感染症法に基づく重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生状況, 2013年3月4日~2025年5月4日
感染症法に基づく重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生状況, 2013年3月4日~2025年5月4日
(IASR Vol. 46 p157-158: 2025年8月号)
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は, 主にSFTSウイルス(SFTSV)を保有するマダニの刺咬により感染するダニ媒介感染症1)であり, 2013年3月4日より感染症法の4類感染症に指定されている。
今般, 2013年3月4日~2025年4月30日までに感染症発生動向調査システムへ届け出られたSFTS発生届の記載内容をもとに症例の疫学情報をまとめた。なお, 本内容は2025年5月4日時点の情報であり, 今後, 更新される可能性があることに留意されたい。
対象期間には1,071例が届け出られ, 男性が538例(50%), 女性が533例(50%)であった。年齢中央値は75歳(四分位範囲:67-82歳)で, 60歳以上が全体の90%を占めた。届出時点の死亡は117例(致命率11%, 117/1,059)であった。ただし, この死亡症例数には, 届出後に死亡した症例が含まれていない可能性があるため, 解釈には留意が必要である。職業は無職(618例, 58%)に次いで屋外労働が多いと推察される農林水産業関係者(192例, 18%), 医療従事者および獣医療従事者(23例, 2%)の順に多かった。
発病年月が記載された1,059例の発病年別届出数は, 2016年まで毎年60例程度(うち死亡8-16例)で推移したが, 2017年以降は増加傾向となり, 2023年の134例(うち死亡9例)をピークに高止まりしている(図1)。
届出は関東以西の31都府県からあり, その数は宮崎県(118例)が最も多く, 次いで広島県(93例), 山口県, 長崎県(各87例)と続いた。
推定感染地域は, 西日本を中心とした29府県に分布し, 届出数は宮崎県(116例), 長崎県(88例), 広島県(86例)の順に多かった(図2)。
症状は, 発熱が1,032例(96%, 1,032/1,071, 以下分母は同じ), 消化器症状(食欲不振, 下痢, 嘔吐など)が874例(82%)に認められ, 血液検査では血小板減少と白血球減少がそれぞれ1,004例(94%), 925例(86%)に認められた(重複含む)。最も多く用いられた検査方法は, PCR法(1,036例, 97%)であり, 次いで分離・同定(58例, 5%)であった(重複含む)。PCR法での検出検体は, 血液(993例, 93%), 咽頭ぬぐい液(51例, 5%), 尿(47例, 4%)の順に多く, 分離・同定での検出検体はすべて血液(58例, 100%)であった(重複含む)。
発病日, 初診日, 診断日, 死亡日が日付まで記載され, 時系列に矛盾がなく評価可能な症例に限定して解析すると, 発病日から初診日までの中央値は3日(四分位範囲:2-5日), 初診日から診断日までの中央値は3日(四分位範囲:1-6日), 発病日から死亡日までの中央値は8日(四分位範囲:6-10日)であった。発病日から診断日までの中央値の経年変化では, 2013年(38例)に14日(四分位範囲:10-17日)であったが, 徐々に短縮し, 2025年(11例)には8日(四分位範囲:7-10日)となった。
発生届の記載によると, 感染原因・経路としては, 動物・蚊・昆虫等からの感染が927例(87%)と最も多く, 追記のある症例では, 感染場所として山林が71例(7%), 感染時の行動としては農作業や畑作業が120例(11%)と最も多く届出された。
職業では, 医療従事者や獣医療従事者も確認された。近年, SFTSVに感染したイヌやネコなどが感染源となり得る事例2)や, ヒト-ヒト感染による院内感染事例3)が報告されている。SFTSを疑う患者や動物の診療では, 手引き等4,5)に準拠した標準予防策および経路別予防策の徹底について, 周知が求められる。
本報告は2019年の報告6)と比較し, 年齢・性別・症状・感染原因等に大きな変化はなかった。一方で, 年間届出数が増加傾向にあり, 推定感染地域も29府県に拡大した。SFTSV保有マダニは, 現在症例が届け出られていない東日本を含めた全国で確認されており7), 今後, 未届出地域でも症例が発生する可能性がある。引き続き, 公衆衛生関係者は住民への予防啓発を行うとともに, 診療や対策に携わる医療従事者, 獣医療従事者, 公衆衛生従事者, 森林の保全や整備に携わる方々等に対し, SFTSに関する疫学情報を周知し, 注意を促す必要がある。
参考文献
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
- 厚生労働省健康局結核感染症課, 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に係る注意喚起について, 平成29(2017)年7月24日付健感発0724第3号
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000750161.pdf - 清時 秀ら, IASR 45: 62-64, 2024
- 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き, 改訂版
https://dcc.jihs.go.jp/prevention/resource/sfts.pdf - 獣医療関係者のSFTS発症動物対策について(2024年バージョン)
- IASR 40: 111-112, 2019
- 森川 茂ら, IASR 37: 50-51, 2016
応用疫学研究センター
実地疫学専門家養成コース(FETP)
感染症サーベイランス研究部