アジアにおけるSFTSの疫学状況
アジアにおけるSFTSの疫学状況
(IASR Vol. 46 p158-159: 2025年8月号)
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は, 日本を含む東アジアで多く報告されているが, その他のアジア地域からも症例の存在が示唆されている。本稿では, その疫学状況をまとめた。
中国:SFTSは届出疾患の1つであり1), 流行国の中で最も多くの症例が報告されている。2010~2023年までに症例定義を満たした臨床診断例を含む27,447例が報告され, 死亡例は1,326例(致命率4.8%)であった2)。当該期間において, 年間症例数は増加傾向を示し, 特に2023年は5,061例が確認されたが, 致命率は2010年の12.7%から漸減し, 2023年は3.8%であった2)。発症は4~10月に96%以上が集中し, 5~6月にピークがみられた3)。
症例は50~74歳の年齢群が多く, 全体の69.5%を占めた。死亡例は60歳以上が中心で, 全体の79.7%を占めた。症例の男女比は0.9:1で, 死亡例の男女比は1.1:1であった。症例の85.8%は農業従事者で, 次いで家事従事者, 無職と続いた3)。
2011~2021年までに報告された症例は, 中国の31省級行政区(特別行政区を含まない)のうち海南省, チベット省, 青海省, 寧夏回族自治区の4省・自治区を除く27省・直轄市・自治区に分布していた。症例の99%以上が山東省, 河南省, 安徽省, 湖北省, 遼寧省, 浙江省, 江蘇省に集中していた。報告地域は期間中に13省から19省へと増加し, 中部地域から北東部, 西部, 南部への拡大がみられた3)。
韓国:SFTSは届出疾患の1つであり, 2013年の初報告以降, 2023年までに1,895例が報告され, 死亡例は355例(致命率18.7%)であった4)。症例数は, 2017年以降は年間200-250例程度, 死亡例は年間30-50例程度と横ばいで推移している。ほとんどの症例は4~11月の間に発生し, ピークは10月にみられた4)。
2022年のデータでは, 発症者・死亡者ともに70歳以上が多く, それぞれ全体の50.3%, 60.0%を占めた。発症者の男女比は1.2:1と同程度であったが, 死亡例での男女比は2.1:1と男性が多かった。職業は農業従事者が31.6%と最も多く, 次いで事務従事者が6.2%であった5)。
地理的には全国で症例が確認されているが, 東部海岸沿いの慶尚北道盈徳郡, 北東部海岸沿いの江原道襄陽郡, 北部内陸の江原道麟蹄郡での報告が多く, 人口10万当たりの年間累積罹患者数は, 全国が0.4であるのに対し, それぞれ11.3, 10.8, 9.3であった5)。
その他のアジア地域においてもSFTS症例が確認またはSFTSウイルスの存在が示唆されており、各地域の状況は次のとおりである。
台湾:SFTSは2019年に初発例が報告され, その後2020年4月から届出疾患となった。2022年に台東県で1例の症例が確認されて以来, 新たな確定症例は報告されていない6)。
ミャンマー:SFTS症例は確認されていないが, 2018~2019年に行われたつつが虫病の調査において, 152検体の血清中, ザガイン州の5検体からSFTSウイルス遺伝子が確認された7)。
タイ:2018~2021年にかけてバンコクおよびその周辺地域の発熱を呈した入院患者712人から収集された残余血清検体のうち, 3人の検体からSFTSウイルス遺伝子が確認され, 国内感染と考えられる症例が報告された8)。
ベトナム:2019年に国内感染を示唆する2例の症例が報告された9)ほか, 2017~2018年にフエとクアンナムから収集された健常者の血清(714検体, 多くが農業従事者由来)を用いた検査では, 3.6%がIgMまたはIgG陽性であった10)。
パキスタン:2016~2017年にかけて収集された農業従事者由来の血清を用いた検査では, 陽性率は検査法により46.7%から2.5%と大きく異なったが, 高い値を示した。しかし, 近縁ウイルスとの交差反応の可能性もあり, さらなる調査が必要である11)。
SFTSは, 特に高齢者では致命率が高い疾患である。アジアにおいて, 報告数や感染地域数が総じて増加傾向にある状況を考えると, 今後も各国の発生動向を注視していくことが重要である。
参考文献
- China CDC, 发热伴血小板减少综合征防控技术指南(2024版), 中国疾病预防控制中心印发二○二四年四月十一日
https://www.cqcdc.org/uploads/ueditor/file/20241008/1728371799916003.pdf - Yue Y, et al., J Tropical Dis Parasitol 22: 257-261, 2024
- Chen QL, et al., Zhonghua Liu Xing Bing Xue Za Zhi 43: 852-859, 2022
- KDCA, 2023 Infectious Disease Report Status Yearbook
https://dportal.kdca.go.kr/pot/bbs/BD_selectBbs.do?q_bbsSn=1010&q_bbsDocNo=20240628174016361 - Choi J, et al., Public Health Weekly Report 16: 1025-1037, 2023
- Taiwan CDC, National Notifiable Disease Surveillance Report
https://www.cdc.gov.tw/En/Category/List/Nim1Frm1C1ELxEhJ_hdJBg - Win AM, et al., Emerg Infect Dis 26: 1878-1881, 2020
- Rattanakomol P, et al., Emerg Infect Dis 28: 2572-2574, 2022
- Tran XC, et al., Emerg Infect Dis 25: 1029-1031, 2019
- Tran XC, et al., Viruses 14: 2280, 2022
- Zohaib A, et al., Emerg Infect Dis 26: 1513-1516, 2020
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
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