO）は, 世界的な麻疹排除を目標としている。麻しん含有ワクチン（以下, ワクチン）の2回接種と95%以上の接種率による集団免疫の獲得は, 排除を達成するための重要な施策の1つである。しかし, 2020年以降の新型コロナウイルス感染症（COVID-19）パンデミックの影響により, 世界中で予防接種プログラムに遅延が生じ, 2023年の世界のワクチン2回接種率は74%であった^1,2）。そのような中, 麻疹排除国である米国において麻疹の感染拡大が報告されているのでその概要を示す。

発生状況

米国における麻疹は全数報告疾患であり, 基本的に典型麻疹（発熱, 発疹, カタル症状がそろった麻疹や検査診断例）が届出対象となっている。2000年の麻疹排除認定以降も, 輸入症例を起点とした麻疹が散発的にみられたが, 2020～2024年は年間13-285例と大きく減少した。しかし, 2025年1月下旬, テキサス州ゲインズ郡の宗教上の理由からワクチンを接種しない集団を中心に麻疹の流行が始まり, 2月25日までに関連症例が124例報告された（前年同時期は20例）。以後, 同国内では5月15日までに31の州・地域で合計1,024例が報告され, 過去25年で最も報告数の多かった2019年の1,274例に迫る勢いとなっている。報告例のうち, 全体の79%（809例）はテキサス州および隣接するニューメキシコ州, オクラホマ州で発生しており, 全体の92%（947例）がアウトブレイク（3例以上と定義）に関連していた。

年齢別では, 5歳未満が303例（30%）, 5～19歳が388例（38%）, 20歳以上が325例（32%）であった。また, 96%の症例が麻しん・おたふくかぜ・風しん（MMR）ワクチンが未接種または接種歴不明であった。入院例は13%（128例）であり, 特に5歳未満が23%（69例）と多かった^3）。10年ぶりに死亡例も3例報告された。うち2例は基礎疾患のないワクチン未接種の6歳と8歳の小児であった^4）。

近年, 同国ではMMRワクチンの接種率が低下傾向にある。第2期の幼稚園児（注:多くの州で5歳になる年度に入学）の接種率は, 2019～2020年度（10月～翌年9月）の95.2%から2023～2024年度には92.7%に低下^3）し, 4年連続で目標値の95%を下回った。最も症例の多いテキサス州の直近の接種率は94.3%であり, 同州内で最多の症例が発生したゲインズ郡は81.9%であった^5）。

また, テキサス州と国境を接するメキシコのチワワ州では, 2月下旬にテキサス州ゲインズ郡に旅行歴のある住民が麻疹を持ち込んだことで, アウトブレイクに至った^6）。

おわりに

今回の米国での麻疹の感染拡大は, 麻疹排除達成国においても, 高い接種率が維持できなければ, ワクチン未接種の集団を中心に感染が拡大し, さらに国外にも影響を及ぼすことを示している。

麻疹排除状態にある日本においても, COVID-19パンデミック以降, 麻しん含有ワクチンの接種率は低下傾向であり, 2023年度は第1期94.9%, 第2期92.0%であった^7）。今後も定期接種を確実に受けること, 医療従事者や海外渡航予定がある者など, 麻疹患者と接する可能性が高い方への啓発等を行うことが重要である。

参考文献

WHO, Measles, 14 November 2024
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/measles
WHO, IMMUNIZATION AGENDA 2030, A global strategy to leave no one behind
https://www.who.int/docs/default-source/immunization/strategy/ia2030/ia2030-document-en.pdf
CDC, Measles Cases and Outbreaks
https://www.cdc.gov/measles/data-research/index.html
Soucheray S, CIDRAP, 8 April 2025
https://www.cidrap.umn.edu/measles/texas-announces-second-measles-death-unvaccinated-child
DSHS, School Coverage, Annual Reports of Immunization Status
https://www.dshs.texas.gov/immunizations/data/school/coverage
WHO, Measles-United States of America, 27 March 2025
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2025-DON561
厚生労働省, 麻しん風しん予防接種の実施状況
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.html

　　国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所　　　　　　　　　
　　　実地疫学専門家養成コース（FETP）
　　　　清水恭子　　　　　　　　　　　
　　　応用疫学研究センター　　　　　　
　　　　塚田敬子　島田智恵　砂川富正
　