麻しん・風しんワクチン接種率に影響を及ぼす要因の評価 ―沖縄県うるま市
麻しん・風しんワクチン接種率に影響を及ぼす要因の評価 ―沖縄県うるま市
(IASR Vol. 46 p147-148: 2025年7月号)
はじめに
麻疹はワクチンによる予防が最も重要な疾患であるが, 国内外でワクチン接種率の低下が懸念されている。沖縄県は麻しん風しんワクチン(MRワクチン)の接種率が国内で最も低く, うるま市(人口約12万7千人)では2021年以降, 第1期・第2期ともに接種率が90%を下回っている1)。本研究では, 世界保健機関(WHO)の「ワクチン接種に関する行動的および社会的要因(BeSD)フレームワーク」2)を用い, うるま市における小児MRワクチン接種率に影響を与える要因を明らかにすることを目的とした。
方法
本研究はweb調査とインタビューを組み合わせた混合研究法を用いた。2021年度にMRワクチン接種対象であった1歳児(第1期)および小学校就学前1年の児(第2期), 計2,774人の保護者を対象に2024年4~5月にweb調査を行い, 同年9~12月に地域の予防接種関係機関である自治体予防接種担当2名, MRワクチン接種実施医療機関5カ所7名, 保育所1カ所2名に対してインタビュー調査を行った。調査およびインタビューはBeSDフレームワークの「動機」, 「保護者の考え方と感じ方」, 「社会過程(社会によるワクチン接種の推奨等)」, 「実務的な問題(事務手続きや受診しやすさ等)」の4要素に焦点を当てて行い, web調査のデータは接種済群と未接種群を比較し, オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を用いて解析した。本研究は国立感染症研究所人を対象とする生命科学・医学系研究倫理審査委員会承認(受付番号1626)のもと実施された。
結果と考察
Web調査の有効回答者509人(回収率18%)のうち, 第1期対象者223人(95.1%), 第2期対象者259人(93.2%)が児に接種を受けさせており, 実際の接種率(第1期:89.4%, 第2期84.1%)1)より高い割合となった。質問項目のうちMRワクチン接種に関連していたのは, 「保護者の考え方と感じ方」に分類される「ワクチンを重要と認識している」〔OR(95%CI):7.7(2.2-26.7)〕, 「ワクチンの安全性を信じている」〔同:4.0(1.3-12.8)〕, 「医療従事者を信頼している」〔同:4.0(1.1-14.7)〕の3つと, 「実務的な問題」に分類される「ワクチン接種にかかる費用を負担と感じていない」〔同:4.1(0.8-20.0)〕であった。
インタビューでは, 不正確な情報や最近の麻疹・風疹流行がないことによるリスク認識の低下, 否定的なワクチン関連情報の拡散, 自治体と医療機関が連携した予防接種促進事業の終了など, 主に「保護者の考え方と感じ方」および「社会過程」に分類される課題がワクチン接種の躊躇に関連していると指摘された。この結果から, ワクチン接種率の低さは「保護者の考え方と感じ方」に主に関係していること, 「社会過程」も重要であることが示唆されるとともに, この2つの要因が保護者のワクチン接種への「動機」を低下させていた可能性が考えられた。また, 接種時期の把握や予約・受診が困難であることなど, 「実務的な問題」に関する指摘もあったが, 行政や医療機関の介入策によって, 多くの課題は軽減されていた(図)。
これを踏まえて, うるま市の接種率向上のためには, 行政および地域の予防接種関係者が「保護者の考え方と感じ方」や「社会過程」への対応を優先することが重要であると考えられた。具体的には, 保護者の疑問や懐疑的な声にも応えられる相談体制を整備し, 正確な情報を多様な手段で発信・周知することが求められる。また, 健診会場や未接種者へのフォローなど, 接種勧奨の機会を増やし, 地域医療機関と連携した勧奨活動の継続も効果的である。さらに, 現行の「実務的な問題」への対策を維持しつつ, 保護者が受診しづらい背景の調査を行うことで, さらなる接種率向上につながると考えられる。
本調査の制限として, web調査においては接種済みの保護者の回答が多く, 接種していない保護者の意見が過小評価されている可能性がある。また, 回答には思い出しバイアスや, 社会的望ましさバイアスの影響が含まれている可能性があり, インタビューの結果についても, うるま市における関係機関全体の意見を代表するものではない点に留意が必要である。これらの制約により, ワクチン接種を受ける動機が低下する要因について, 十分に明らかにすることはできなかった。今後は, 接種を受けていない保護者の意識や背景に焦点を当てた調査を継続し, 分析していくことが重要である。
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト, 麻しん予防接種情報
- WHO, Behavioural and social drivers of vaccination: tools and practical guidance for achieving high uptake
https://iris.who.int/handle/10665/354459
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
応用疫学研究センター
中村夏子 砂川富正
感染症サーベイランス研究部
(併任)応用疫学研究センター
小林祐介
沖縄県うるま市
市民生活部健康支援課
長濱 賢 浜元明美