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医療機関における麻疹事例について

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医療機関における麻疹事例について

(IASR Vol. 46 p138-139: 2025年7月号)


2025年3月に, 本市における今年1例目となる麻疹症例の届出があった。そして同月に1例目の入院医療機関における接触者から2例目が発生したので, その概要を報告する。

端緒

2025年第11週に, 1歳児の麻疹疑い症例について管内医療機関より報告があった。同日中に麻疹検査診断例として届出, 患児は診断までに複数の医療機関を受診しており, 各医療機関について接触者調査を開始した。また診断時は入院中であった。

1例目の経過

患者は麻しん含有ワクチン未接種の1歳児で, 2024年11月~2025年2月にベトナム渡航歴があり, 帰国7日後に咳嗽・鼻汁を認めた。発病1日後に発熱, 発病2日後に発疹も出現した。後に眼脂, 中耳炎も認めた。発病5日後に入院, 発病7日後に麻疹疑いとして当所は覚知し, 同日に検体(血液, 咽頭ぬぐい液, 尿)を採取している。同日中に3検体すべてにおいてPCRで麻疹ウイルスゲノム陽性となり, 検査診断にいたった。接触者調査を開始し, 特に入院医療機関では, 同室患者とその付添人, 面会者, 別室だが病棟を同じくする患者とその付添人, 面会者, 病棟看護師, 医師, 出入り業者等を含む約100名の接触者を確認し得た。また検査診断直後から院内において院長を含む関係者に情報共有がなされた。医療機関直接雇用の職員に関しては, 麻しん含有ワクチン2回接種歴, あるいは有意な麻疹抗体価が把握されており, 緊急ワクチン接種やグロブリン投与を実施した者はいなかったが, 健康観察を継続した。なお, 患児は入院中に咳嗽等以外にも激しい啼泣があったことを調査で把握している。また, 入院医療機関以外に, 発病3日後, 5日後に各々異なる医療機関を受診しており, こちらも同様の対応を実施した。

2例目の経過

2025年第13週に, 初発患児の入院医療機関より, 接触者である病棟看護師に関して, 最終接触後13日目に発熱し, 同15日目に発疹, コプリック斑の3徴を認めると報告があった。同日に検体(血液, 咽頭ぬぐい液, 尿)採取を実施, 同日中に3検体すべてにおいてPCRで麻疹ウイルスゲノム陽性であり, 典型麻疹検査診断例となった。なお, 海外渡航歴はなく, 初発患児以外の麻疹患者接触歴も認めなかった。麻しん含有ワクチン接種歴は記録で2回接種を確認できている。初発患児との接触状況は, 業務で患児との接触があり, サージカルマスク装用, 眼球保護なし, N95マスクなしで対応, また先述の通り, 患児の啼泣のため, 頻回に抱っこをする等, 濃厚な接触であった。初発患児の特定された接触者において, 二次感染としてはこの1例のみで, 三次感染も認めず, すべての接触者の健康観察を終了している。

ウイルス学的検査

いずれの症例も血液, 咽頭ぬぐい液, 尿の3点を対象に, 病原体検出マニュアルに従いreal-time RT-PCRを実施し, すべての検体で麻疹ウイルスゲノム陽性であった。遺伝子型別ではB3型であることが確認され, 事例間で同一であった。

考察

大阪府下では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応と入れ替わるように, 2024年から2年連続で2月に各年第1例の麻疹届出と, それにともなう二次感染が報告されている。一方で, 医療機関内における接触者の発病に関しては本事例のみである。2023年以降は医療機関における麻疹アウトブレイクは報告されていないが, それまでは院内アウトブレイクが複数報告されている1,2)。麻疹のように感染性が非常に高い疾患に対する院内空気感染対策は, 渡航歴や受診歴等の問診の段階から始まり, 患者対応に必要な防護策や, 患者隔離・解除についても, 院内感染対策委員会や院内感染対策チームが主軸となって, 院内での情報共有を含めた取り組みが重要である。そして結核対策と同様, 患者の症状の強さ, 患者の獲得免疫も含めた免疫状態, 接触状況, 接触者の感受性, 接触者が発症した場合の周囲への影響を十分に事前評価し, 感染対策を計画する必要がある。今後の新興感染症対応への備えとして, 呼吸器感染症の類型にも含まれ得る麻疹院内感染対策を振り返ることは非常に有効であると考えられた。

参考文献

  1. 大植由紀子ら, 環境感染誌 36: 264-269, 2021
  2. 白野倫徳ら, IASR 40: 48, 2019

  堺市保健所     
   康 茆瑛 藤井史敏
  堺市衛生研究所   
   三好龍也

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