STSSの臨床的特徴とマネージメント
STSSの臨床的特徴とマネージメント
(IASR Vol. 46 p183-185: 2025年9月号)
STSSの臨床的特徴
STSS(streptococcal toxic shock syndrome:レンサ球菌性毒素ショック症候群)はA群溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus: GAS)を中心とするレンサ球菌が無菌部位に侵入して発症する急性敗血症性疾患である。日本の感染症法では, 劇症型溶血性レンサ球菌感染症として5類感染症に分類される。過去に先進国におけるSTSSの年間発生率は人口10万人当たり3-5例程度で推移していたが1,2), 近年はM1UK株等の強毒株の流行がみられ, 日本も含め世界的に感染者数が急増している。
典型的な症例における臨床的特徴としては, レンサ球菌の感染によってサイトカインストームが誘発され, 短時間で循環動態が破綻し, 多臓器不全へ進展する。突発する高熱等全身症状の変化とともに, びまん性の全身紅斑が現れ, 収縮期血圧90 mmHg以下の低血圧を呈し, 腎不全・肝障害・急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの多臓器不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)といった血液異常が急速に出現する。これらの症状は24~48時間で進行し, 致命率は30-40%に達する3)。手掌や足底部の落屑が症状発現の数日後に観察されることがある4)。
STSSはGASが主な起因菌だが, B群レンサ球菌(代表例:S. agalactiae)やG群・C群レンサ球菌(代表例:S. dysgalactiae)も起因菌となり得る5)。
臨床像は2つに大別される。1つは外傷等を契機とした細菌の侵入門戸が明らかな感染であり, もう1つは外表の損傷がなく, 深部組織に発生する感染である。前者におけるSTSSは皮膚軟部組織の感染など局所の感染徴候を示す。一方で, 後者では感染初期には明確に感染徴候のない局所の「激しい疼痛」のみが症状の場合がある。この場合は, 自覚症状としての疼痛が局所の感染徴候に12~24時間先行するとされるため, 明確な感染徴候や受傷起点のない, 局所の強い疼痛はSTSSを疑う臨床症状の1つであると認識するべきである。
STSSのリスク因子
高齢者, 糖尿病, アルコール依存, 妊婦や周産期の女性, 免疫不全者などが発症リスク因子である。一方で発症例の多くが健常者である。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用もSTSSのリスク因子とされるが, 好中球や敗血症の主要なメディエーターの抑制によるものか, 鎮痛作用による症状のマスクが診断・治療の遅延につながるのかは不明である。外科的処置や水痘罹患といった, 皮膚障害をきたす疾患も感染リスクとなるが, 皮膚破綻をともなう外傷だけではなく筋挫傷・捻挫・血腫などの深部組織損傷もSTSSを発症する契機となり得る。これは, 保菌者における一過性の菌血症が損傷部位に感染を引き起こすためとされる3)。
STSSの検査
無菌的部位からの培養検査が陽性となることで, 診断が確定する。STSSが疑われる患者では, 血液培養を少なくとも2セット採取する。血液培養で検出されるのは6-7割である。感染部位が特定されている場合は, 感染部位からも培養検体を採取する。感染部位のグラム染色で連鎖状のグラム陽性球菌が確認できれば, 早期診断に有用である。また診断的有用性は確立していないが, 感染部位検体のポイントオブケア検査(迅速抗原検査等)を利用した早期診断についての報告がある。CTやMRIといった画像検査は感染源の特定に有用であるが, 発症初期は画像初見とドレナージ時の肉眼的画像が一致しないことがある。重篤な全身状態に反して画像所見が不一致であったとしても, 壊死性筋膜炎等の診断および外科的デブリードのために, 遅滞なく外科的介入を行うことが重要である。
STSSの治療
迅速な感染源のデブリードメントと抗菌薬の開始が重要である。また, 敗血症性ショックの管理や多臓器障害に陥っている複数臓器の支持療法が行われる。外科的デブリードメントは感染範囲を明確にし, 感染源を除去するとともに, 深部の細菌培養を行うことにより診断を確定させることの価値もある。
抗菌薬の選択にあたって, 初期評価の段階では敗血症性ショックの原因をSTSSと断定はできないことも多い。そのため初期治療では, 救命を優先した広域抗菌薬の使用を考慮する。溶血性レンサ球菌の感染が確定した場合の第一選択薬はペニシリンである。詳細は国立健康危機管理研究機構による「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の診療指針」等を参考にする6)。
治療にあたって特徴的なのは, 細菌による外毒素とMタンパク質の産生を抑制するために, クリンダマイシンを追加することである。クリンダマイシンの治療に対する相加的効果について, 複数の観察研究によって報告されている。
近年, クリンダマイシン耐性GASの増加が問題となっている。日本国内におけるSTSS患者からの分離株のクリンダマイシン耐性は, 2013~2018年に9.0%と報告されている7)。一方で, 米国疾病予防管理センター(CDC)のActive Bacterial Core surveillanceによると, 同国のGASのクリンダマイシン耐性率は30%前後まで上昇しており, 近年の耐性化が著しい8)。クリンダマイシン耐性GASによるSTSSに対しても, 同薬剤の追加による相加的効果が期待できるかは不明であり, 今後の治療戦略に影響を与える可能性がある。
STSSに対して静注免疫グロブリン製剤を使用することに関して, 国内のガイドラインでは明確な推奨がない。過去には唯一のランダム化比較試験は患者登録の遅延から中止され, 主要評価項目に対する統計的優位性は得られなかった。この試験と複数の後方視的研究を含むメタ解析では, 死亡率の低下について示唆されているものの9), 海外における投与推奨量は初日1.0g/kg, 以降0.5g/kgと高用量であるのに対し, 国内では重症感染症に対する用量は最大で5.0gであり, 投与量に大きな差があることに注意が必要である。
STSSの感染対策
STSS患者への接触による二次的な感染のリスクについては不明な点が多いものの, 過去には院内感染の事例も報告されており10), 皮膚軟部組織病変をともなうSTSSに対しては飛沫感染予防策と接触感染予防策の実施が必要である。少なくとも抗菌薬投与後24時間が経過するまでは接触・飛沫感染予防策を行い, 壊死性筋膜炎など多量の滲出液をともなう病態では滲出液が出なくなる, あるいは培養陰性の確認まで感染対策を継続することを考慮する。
おわりに
STSSは急速進行性・高致死の感染症であり, 近年は流行株による感染数の増加が脅威となっている。早期の認知と, 迅速な外科的介入を含む集学的介入が重要であることを認識し, 救命率の向上を目指したい。
参考文献
- Nelson GE, et al., Clin Infect Dis 63: 478-486, 2016
- Plainvert C, et al., Clin Microbiol Infect 18: 702-710, 2012
- Stevens DL & Bryant AE, N Engl J Med 377: 2253-2265, 2017
- Drage LA, Mayo Clin Proc 74: 68-72, 1999
- Inada M, et al., Open Forum Infect Dis 11: ofae486, 2024
- 国立健康危機管理研究機構国立国際医療センター国際感染症センター, 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の診療指針
https://dcc-irs.jihs.go.jp/material/manual/stss.html - Ikebe T, et al., Int J Med Microbiol 311: 151496, 2021
- CDC, Active Bacterial Core surveillance(ABCs)
https://www.cdc.gov/abcs/index.html - Parks T, et al., Clin Infect Dis 67: 1434-1436, 2018
- Sablier F, et al., Lancet 375: 1052, 2010
国立健康危機管理研究機構
国立国際医療センター国際感染症センター
野本英俊