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小児定期予防接種推進のための取り組み

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小児定期予防接種推進のための取り組み

(IASR Vol. 46 p145-147: 2025年7月号)

2000年頃まで, わが国の小児定期接種ワクチンは欧米各国と比べて少なく「ワクチンギャップ」といわれてきた。2013年のインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン, 小児の肺炎球菌ワクチンとヒトパピローマウイルスワクチンが定期接種化されたのを皮切りに, 2014年に水痘ワクチン, 2016年にB型肝炎ワクチン, 2020年にロタウイルスワクチンが定期接種化され, 制度上の「ワクチンギャップ」は解消に向かった。

2011年に日本小児科学会が「日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方」を発表するまでは, 1回1種1本のみ接種で, 頻回の来院を余儀なくされ, 子どもの体調不良等により接種が延期され, 適切な時期に接種を完了できない事態が生じていた。現在も定期接種実施要領では「2種類以上の予防接種を同時に同一の接種対象者に対して行う同時接種は, 医師が特に必要と認めた場合に行うことができる」とされている1)。日本小児科学会は, 同時接種により個々のワクチンの有効性について相互に干渉しないこと, 個々のワクチンの有害事象や副反応の頻度が上がることはないこと, を示すと同時に, 同時接種を行う際の留意点(複数のワクチンを1つのシリンジに混ぜて接種しない, 接種部位は上腕外側ならびに大腿外側, 同側では2.5cm以上あける)を示した2)。これにより複数のワクチンを同時接種することが急速に普及した。

さらに2020年10月から, 同一ワクチンの接種間隔は従来通りだが, 異なるワクチンについては, 生ワクチン同士は従来通り27日以上の間隔を空けるが, 生ワクチンと不活化ワクチン, 不活化ワクチン同士の場合には接種間隔の制限が撤廃された。

同時接種, 接種間隔の規則変更により, 5種(ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ・Hib)混合ワクチン, B型肝炎ワクチン, 肺炎球菌ワクチン, ロタウイルスワクチンをほぼ同時期に接種する乳幼児期のワクチン接種は効率よく接種されるようになり, 適切な期間に完了することが可能となった。

定期予防接種の運用面が改善される一方で, しばしばワクチンの供給不足により, 円滑な接種に支障をきたしている。麻しん風しん混合(MR)ワクチンは第一三共株式会社, 武田薬品工業株式会社および阪大微生物病研究会から供給されているが, 有効期間満了前に麻疹ウイルス力価が承認規格を下回る可能性があるための自主回収(2015, 2024年), 関西における麻疹の集団感染にともなう任意接種希望者の増加(2016年)などにより需給バランスが崩れた。2024年の自主回収の影響は2025年現在も継続している。

2016(平成28)年8月の麻疹流行時にMRワクチンの供給不足が生じた。この時日本小児科医会は, 「MRワクチンを一度も接種していない1歳児を優先して接種すべき」という見解を示した3)。行政からの情報では, 2024年の自主回収時には他の2社が供給量を増やして対応し, 不足はないとされたが, 医療機関からは「入荷しない」, 「第1期の接種予約も断らなければならない」という声が聞かれた。

「必要量を供給している」とされているにもかかわらず, なぜ現場では不足するのか?, どこかに偏在しているのではないか?, この疑問を解明するため, 東京都医師会では2025年2月に会員医療機関を対象としてアンケート調査を実施した。1,456施設(内科952, 小児科255, その他249)から回答があり, MRワクチン第1期実施施設は670, 第2期711, 第5期1,156件であった。施設内でのワクチンの在庫状況については, 第1期, 第2期実施施設の74%が, 第5期実施施設の83%が「余裕なし」と回答した。一方で11本以上のワクチンを保有している施設が第1期実施施設の8.8%, 第2期実施施設の6.5%に認められた()。アンケートでは同時に, 他医療機関をかかりつけとする接種希望者の受け入れが可能かを問い, 「受け入れ可能」と回答した医療機関のリストを東京都医師会員限定, 期間限定(2025年3月31日まで)で公開した。リストの公開と同時期(2025年3月11日)に「令和6(2024)年度内に麻しん・風しんの定期予防接種の対象者でありながら接種できなかった者に対し, 令和7(2025)年4月1日から2年間, 定期の予防接種として公費で接種を受けられる」という特例が決定されたため, 医療機関や被接種者からの不安や不満の声は急速に減少し, 医療機関リスト公開の効果は検証されていないが, 非常時にはこのような方法も有用と考える。

参考文献

  1. 厚生労働省, 定期接種実施要領, 改正後全文・令和6(2024)年3月29日改正
    https://www.mhlw.go.jp/content/001238891.pdf(2025年5月25日アクセス)
  2. 日本小児科学会, 日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方, 2020年11月24日 改訂
    https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/doji_sessyu20201112.pdf(2025年5月25日アクセス)
  3. 公益社団法人日本小児科医会, 「麻疹の流行におけるワクチン接種優先順位の見解」日本小児科医会 公衆衛生委員会〔平成28(2016)年9月22日〕
    https://www.jpa-web.org/blog/uncategorized/a82(2025年6月14日アクセス)

  東京都医師会  
  副会長 川上一恵

           

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