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ラーメンのチャーシューが原因と推定されたサルモネラ食中毒事例について

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ラーメンのチャーシューが原因と推定されたサルモネラ食中毒事例について

(IASR Vol. 46 p174: 2025年8月号)

国内においては, 鶏肉, 鶏卵, うなぎがサルモネラによる食中毒の主な原因食品として報告されている1)。今回, 報告例の少ないラーメンを原因食品とするサルモネラによる食中毒事例を経験したため, その概要について報告する。

事例の探知と調査

令和6(2024)年11月に, 福岡県内の同一飲食店を利用した2グループ計4名中3名が下痢, 腹痛, 発熱等の症状を呈していることを探知した。これを受け, 有症者3名に対する聞き取り調査(症状, 発症前1週間の喫食内容, 行動歴など), 当該飲食店への立ち入りによる衛生状況等調査および食中毒細菌検査を開始した。さらに, 食中毒の断定および行政処分にかかわる記者発表後, 11月に利用したグループの2週間前(10月)に同飲食店を利用した1グループ2名中2名が同様の症状を呈した旨の申し出があり, 追加で聞き取り調査および食中毒細菌検査を行った。

調査結果と考察

有症者の主な症状は, 下痢, 腹痛, 発熱, 倦怠感, 悪寒であり, 喫食後24時間以内に認められた。これらはサルモネラによる食中毒の症状と一致していた。有症者の共通食は当該飲食店で提供されたラーメン(具材:チャーシュー, きくらげ, ネギ)のみであった。さらに, 有症者便検体(3名中2名), 飲食店従事者の便検体(ラーメン喫食歴あり, 2名中2名), ふきとり検体(チャーシュー裁断用のスライサー刃部)および参考品の裁断済みチャーシュー(当該飲食店で製造した別ロットのチャーシュー)からサルモネラ(血清型Agona)が検出された。原因食品はラーメンと断定され, サルモネラに汚染されたチャーシューの喫食と関連していた。なお, ふきとり検体(冷蔵庫, まな板, 作業台およびシンク), ラーメンのスープ, きくらげおよび調理に使用している水(井戸水)からはサルモネラは検出されなかった。また, 10月に同飲食店を利用した有症者に由来する菌株(1名中1名)もサルモネラ(血清型Agona)と同定され, 当該飲食店での食中毒は11月以前から発生していたと考えられた。

本事例は, サルモネラに汚染されたチャーシュー裁断用スライサーの使用に起因して発生したと考えられる食中毒事例である。スライサーの汚染源は, 加熱不十分なチャーシューであった可能性が高いと考えられた。サルモネラ(血清型Agona)は, 国内に流通する豚肉からも検出が報告2)されている血清型である。また, 当該飲食店におけるチャーシューの加熱調理工程では, 豚肩ロース(肉塊)の加熱時間が標準化されておらず, 肉塊の大きさに応じた加熱時間の調整も行われていなかった。さらに, 喫食者からの聞き取り調査で, チャーシューに赤みが認められたとの情報が収集された。このことから, 加熱不十分なチャーシューに残存していたサルモネラが裁断時にスライサー刃部を汚染したものと考えられる。なお, その他のスライサーの汚染原因として, 保管, 取り扱い中にサルモネラの汚染を受けたチャーシューが, 裁断時にスライサー刃部を汚染した可能性も考えられるが, 今回の調査では明らかにすることはできなかった。

本事例が10~11月にかけて継続的に発生した背景には, スライサーの持続的な汚染が関与していたと考えられる。サルモネラは, 乾燥に強く, 環境中での生存率も高い3)。当該飲食店においては, チャーシュー裁断用スライサーの分解洗浄が実施されておらず, 終業時に残渣を回収し, アルコールによる清拭を時折実施するにとどまっていた。そのため, スライサー刃部やその周囲を汚染した菌が十分に除去されず, これが持続的なサルモネラ汚染を引き起こし, 結果として継続的な食中毒の発生を招いたと考えられる。

本事例を踏まえ, ラーメンのような加熱調理をともなう食品であっても, サルモネラによる食中毒発生の可能性を考慮し, 食品の適切な調理および調理機器の清掃・消毒などの衛生管理を徹底する必要があると考えられた。

謝辞:協力いただいた自治体および関係者の皆様に深謝申し上げます。

参考文献

  1. 厚生労働省, 食中毒統計資料, (3)過去の食中毒事件一覧, 令和元(2019)年~令和6(2024)年
  2. 下島優香子ら, 食品衛生学雑誌 61: 211-217, 2020
  3. Finn S, et al., Front Microbiol 4: 331, 2013

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