ダニ刺咬後の原因不明発熱レジストリの構築
ダニ刺咬後の原因不明発熱レジストリの構築
(IASR Vol. 46 p172-173: 2025年8月号)
近年, 日本国内では新興ダニ媒介性ウイルス感染症が新たに報告されている。2021年には北海道でエゾウイルス感染症の症例1)が, そして2023年には茨城県でオズウイルス感染症の症例2)がそれぞれ報告された。
また, SFTSウイルス(Bandavirus dabieense)の発見以降, マダニが保有するウイルスの解析が進み, これまでヒトでの感染例が報告されていないウイルスがみつかってきた。エゾウイルスについても, ヒトでの感染例が報告される前にマダニからみつかっており, 病原体の解析が進んでいたこと3)が, ヒトでの感染例における迅速な診断に繋がっている。
このように, 日本には未知の新興ダニ媒介性ウイルス感染症や, 存在は確認されているものの, ヒトでの感染例が報告されていない新興ダニ媒介性ウイルス感染症が潜在している可能性がある。
我々は, 2022年4月から開始された国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究班「新興ダニ媒介性ウイルス重症熱に対する総合的な対策スキームの構築(研究代表者:海老原秀喜)」の分担研究として「マダニ刺咬後の発熱疾患レジストリの構築」を開始した。これは, 発熱やマダニ刺咬歴があり, つつが虫病, 日本紅斑熱, 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などのダニ媒介性感染症が疑われたものの, 行政検査においてこれらの感染症が否定的であった症例の臨床情報および臨床検体を収集し, 前述のオズウイルスなどのようにヒトでの感染例が確認されているもののまだ疫学が十分に分かっていない病原体, カブトマウンテンウイルスなどのようにマダニから病原体はみつかっているもののまだヒトでの感染例が報告されていない病原体などを網羅的に解析を行うレジストリである。臨床情報についてはREDCapを用いて収集し, 全血, 血清, 痂皮などの臨床検体は3重包装にて大阪大学に郵送し, -80℃のディープフリーザーで保存した。本レジストリについては, ホームページ(https://www.tickborne-diseases.jp/)を作成し, また感染症に関連した学会やインターネット上でも周知を行った。
2022年8月から症例登録を開始し, 2025年3月までの3年間で33例の症例の臨床情報および臨床検体を収集した。これら33例のうち11例分については, 既知の病原体(オズウイルス, カブトマウンテンウイルス)の遺伝子や抗体は検出されず, ウイルス培養からも未知の病原体は検出されなかった。現在は, 残りの検体のウイルスの解析を進めながら並行して, ヒト顆粒球アナプラズマなど, ウイルス以外の病原体を含めて解析中である。本研究は, 2025年4月以降も, AMED研究班「研究組織基盤の多面的マトリックス化による新興ダニ媒介ウイルス感染症対策戦略の強化(研究代表者:海老原秀喜)」の分担研究である「マダニ刺咬後の発熱患者レジストリの強化およびSFTS患者レジストリの構築」において継続しており, 現在も症例の収集を行っている。本研究に該当する症例(発熱, マダニ刺咬歴があり新興ダニ媒介性感染症が疑われるものの行政検査で原因が明らかにならなかった症例)について, ぜひホームページ(https://www.tickborne-diseases.jp/)を通じて本レジストリにご登録いただきたい。
参考文献
- Kodama F, et al., Nat Commun 12: 5539, 2021
- 峰 宗太郎ら, IASR 44: 109-111, 2023
- Ejiri H, et al., Virus Res 249: 57-65, 2018
大阪大学医学部附属病院
感染制御部
忽那賢志 豊川貴生 山本 剛
纐纈律子 佐田竜一 山本舜悟