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院内でのヒト-ヒト感染についての取り組みと対策

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院内でのヒト-ヒト感染についての取り組みと対策

(IASR Vol. 46 p159-160: 2025年8月号)

はじめに

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の病原体であるSFTSウイルス(SFTSV)は, 主には患者の血液に存在しているが, 他にも尿, 便, 気道分泌物などの体液や排泄物からも検出される。SFTS患者には嘔吐や下痢のみならず出血症状をともなう場合もあることから, 患者を扱う医療従事者は病原体曝露による二次感染について特に留意する必要がある。

ヒト-ヒト感染の報告

SFTSの初報以降, 患者を発端者としたヒト-ヒト感染については, 中国と韓国から報告が相次いでいる。それらの報告によれば, 患者を直接ケアした家族や遺体に触れた納棺師などの感染においてはもっぱら血液や体液への接触が原因として挙げられている1)。一方, 医療従事者においては, 血液や体液への接触はもちろんであるが, 気管内挿管1), 心肺蘇生2-4), バッグ-マスク換気4), 中心静脈カテーテルの挿入3), 喀痰吸引3), 採血手技1), 死後の処置3)などの医療行為が感染機会として考えられ, ほとんどの場合で予防策が遵守されず個人防護具(PPE)の装着が不十分であった可能性が指摘されている。また, 発端患者にかかわった59人の医療従事者のうち17人が感染した集団感染事例の疫学的調査においては, 危険因子として, レジデント医師, 病院勤務期間が短い, といった因子も抽出されており4), 勤務習熟度は感染予防策の遵守に関連があるのかもしれない。

わが国のヒト-ヒト感染例

日本国内においても, 2023年4月に重症SFTS患者の診療にあたった20代の医師がSFTSを発症した事例が発生した。この事例報告では, 感染が成立した機会として, (1)手袋をせずサージカルマスクのみの装着で診察した, (2)サージカルマスク, 手袋, ガウンを装着したがフェイスシールドなしで死後の中心静脈カテーテル抜去と同部の縫合処置をした, の2点が挙げられているものの, この医師には血液や体液の直接曝露を受けた自覚はなかった5)

医療従事者を感染リスクからいかに守るか

血液や体液への曝露機会がないのに医療従事者への感染がみられた事例報告は他にもある。中国で発生した7人の集団感染事例においては, 5人の患者家族には血液曝露があったものの, 患者を診療した2人の医師と看護師には明らかな血液曝露は確認できなかった6)。わが国のSFTS診療の手引き7)に記載されるように, SFTSVのヒト-ヒト感染は基本的には接触感染であり, 患者のケアには接触予防策を講じることが原則である。さらに安全性を担保するためには, 結膜の防護不全が感染リスクとなる懸念があるので, 眼部の防護はより積極的に実施するほうが良い。また, 心肺蘇生や気管挿管など, エアロゾルが発生し得る場面ではPPEを強化すべきである。

院内感染防止対策の実際

山口県立総合医療センターにおけるSFTS患者の取り扱いを紹介する。臨床症候や検査所見からSFTSを疑った時点で, 医療従事者にSFTSの疑いであることを周知して, 入院前より標準予防策に加えて接触予防策を徹底する。入院は, 患者間の接触や, 環境や医療従事者を介した間接接触による同室者への感染を避けるために個室管理とし, 使用する器具(体温計, 血圧計, 抑制帯など)は個人専用としている。器具や環境備品などは0.1%次亜塩素酸ナトリウム液で清拭したのちにエタノールで拭いている。患者ケアや汚物処理時には, サージカルマスク, 手袋, エプロンの使用に加えて, 血液や体液の飛散による眼粘膜からの感染も予防するためアイガードも常時装着している。患者が使用した尿器や便器は0.5%次亜塩素酸ナトリウム液に1時間浸漬消毒している。空気感染は想定していないので陰圧管理はしないが, 激しい嘔吐や下痢への対応, 気管挿管や心肺蘇生術に際しては, N95マスクの着用を義務付けている。二次感染のリスクをできるだけ最小化するため, こうした患者ケアは清掃や食事の準備・介助も含めて看護師が担当することとしている。

患者の個室管理については, 軽症の場合には発症14日目, 重症であっても症候が十分改善していれば発症21日目を目安に解除している。死亡した場合の遺体処置は通常と変わりないものの, 遺族や葬儀関係者には血液や体液に感染性があることを伝えて, 直接触れないよう指導している。病理解剖はサージカルマスク, 手袋, ガウン, キャップ, アイガードを装着して行っている。

おわりに

SFTSは致命率の高い感染症であり, 患者の診療にあたる医療従事者の安全は十分に担保される必要がある。医療現場においては, PPEを正しく, かつ十分に使用して感染予防策を遵守することが一層求められる。

参考文献

  1. Gai Z, et al., Clin Infect Dis 54: 249-252, 2012
  2. Kim WY, et al., Clin Infect Dis 60: 1681-1683, 2015
  3. Jung IY, et al., Clin Microbiol Infect 25: 633.e1-633.e4, 2019
  4. Bae S, et al., Int J Infect Dis 119: 95-101, 2022
  5. 清時 秀ら, IASR 45: 62-64, 2024
  6. Chen Q, et al., Infect Dis Poverty 11: 93, 2022
  7. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き, 2024年版
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001229138.pdf

  山口県立総合医療センター血液内科
   高橋 徹           
  周東総合病院消化器内科     
   清時 秀

 

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