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東京都におけるA群溶血性レンサ球菌感染症由来株の型別および薬剤感受性状況

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東京都におけるA群溶血性レンサ球菌感染症由来株の型別および薬剤感受性状況

(IASR Vol. 46 p180-182: 2025年9月号)

東京都では, 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(以下, 劇症型)患者から分離されたβ溶血性レンサ球菌について, 協力が得られた医療機関から積極的疫学調査として全菌株を確保することとし, 健康安全研究センター(以下, 当センター)で血清型別等の疫学解析を実施している。また, A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(以下, 咽頭炎)患者由来株については, 感染症発生動向調査事業として病原体定点医療機関で採取した患者検体からStreptococcus pyogenesを分離培養し, 同様の解析を実施している。

今回, 2015~2024年の10年間に都内で発症した劇症型942症例から分離されたS. pyogenes 437株および咽頭炎患者由来691株について, 当センターで実施したT血清型別とemm遺伝子型別および薬剤感受性試験の結果を報告する。

T血清型別

劇症型由来株では, T-1型が延べ148/437株(33.9%), T-B3264型が60/437株(13.7%), T-12型が43/437株(9.8%)などの順で多かった。一方, 咽頭炎由来株はT-1型が156/691株(22.6%), T-12型が130/691株(18.8%), T-4型が111/691株(16.1%), T-B3264型が108/691株(15.6%), などの順で多く, 発症年別でも劇症型と咽頭炎由来株ではT血清型別で違いがみられた(図1)。

emm遺伝子型別

劇症型由来株についてemm遺伝子型別を実施した結果, emm1型が152/437株(34.8%)と最も多く, 次いでemm89型が69/437株(15.8%), emm81型が44/437株(10.1%)などと続き, 特に2023年, 2024年はemm1型が占める割合が多い傾向があった(図2)。

M1UK株の検出

2024年1月の厚生労働省通知(感感発0117第5号)によりM1UK株の検出法が提示されたことを踏まえ, 当センターで確保したemm1型株(劇症型由来152株, 咽頭炎由来157株)についてM1UK株の検査を実施した。その結果, 劇症型由来株は98/152株(64.5%), 咽頭炎由来株では88/157株(56.1%)がM1UK株であった(図3)。特に, 2023~2024年の劇症型由来株中のM1UK株の割合をみると, それぞれ29/31株(93.5%), 58/65株(89.2%)であった。一方, 咽頭炎由来株では, 2019年は26/34株(76.5%), 2023年は11/12株(91.7%)が検出され, 2020~2022年および2024年は, 検査に供したemm1型のすべてがM1UK株であった(図3)。

なお, 咽頭炎については, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として各種の感染対策を実施した2020年以降から報告数の減少が続いていたが, 2023~2024年には劇症型とともに急増し, 都内の報告数が過去最多となった1,2)。また, 劇症型は高齢者に多くみられ, 本調査でも65歳以上での発症が全体の62.6%(590/942例)で, S. pyogenesが分離された437症例では47.8% (209例)であったが, M1UK株が検出された98症例では41.8% (41例)であり, M1UK株が検出された症例においては全体と比べて若年層の割合が高い傾向がみられた。

薬剤感受性

咽頭炎由来株について, 発育不良であった1株を除いた690株を対象に, 9薬剤(アンピシリン:ABPC, セフジニル:CFDN, セファレキシン:CEX, セフジトレン:CDTR, テトラサイクリン:TC, クロラムフェニコール:CP, エリスロマイシン:EM, クラリスロマイシン:CAM, クリンダマイシン:CLDM)を含むドライプレート(オーダープレートTNE4)を用い, IA40 MIC(栄研化学)により薬剤感受性試験を実施した()。その結果, β-ラクタム系抗菌薬4剤(ABPC, CFDN, CEX, CDTR)については, すべてが良好な感受性を示した。耐性株がみられた5薬剤の耐性率は, TC:7.0%, CP:0.1%, EMおよびCAMが22.5%, CLDM:6.7%であった()。M1UK株については, TC, EM, CAMの3剤耐性株が1株(1.1%:1/88株)みられたのみであった。

都内では, 2024年夏以降からM1UK株の検出が漸減し, 現在はほとんど検出されていない。一方で, 劇症型の発生報告例は2023/2024年に比べて減少はしているものの, 報告が続いている1)。同シーズンでの劇症型報告例の急激な増加についてはいまだ不明な部分も多く, 劇症型と咽頭炎由来株の関連性については, さらに検討を進める必要があると考える。したがって今後も, A群溶血性レンサ球菌感染症由来株について継続した検査を実施し, 動向を把握・監視していく必要があろう。

参考文献

  1. 東京都感染症情報センター, 全数報告疾病 届出患者数 推移グラフ(年)
    https://survey.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/epidinfo/zensu10bchart.do
  2. 東京都感染症情報センター, 定点報告疾病 経年推移グラフ(10年間)
    https://survey.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/epidinfo/weekly10chart.do

  東京都健康安全研究センター微生物部
   奥野ルミ 内谷友美 有吉 司 吉田 勲 森 功次 貞升健志 千葉隆司

 

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