動物におけるSFTSV感染(2024年12月末現在)
動物におけるSFTSV感染(2024年12月末現在)
(IASR Vol. 46 p164-165: 2025年8月号)
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス(SFTSV)の感染環(図1)
SFTSVはマダニにおけるすべてのステージ(幼ダニ, 若ダニ, 成ダニ)を経ること(経ステージ感染), ならびに経卵巣感染することが知られている(マダニサイクル)。これらSFTSV保有マダニにヒトを含む哺乳動物が吸血されて, SFTSVに感染する。SFTSVに感染した動物の一部はウイルス血症になり, ウイルス血症になっている動物を吸血したマダニがSFTSVに感染する(動物サイクル)。マダニサイクルでは, 1匹のSFTSV感染雌マダニの産卵により数多くのSFTSV感染幼ダニが生まれ, 動物サイクルでは, 1頭のウイルス血症を示した動物から多数のSFTSV保有マダニが生じる。条件さえ整えば, マダニサイクルと動物サイクルの相乗効果により, SFTSVが急激にその地域に蔓延する。
ネコにおけるSFTS
SFTS発症ネコにおいては, ヒトと同様に発熱, 白血球減少, 血小板減少などが認められる。一方, ヒトには認められない黄疸が多くの発症ネコに認められる。致命率は60%と非常に高く, 死亡したネコでは腸出血などの出血性病変が認められる。ウイルスは基本的に血液から大量に検出されるが, 口腔・結膜・肛門などに大量のウイルスを排出する場合があり, マダニを介さないネコ-ヒト感染の感染源となる。
ネコにおけるSFTS発生状況
愛玩動物におけるSFTSV診断ネットワークにより収集している2017年以降のSFTS発症ネコの報告数は増加しており, 2024年は196頭報告された(図2)。その数はヒト患者数が2024年122名であるのに対し, 1.6倍となっている。ネコにおけるSFTS発生は西日本が中心で, 長崎県(171頭), 鹿児島県(127頭), 広島県(100頭)で多くの発生が報告されている(図3)。一方, 発生数は少ないが, 日本海側では石川県, 太平洋側では静岡県で報告されている。石川県, 福井県, 愛知県, 奈良県では2024年になって初めて報告された。沖縄県での報告はまだない。SFTS発症ネコが報告されている地域はSFTS患者発生地とほぼ一致している。現在, SFTS発生地域は東日本へと拡大している。ネコにおけるSFTS発生は3~5月にかけて多いが, 冬季にも報告がある(図4)。
イヌにおけるSFTS
SFTSVに感染したイヌの多くは不顕性に経過している。感染したイヌの一部が発症し, ヒトと同様の症状を示す。発症し来院したイヌの40%が死亡している。健常イヌにおける抗SFTSV抗体保有率は健常ネコよりも高い傾向にある。
イヌにおけるSFTS発生状況
イヌにおけるSFTS発生数はネコに比べて少なく, 2024年は12頭であった(図2)。報告数は2017年以降, 増加傾向にある。発生報告は西日本に多いが, ネコで発生のない長野県や富山県からも報告されている。長野県の例では, SFTS流行地から長野県のボランティアに譲渡されたイヌが発症した。イヌでの発生は4月と5月に多く, 冬季の発生は少ない(図4)。イヌでの発生時期はヒトの場合と似ている。
その他の動物におけるSFTSV感染
SFTSV保有マダニに吸血された場合, すべての哺乳動物が感染すると思われる。しかし, 発症動物については, ヒト, イヌ, ネコ, チーター以外の報告はまだない。多くの動物が感染しても不顕性感染していると考えられる。流行地の野生動物であるイノシシやシカでの抗SFTSV抗体保有率は非常に高い。一方, SFTSV遺伝子はアライグマなどの食肉目の動物の血液から高率に検出されている。野生動物での抗SFTSV抗体保有率が高い地域ではヒト患者の発生も多い。
発症動物からヒトへの感染
SFTS発症動物, 特にネコでは大量のウイルスが血液のみならず唾液などの分泌物中に排出されている。発症動物から排泄されたウイルスにより, 飼い主や治療にかかわる獣医療関係者が感染した事例が報告されている。飼い主や獣医療関係者などの高リスクグループへの感染対策の徹底が求められている。
最後に
SFTSのようなマダニ媒介感染症は地域の動物で感染がみつかれば, その地域に定着している可能性が高く, その後は継続して発生すると考えられる。そのため地域の動物での感染状況を把握することが重要である。一方, 流行地で感染した動物が譲渡などにより移動先で発症する例も認められている。地域に発生がなくても, イヌ・ネコに致死的な出血熱を引き起こすSFTSはヒトにも動物から直接感染するため, 常に警戒することが重要である。
国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所獣医科学部
前田 健 石嶋慧多 平良雅克
山口大学共同獣医学部
下田 宙 早坂大輔
岡山理科大学獣医学部
森川 茂
東京大学大学院農学生命科学研究科
桃井康行
宮崎大学農学部
岡林環樹
長崎大学感染症共同研究拠点
高松由基
東京農工大学農学部附属感染症未来疫学研究センター
水谷哲也
北海道大学獣医学部
松野啓太
広島県獣医師会