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京都府におけるSFTSへのワンヘルスアプローチ

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京都府におけるSFTSへのワンヘルスアプローチ

(IASR Vol. 46 p167-168: 2025年8月号)

はじめに

京都府では, 2004年から20年にわたり「人と動物の共通感染症サーベイランス事業(以下, サーベイランス事業)」を実施し, 定点動物病院から人獣共通感染症に関する情報を収集・還元してきた。2013年に日本国内で初めて重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の患者が確認され1), 本府では, 2015年に初めてヒトの症例が届け出られたことを受け, 2015年からSFTSをサーベイランス事業の報告対象に追加した。

また, サーベイランス事業と並行して, 動物愛護センターに保護されたイヌ・ネコを対象に, 保健環境研究所において病原体の検査を行う「積極的疫学調査」も実施している。検査項目は, かつて腸管出血性大腸菌やレプトスピラとしていたが, SFTSの国内発生を受け, 2016年からは対象をSFTSとした。

今回, 定点動物病院からのSFTS発生報告およびSFTSウイルス(SFTSV)抗体保有状況の調査により, 府内SFTSの浸潤状況について一定の知見が得られた。これらの知見を, 今後の人獣共通感染症対策に資するため, ワンヘルスの視点から啓発チラシを作成し, 府医師会をはじめとする関係機関に対して, ダニ媒介感染症の予防啓発を行っている。本稿では, その取り組みについて報告する。

サーベイランス事業

府内を6地域に分け, 獣医師会から推薦を受けた17の定点動物病院から毎月, 人獣共通感染症の情報収集を行った。2015~2017年まではSFTSの報告はなかったが, 2018年にネコでの発生が2件報告されて以降, 毎年, イヌ・ネコ合わせて2-4件の報告が続いており, 2025年5月までに累計イヌ3頭, ネコ13頭の発生が確認された。そのうち, ヒトでの発生が報告されていない南丹地域においても, イヌ1頭, ネコ2頭の発生が報告された(図1左)。

積極的疫学調査

SFTSV抗体検査は, 動物愛護センターに保護されたイヌおよびネコの血液を採取し, その血清を用いてELISA法によりSFTSVに対するIgG抗体を測定した。2016~2024年までに343検体(イヌ317頭, ネコ26頭)を検査した結果, イヌ10頭が陽性であり, ネコはすべて陰性であった。陽性となったイヌのうち, 6頭は北部(丹後・中丹地域), 4頭は南部(山城地域)で保護されたものであった(図1右)。

ワンヘルスへの取り組み

府内では, 2015年以降, 感染症発生動向調査における府内のヒトの累積報告数は17件(2025年6月18日現在)である。発生地域は丹後および中丹地域に限られており, 発生状況だけをみると北部地域に限局した感染症のようにみえる。しかし, サーベイランス事業により, 北部地域はもとより, ヒトでの発生が確認されていない南丹地域の動物病院からもイヌ・ネコの発生報告があり, さらに積極的疫学調査の結果, 府南部の山城地域でも抗体陽性のイヌが確認されていることから, 現在患者が発生していない地域も含め, 府域全体にSFTSVが浸潤している可能性が示唆された(図1)。

このため, 府全体での注意喚起が必要と判断し, ワンヘルスの観点からヒトおよびペット向けの内容が1つになった啓発チラシを作成した。チラシには, SFTSの概要, 全国の発生マップ, イヌ向けに散歩後のチェックポイントやダニ予防法, ネコ向けにネコによる咬傷による死亡事例の新聞記事や屋内飼育の推奨, ヒト向けにダニに刺されないための対策などを盛り込んだ(図2)。

これらのチラシは, 府保健所, 市町村, 府内の動物病院, 猟友会などを通じて広く配布した。特にヒトへの注意点を盛り込んだことで, 従前の動物病院を中心とした啓発から, 保健所の保健課, 府医師会感染症部会, 京都子育てピアサポートセンターなどへの配布が可能となり, 啓発の機会が拡大した。

また, 本府では, 2004年の鳥インフルエンザ発生時に全庁的な対応を行ったことを契機に, 2008年から京都府医師会, 京都府獣医師会および, 飼育動物・野生動物・家畜等にかかわる府庁内の関係機関〔府教育委員会, 府庁関係課(健康対策課, 文教課, 農村振興課, 畜産課等), 保健環境研究所, 動物愛護センター等〕で構成される「人と動物の共通感染症予防対策連絡調整会議(以下, 連絡調整会議)」を設置している。この連絡調整会議の構成機関へサーベイランス事業の結果等を毎月フィードバックしているほか, ダニ媒介感染症等に関する研修会を定期的に開催するとともに啓発チラシの配布等を通じて, 人獣共通感染症に対する共通認識の醸成に取り組んでいる。また, サーベイランス事業の年報をホームページにアップしている2)

今後も, ヒトやペットの日常的なマダニ対策が公衆衛生の向上につながるというワンヘルスの観点から, SFTSを含むダニ媒介感染症の発生状況に注視しながら, 予防啓発活動に努めていきたい。

参考文献

  1. 西條政幸ら, IASR 34: 40-41, 2013
  2. 京都府, 動物由来感染症サーベイランス事業
    https://www.pref.kyoto.jp/doubutsu/saabeiransu.html(2025年6月23日アクセス)
  京都府文化生活部生活衛生課     
   岡本裕行 宇埜麻美子       
  京都府保健環境研究所細菌・ウイルス課
   小寺 明 酒井友里        
  京都府動物愛護センター       
   大石剛史

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