コンテンツにジャンプ
国立健康危機管理研究機構
感染症情報提供サイト
言語切り替え English

トップページ > サーベイランス > 病原微生物検出情報 (IASR) > SFTSに対するファビピラビルの承認と現状について(2025年)

SFTSに対するファビピラビルの承認と現状について(2025年)

logo35.gif

SFTSに対するファビピラビルの承認と現状について(2025年)

(IASR Vol. 46 p160-161: 2025年8月号)

背景

2013年に日本国内で初めて重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)の症例が報告されて以降, 主に西日本を中心として毎年一定数の感染者が確認されており, 患者数は年々増加傾向にある。国内における疫学調査での致命率は約27%と, 国内の感染症としては極めて高く, また経年的にも変化していない1,2)。一方で, これまでSFTSに対する有効な治療薬は存在せず, その開発は喫緊の課題とされてきた。

SFTSに対するファビピラビルの承認について

ファビピラビル(FPV)は富山化学工業株式会社(現・富士フイルム富山化学株式会社)によって創製された抗ウイルス薬であり, 2014年3月に厚生労働省より「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし, 他の抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分なものに限る)」を適応症として製造販売承認を受けている。

本薬剤の作用機序は, 細胞内に取り込まれた後, 細胞内リン酸化酵素により三リン酸体へと変換され, この活性体がRNAウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼを選択的に阻害することにより, ウイルスの複製を抑制するものである。この機序に基づき, FPVはin vitroおよびin vivoの双方において広範な抗RNAウイルス活性を示しており, SFTSの動物感染モデルにおいても治療効果が確認されている3,4)

そこで, SFTS患者における治療効果と安全性を評価することを目的として, 医師主導型臨床研究(研究デザイン:多施設共同・オープンラベル・非対照, 目標症例数:25例, 観察期間:28日間, 主要評価項目:患者生存率)が2016年4~12月および2017年9月~2018年7月の期間に実施された。発症7日未満の比較的早期の重症症例を対象とし, 最終的に23例が解析対象となった。

被験者の年齢中央値は71歳(四分位範囲:65-81歳), 発症からFPV投与までの日数の中央値は4日(四分位範囲:3-5日)であった。投与方法は, 初日に1回1,800 mgを1日2回, 2日目以降は1回800 mgを1日2回, 7~14日間にわたり経口投与された。解析対象のうち4例は, 治療開始後6日以内にSFTSによると考えられる多臓器不全により死亡し, 致命率は17.4%(4/23)であった。これは, 既報の致命率と比較して約10%低い値であった。さらに, 治療開始時の血中ウイルス量が1×105copy/mL未満であった症例においては, 生存率は100%(13/13)であり, 早期にFPVを投与することの有用性が示唆された5)

医師主導型臨床研究によりSFTSに対する有効性が示唆されたことを受け, 2018年から富士フイルム富山化学株式会社により臨床第III相試験(JP321試験)が実施された。本試験は先行の医師主導型臨床研究とほぼ同様の試験デザインであるが, 年齢(20~84歳), 薬剤の投与期間(10日間)など, 一部の相違が認められる。さらに, 本疾患は稀少疾患であることから, ランダム化比較による検証が困難であり, 既存対照との比較試験として実施され, FPVの有用性をより適切に評価するためのプロトコールが採用された6)

JP321試験においては23例が解析対象となり, 有効性の主要評価項目であるFPV投与開始後28日目までの致命率は13.0%(3/23)であった。この成績は医師主導型臨床研究における致命率17.4%とほぼ同等であり, SFTSに対するFPVの有効性の再現性を支持する結果となった。また, 既存対照として実施されたFPV非投与群を対象とした後方視的非介入観察研究(JP322観察研究)との, 傾向スコアを用いたマッチング比較解析では, FPVは致命率を半減させ(リスク比:0.500), 本剤の有効性を補強する所見が得られた7)(現在, 論文投稿中)。

海外においては, 中国で実施されたデータベース統合解析8)および単盲検ランダム化試験9)において, FPV投与による致命率のリスク比はそれぞれ0.449および0.517であり, いずれもJP321試験の結果と類似していた。さらに, FPV投与群で血中SFTSウイルス消失までの日数や血液検査値において, 統計学的に有意な改善が認められ, FPVの臨床的有用性も示された。これらの国内外におけるFPVの有効性に関する知見の集積を受け, 2024年6月にFPVがSFTSに対する世界初の抗ウイルス薬として日本国内で承認された。

SFTSに対するFPVの処方・現状について

本剤の投与に際しては, 重症感染症診療体制が整備され, 緊急時に十分な措置が可能な医療機関において, 本剤について十分な知識を持つ医師のもと, 入院管理下で投与することが求められている。実際の使用においては, 事前に研修を受けて登録された医師のみが処方可能となる(2025年6月現在)。具体的には, 富士フイルム富山化学株式会社が提供する医療従事者向けサイト内で公開するe-learning(所要時間約5分)を受講した後, 同サイト内の確認テストに合格することで, 登録医として認定される必要がある10)

また, 2024年12月よりFPVの抗ウイルス効果を検証する目的で, 製造販売後臨床試験が開始されている。本試験は, FPV投与初期におけるSFTSウイルスのゲノム量の推移を評価するものであり, 非盲検・非対照の多施設共同試験として実施されている。現在, 本試験の結果が待たれている。

参考文献

  1. Kato H, et al., PLoS ONE 11: e0165207, 2016
  2. Kobayashi Y, et al., Emerg Infect Dis 26: 692-699, 2020
  3. Tani H, et al., mSphere 1: e00061-15, 2016
  4. Tani H, et al., PLoS ONE 13: e0206416, 2018
  5. Suemori K, et al., PLoS Negl Trop Dis 15: e0009103, 2021
  6. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き, 2024年版
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001229138.pdf
  7. 富士フイルム富山化学株式会社, アビガン錠200mgに関する資料
    https://www.pmda.go.jp/drugs/2024/P20240701002/index.html
  8. Yuan Y, et al., EBioMedicine 72: 103591, 2021
  9. Li H, et al., Signal Transduct Target Ther 6: 145, 2021
  10. 富士フイルム富山化学株式会社, アビガン®錠200mg 重症熱性血小板減少症候群ウイルス感染症
    https://hc.fujifilm.com/fftc/ja/products/pharmaceuticals/low-molecular/avigan/sfts

  愛媛大学大学院医学系研究科血液・免疫・感染症内科学 
   末盛浩一郎

 

PDF・Word・Excelなどのファイルを閲覧するには、ソフトウェアが必要な場合があります。
詳細は「ファイルの閲覧方法」を確認してください。