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麻しん含有ワクチンの定期接種と供給状況について

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麻しん含有ワクチンの定期接種と供給状況について

(IASR Vol. 46 p144-145: 2025年7月号)

1. 麻疹に対する定期接種の概要

麻疹は予防接種法上の定期接種に位置付けられており, 現在, 生後12~24月に至るまでの間にある者に対して行う第1期と, 5歳以上7歳未満の者であって, 小学校就学の始期に達する日の1年前の日~当該始期に達する日の前日までの間にあるもの(小学校就学前の1年間にある者)に対して行う第2期の接種が行われている。

わが国においては, 昭和51(1976)年6月から予防接種法〔昭和23(1948)年法律第68号〕に基づく予防接種の対象疾病に麻疹を位置付け, 昭和53(1978)年10月から生後12~72月の間にある者に対して1回の接種を開始した。平成7(1995)年4月には対象年齢を生後12~90月までに拡大した。その後, 麻疹の患者数が減少し, 自然感染による免疫増強効果が得づらくなってきた状況を踏まえ, 平成18(2006)年4月から現行の2回接種を開始したものの, 平成19(2007)年に10代および20代を中心とした年齢層で麻疹が大流行したことを踏まえ, 麻しんに関する特定感染症予防指針〔平成19(2007)年厚生労働省(厚労省)告示第442号〕を策定するとともに, 平成20(2008)年4月~平成25(2013)年3月までの5年間に限って, 中学校1年相当の年齢の者(第3期)と高校3年相当の年齢の者(第4期)に対して, 2回目の接種を追加する等の施策を推進してきた。

麻しん含有ワクチンについては, 特定感染症予防指針において, 第1期および第2期のそれぞれの接種率が95%以上となることが目標として定められているが, 令和5(2023)年度の全国での接種率は, 第1期と第2期で, それぞれ94.9%と92.0%であり, いずれも目標に達していない。また, 都道府県や市町村ごとにばらつきが存在している。このため, 国は国立感染症研究所と連携して自治体ごとの接種率をホームページ1)で公表し, 各自治体が自自治体の状況を確認できるようにするとともに, 通知2)において, 自治体に対して, 小学校入学手続きの機会を通じて把握された未接種者およびその保護者に対して, 積極的な接種勧奨を行う等の取り組みを依頼している。

2. 麻しん含有ワクチンの供給状況

現在, 定期接種で使用されている乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)は, 武田薬品工業株式会社(武田薬品), 第一三共株式会社(第一三共)および阪大微生物病研究会(阪大微研)が製造販売しており, 乾燥弱毒生麻しんワクチン(麻しんワクチン)は, 武田薬品が製造販売している。

令和6(2024)年1月, 武田薬品のMRワクチンおよび麻しんワクチン(麻しん含有ワクチン)について, 麻しんウイルス力価が有効期間内に承認規格を下回るロットが確認されたこと等を踏まえ, 自主回収が行われ, 一部ロットでは, 「使用可能な期限」(承認規格の有効期間より短い)を設定し, 供給が継続された。他方, 麻しん含有ワクチンの供給状況に影響が生じる可能性が否定できないため, 武田薬品のほか, 第一三共および阪大微研のMRワクチンについても, 前年の実績と同程度を上限として, 出荷量の調整(限定出荷)が行われた。厚労省からは, 通知3)を発出し, 麻しん含有ワクチンの今後の供給見込みや出荷量の調整を踏まえた注文の留意事項等を示した。

また, 令和6(2024)年3月には, 国内での麻疹の感染事例の報告を受け, 麻しん含有ワクチンの需要が高まり, 定期接種の確実な実施にあたり, 安定的な供給等を図る観点から, 事務連絡4)を発出し, 定期接種の対象者への接種機会の確保を依頼した。

ワクチンは一般的に製造開始から出荷までに要する期間が長く, 需要の変動に合わせて短期間で生産調整することが困難であるため, 厚労省において, 第一三共および阪大微研による増産および前倒し出荷等により代替供給が実施されるよう調整を行い, 令和6(2024)年度および令和7(2025)年度は例年と同程度の供給量が確保される見込みである。また, MRワクチンの安定的な供給の確保や定期接種の確実な実施の観点から, 各製造販売業者に対し, 定期接種を実施する医療機関等への供給等を優先する依頼を行う, 各卸売販売業者に対し, 不足を訴えた医療機関等へのワクチン配送および安定供給について協力要請するなど, 継続的にMRワクチンの流通改善に向けた取り組みを進めている。

他方で, 一部の自治体および医療機関においてなお, MRワクチンの供給が行き届いていない旨の報告を受けていること, これまで接種を受けられていない対象者による短期間の駆け込み需要による接種体制の確保が困難な場合もあり得ることから, 令和7(2025)年3月, 令和6(2024)年度の麻疹および風疹の第1期・第2期・第5期の定期接種の対象者について, MRワクチンの偏在等が生じたことを理由にワクチンの接種ができなかったと市町村長が認める者は, 2年間〔令和9(2027)年3月31日まで〕, 接種対象期間を越えた場合であっても定期接種を実施して差し支えない旨を示した事務連絡5)を発出した。

3. 今後の対応

わが国は, 平成27(2015)年に世界保健機関(WHO)から麻疹の排除達成の認定を受けたところであるが, 現状でも輸入症例の発生は報告されており, 今後も排除状態を維持するためには, 95%以上の定期接種率を達成することが重要である。引き続き, 自治体等と連携した接種率向上の取り組みを進めていきたい。

また, 現在, 予防接種事務のデジタル化について, 令和8(2026)年度からの稼働に向けて準備を進めているところである。デジタル化を通じて, 迅速な接種率の把握を図るとともに, 予防接種データベースの整備等により, データ収集・分析を通じて, 予防接種の有効性・安全性の向上および科学的根拠に基づく情報発信等を進め, 接種対象者とその保護者が正しい知識を持った上で接種できる体制整備を進めていきたい。

参考文献

  1. 厚生労働省, 麻しん風しん予防接種の実施状況
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.html
  2. 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課長・厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課長, 麻しん及び風しんの定期接種対象者に対する積極的な接種勧奨等について(依頼), 令和6(2024)年12月26日付事務連絡 感予発1226第1号, 感感発1226第3号
  3. 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課長, 乾燥弱毒麻しん風しん混合ワクチン及び乾燥弱毒麻しんワクチンの製造販売業者による自主回収への対応について, 令和(2024)6年1月16日付事務連絡 感予発0116第1号
  4. 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課, 麻しんに係る定期の予防接種の確実な実施に向けた乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン及び乾燥弱毒麻しんワクチンの安定供給の徹底について, 令和6(2024)年3月21日付事務連絡
  5. 厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課, 麻しん及び風しんの定期の予防接種に係る対応について, 令和7(2025)年3月11日付事務連絡
  厚生労働省健康・生活衛生局  
  感染症対策部予防接種課    
   眞中章弘 竹内皓太 吉原真吾

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