劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者分離A群株のemm遺伝子型、2015~2024年
劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者分離A群株のemm遺伝子型、2015~2024年
(IASR Vol. 46 p182-183: 2025年9月号)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)は, 溶血性レンサ球菌, 主にA群レンサ球菌により引き起こされる。
A群レンサ球菌には, 数多くの表層抗原因子が知られている。このうちMタンパクは, 型特異的であり, 200以上の型が知られていることから, 菌の疫学マーカーとしてよく用いられている。Mタンパクは, 抗オプソニン作用を有し, 病原因子として知られている。分離株のM型別を行うことは病因との関連を知るうえで重要である。M型別を血清学的方法ではなく, Mタンパクをコードする遺伝子(emm)の塩基配列を決定することで, 遺伝子による型別を行うことができる。
STSS患者分離株は, レファレンスのネットワークを通じ溶血性レンサ球菌レファレンスセンターに集められた。そのうち, 感染症法のSTSSの届出基準に合致する症例の分離株についてemm遺伝子型を調べた。emm遺伝子型はBeallら1)の方法に従って行った。
2015~2024年までにSTSSから分離されたA群レンサ球菌1,986株(2015年108株, 2016年151株, 2017年154株, 2018年177株, 2019年240株, 2020年103株, 2021年63株, 2022年72株, 2023年184株, 2024年734株)について, emm遺伝子型別解析を行った(図1)。菌種は, 1,986株のうち1,928株がStreptococcus pyogenes, 58株がS. dysgalactiae subsp. equisimilisであった。全部で66種類のemm遺伝子型の株が分離された(2株, 型別不能)。最も多い型は, emm1型で, 41.0%(815株)を占めていた。続いて, emm89型16.3%(324株), emm12型8.8%(174株), emm81型6.6%(131株), emm49型5.7%(114株)であった。最も多かったemm1型は, 2015~2019年と2023~2024年で最も多く分離された遺伝子型であった。2020~2022年はemm81型が最も多かった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下において, emm1型によるSTSSが減少していた2)。
近年, M1UK株と呼ばれる変異型菌株の拡大が国際的に注目されている。この株は従来のemm1型と比較し, 発赤毒素SPE-Aの産生量が約9倍多く, 伝播性が顕著に高い特徴を持っている。2015~2024年に収集したemm1型株815株についてM1UK株の分離割合を調べた(図2)。emm1型815株中37.5%(306株)でM1UK株であった。各年の分離割合は, 2015年4.9%(2株), 2016年4.2%(3株), 2017年7.3%(4株), 2018年10.0%(7株), 2019年24.5%(23株), 2020年30.8%(4株), 2021年14.3%(1株), 2022年100%(1株), 2023年57.9%(33株), 2024年56.3%(228株)であり, 分離数の少なかった2020~2022年を除くと, 分離割合は増加傾向であった。特に, 2023年, 2024年は50%を超えていた。2019年以前のCOVID-19流行前とマスクの着用が個人の判断となった2023年以降を比較すると, M1UK株の分離割合は11.7%から56.5%に上昇していた。
STSSが近年増加していることから, どのような遺伝子型を示す株がこの感染症を引き起こしているか把握するためにも, さらなる調査が必要である。
参考文献
- Beall B, et al., J Clin Microbiol 34: 953-958, 1996
- Ikebe T, et al., Int J Infect Dis 142: 106954, 2024
国立健康危機管理研究機構
国立感染症研究所細菌第一部
池辺忠義 明田幸宏
大分県衛生環境研究センター
神田由子 佐々木麻里
山口県環境保健センター
大塚 仁
大阪健康安全基盤研究所
山口貴弘
富山県衛生研究所
池田佳歩
神奈川県衛生研究所
伊達佳美
東京都健康安全研究センター
奥野ルミ
福島県衛生研究所
賀澤 優